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金魚鉢の中から  作者: 睦月 葵
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サブカル文化で産湯をつかい・その一

 私の母方の従兄姉(いとこ)世代の半数の中でのみ、暗黙のうちに通じる隠語(いんご)がある。それは、『有明の海を見に行った(もしくは、見に行こう)』だ。

 おそらく、全国的な知名度からいえば、東京都江東区の有明を指すことになる。だが、私の生息区域のドライブ圏内には、別の意味で全国的に有名な海苔の産地である有明海があるのだ。つまりは、自分たちの親世代を誤魔化す為に、またその嗜好がないメンバーには通じないようにする為に、自然発生的に生まれた隠語だ。

 そう、要するに『有明の海を見に行った』とは、『有明ビッグサイトへ行った』という意味だ。何をしにと問うのも野暮な、一年に二回、関ヶ原の合戦より多くの人々が集まるという某有名イベントに、何らかの形で参加したという事を意味する。話が通じる従兄姉達はともかく、法事の時に会った従兄の子供がこの話題に参入するに至ると、「つくづくDNAに刻まれた相似ってヤツはさぁ……」という話題になったものだ。

 思えば、私などは、手塚アニメで産湯をつかった最後の世代だろう。幼少期から小学生までは、手塚アニメ・仮面ライダー・ウルトラマンが三巨頭で、途中でその他の特撮子供向け番組が加わり、合体ロボットアニメや魔女っ子ものと呼ばれる女の子向けアニメが登場した。

 テレビだけでもそういうことなので、同世代は漫画好きも多い。よく読むか全く読まないか、二極化していたと言っていいだろう。よく読む人々は、子供が成人し、孫が出来る年齢になっても、やはり読んでいたりもする。

 間違いなく、私もその一人だ。


 と、いう訳で、ただのタクシードライバーのおばちゃんと思って乗車して来られたお客さまに、思わぬジャブを入れてしまうこともあった。

 『五大ドーム』と銘打って行われるイベントの五つの中に入る野球ドームがあるので、年に数回は類似したイベントがある。当然、地元なので、過去に私も参加した事がある。だから、そんな私が運転するタクシーに、「すみません、ドームまでお願いします。遅れそうなので、少し急いでください」などと言って乗って来られると、「ドームですね。この時間でしたらサークル参加ですか? サークル入場口近くに着けましょうか?」とさらりと答えてしまい、お客さまに予期せぬダメージを与えてしまうのだ。

 何故ダメージになるのかは、どうして親世代や嗜好の違う人に自らの行動を明かさないようにするのかと、おそらく同じ理由だろう。

 世の中の多くの人に、『オタクになるのは、良くないことだ』、『漫画やアニメに熱を上げるのは、大人として恥ずかしいことだ』───という刷り込みがあるのだと思う。ここで語るまでもなく、世間の評判がそうなったのは各種事件があったからだろう。それに、引き籠もりのイメージ先行もあるかもしれない。

 けれども、オタクと呼ばれる人々にも各種あって、多くの人は日常的には普通の生活を送っている。それでも漫画やアニメやライトノベルが好きで、簡単に言うとファン活動の一環としてパロディ作品を作ったりコスプレをしたりと、余暇を楽しんでいるのだ。

 勿論、それらの活動に資金も労力も注いでいるのだが、それは他の趣味に熱を入れている人達と大して変わりはない。趣味嗜好が違えば会話が成り立たないのは、アイドルに熱を上げている人でも、音楽や釣りやスポーツに打ち込んでいる人でも変わらないと、私は感じる。


 現代において、アイドル文化やサブカルチャー文化は、海外にも広く輸出され、高評価を受けている日本独自の産業だと言ってもいいと思う。それらを最も低く評価しているのが、当の日本人だと思えるのは非常に残念なことだ。

 それでも、漫画やアニメや特撮は、多くの人が子供の頃に通った道なので、大人になった多くの人の原体験であり、普通に当たり前に生活している人々の中にも何らかの爪痕を残しているものだ。


 とある深夜の酔っているお客さまと、働くロボットとその進化の話になったことがあった。どこからその話になったかは覚えていないが、「ほんの二十年前にはSFのようだった先進技術が現実のものになりつつあり、働くロボットも驚くほど進化しているのは素晴らしいことだ」との話から、「でも、実はまだ夢は叶っていないんですよ」とその方は言った。「と、いいますと?」と私が問い返すと、「まだ二足歩行が出来ていないからです」とのこと。更に、「実のところ、働くロボットは二足歩行する必要はないんです」と。

 確かに、過酷な環境で働くロボットは、私が知る限りでは二足歩行はしない。それどころか、人型ロボットであることすら少ない。海外では特にそうだ。

 私がそう答えると、「そうなんです。だけど、多くのロボット開発者は二足歩行の研究をしている。特に日本人は───何故だか判りますか? それはですね、単に二足歩行を()()()()()()なんです」と。

 それを聞いて、私はカラカラと笑った。嘲笑(あざわら)ったわけではない。直球で理解できたから笑ったのである。

「日本人のロボットの原型はアトムですからね。確かに、二足歩行して欲しいですよね」

「そうそう、ただアトムに至るまでには、まだまだAIの開発が必要ですが、そろそろガンダムやパトレイバーはいけるんじゃないかと」

「一応、ガンダムは止めておきましょうよ、兵器ですから。パトレイバー的な物はいいですね。すると、オートバランサーは必須ということで、その辺は多少良くなっていますよね」

「そうそう、その辺はもうすぐですよ」

「私が現役の間に出来たら、一度は操縦してみたいですね。更に希望を言うなら、合体してみたいですね」

「合体か……。五台は無理でも、パイルダー・オンは可能じゃないですか?」

 まあ、ここまで話が通ったのだから、この時のお客さまは同世代だったのだろうと思う。正直に言おう。実に楽しい道行(みちゆき)だった。


 斯くも、日本のサブカル文化は夢を育てる。

 国民的漫画ドラえもんは発明の発想を与え、人と対等であるロボットのアトムはAIを育て、オタクを含める何かに熱中している人々は日本経済を回す。

 理想と現実は違うという見解の人々は多いが、それでもやはり夢と理想を持つ人々が未来を望むのだという、そんなお話。

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