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金魚鉢の中から  作者: 睦月 葵
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偽善者万歳

 たまたま通りすがった有名ビールメーカーの工場直営ビアガーデンで、四人の男性と同行することになった。

 歳の頃は三十代前半。別行動になった人達もいたようだったので、結構な人数での会合だったと推測される。しかも、活発な討論が行われたらしく、同行している間も延長戦は続いていた。

「だから、☆◎さんが言いたいのは、非営利団体なのに、なぜ経費が必要かってことだろ?」

「そうそう。そもそもスポンサーや寄付が必要だっていうのが納得いかないって───」

 しばらく黙って聞いていたが、概ねそんな話。

 私は、大体の論点がわかった時点で、やんわり口を挟んだ(本来の業務としては、余計な口を挟んではいけないことを、敢えて説明しておく)。

「それは、真面目に聞く必要のない話だと思いますよ?」

「え? オバチャン、どういうことですか?」

 気さくなお兄さん達なので黙認したが、初対面の女性をオバチャンと呼ぶ事はやめた方がいい。

 まあ、オバチャンなのだけど。

「今、聞いた話の範囲内での理解ですが、非営利団体ということは、なにかのNPO法人でいらっしゃるのでは?」

「そうです」

「───と、いうことは、内容は存じませんが、志を持って何らかの方法で、世の為・人の為に頑張っていらっしゃいますよね?」

「一生懸命、頑張っています」

 お兄さん達は、アルコールが入っている勢いもあるのか、熱い口調で主張する。

「それなら、気にする必要はありませんよ。給与や利益を必要としなかったとしても、人が動き・物が動けば、経費が発生します。ついでに言えば、NPOの人にだって給与は必要です。それを必要ないというのであれば、ただの暴論です。いい歳をした大人なのにそれが判らない人は、ただ難癖をつけたいだけのクレーマーに過ぎません。そんなのを相手にして、活動に必要なエネルギーを消費することありませんって」

「そうですよね、おかあさん!」

 おっと、オバチャンからおかあさんに昇格。

「自分が以前知っていた人で、子供達の為のとてもいいボランティアをしていた男性がいたのですが、あまりに善意がピュア過ぎて、お客さん達と同じような非難や偽善者呼ばわりに耐えられなくなって、行方不明になってしまったんです。ピュアが悪いことだとはいいませんが、手を離された子供達がどう思ったか……」

 おにいちゃん達の間に、同情心を伴う痛ましそうな空気が流れた。みんな、自分の経験のどこかで覚えがあることなのだろう。

 では、もうひと押し。

「嫌なことではありますが、良いことをしようとすると、必ず寄ってたかって非難する人達がいます。経費のこともありますが、多くは『偽善者』呼ばわりですよね。それで? 『偽善者』の何が悪いんですか? 『行動できない純粋な善人』より、『行動する偽善者』を必要としている人が居るのは確かなのですから、恥じる必要はどこにもないはず。志を持ち、何かを成そうとするのであれば、清濁を合わせ飲み、非難する人も支援してくれる人も良い意味で利用して、目的を達成するのが『行動する偽善者』の成すべきことだと思いますよ」

 狭い空間内が、しばし沈黙に包まれた。

 けれど、次の瞬間には拍手喝采。

「おねえさん、すごい。一体何者なんですか?」

 おや、今度はおねえさんに昇格。

 でもソレ、『お姉さん』ではなく、『お姐さん』なのだろう───いつもの如く。

「通りすがりの運転手です」

「いやいやいや、それはないでしょ。ありえないでしょ。うちの事務所で若いのに講演の一つもしてくださいよ」

「それは、うちの会社にオファーを出して、許可が出たらいいですよ。けど、知らない人に言われるより、お客さん達が感じたことを伝えた方が、お仲間には伝えられるのではないですか?」

 ───と、このあたりでお別れの時間を迎えた。


 商工会議所に戻っていった彼らは、その後どうしただろう。結局、何の活動をしているNPOなのか、聞きそびれてしまった。

 どちらにしても、頑張れ若人。

 本当は、『行動する偽善者』もまた険しい道程なのだが、良い事と悪い事を両方知らなければ、本当に強くはなれないと思う。それを求めて、私もまだまだ修行中の身だ。

 世の中を変えるのは政府ではなく、君たちなのだから。


 およそ、¥900ほどの移動時のお話。


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