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金魚鉢の中から  作者: 睦月 葵
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自爆する人々

 正直に告白しよう。私は、オカルト的な話は好きだ。

 怪談を含むUFOやUMOや、錬金術や神話や魔術的な話───と云えば、オタクジャンルに聞こえるだろうが(事実、そのジャンルも多少は含むが)、神話や宗教の発生、民族文化に興味があるのだ。


 二十四時間勤務の一日交代制シフトで働いていた時の事(現在は労働基準法により、二十四時間勤務は禁じられている)、初めてのお盆時期・八月十三日の深夜帯を含む勤務に就く日、超大先輩Mさんが声を低めて私に訊いた。

「深夜の川や海の近くでお客さんを乗せて、目的地に着いた時にお客さんが消えていたらどうする?」

「それって、後部座席が濡れていて、目的地には盆提灯が下がっているパターンですよね?」

「そうそう」

「そりゃあ、メーターを掛けた分の領収を切って盆提灯が下がっている家のインターホンを鳴らして、『今、お送りして来ました』って言って、家の人に料金を貰うに決まっているじゃないですか」

 と、平然と答え、「お前は可愛くない」だの「鬼か」だのと言われたものである。

 『だって、お盆に律儀に帰って来る仏さんなんて、善良なものじゃないですか』と返答して、大先輩方に呆れられたものだ。


 そんな私であるからして、お盆の時期には、笑いオチで終わる怪談を幾つも用意していたのだが、結局、深夜帯のお客さんには誰一人聞いて貰えなかった(←誰にも知られていないこのパターンもまた、サイレント自爆である)。


 新人年下女子同僚を揶揄ったM大先輩のように、タクシードライバーというのは、想像以上に与太話や噂話が好きなようで、社内であっても、油断していると事実無根の噂を流されることがある。これはまあ、勤務中は単独行動の上、お客さんの個人情報などを外部で話せない反動と言えなくもない。一方では、お客さんとも同僚とも碌に話をしない人もいるのだから、ハーフ&ハーフといったところだろう。


 そんな、お話好きな同僚おいちゃんの一人が、とある勤務終了時の朝に、半泣きで帰庫したことがあった。

 そのおいちゃんは、深夜に美味しい距離のお客さんを乗せ、全国的に有名な心霊スポットである峠の近くを通って(峠の問題の道は現在封鎖されているのだ)、自宅に送って来たのだそうだ。そして案の定、問題の場所近くで怪談話を盛り上げ、お客さんをきゃーきゃー言わせながら送り届けたのだという。

 そこで、当たり前の問題が発生する。

 タクシードライバーは、帰りは一人なのだ。

 行きはよいよい帰りは怖い───だからこそ、本当にヤバイ所を通る時には、心霊話はしない───コレ常識。

 一人になったとたん、最短距離である同じコースを考えた時、おいちゃんは初めて『ヤバイ』と思ったのだそうだ。話を盛り上げ過ぎた為に、自分までもが怖くなってしまったのである。


「それがあるから、みんなやらんとぞ」

 と、茶化す身に覚えがある面々───けれど、興味があるのは、別のことだ。

「それで? 同じ道を帰ってきたんか?」

「最短距離だもんなぁ。早く戻って来たら、もう一仕事できるしなぁ」

 ほぼ、返答を確信した上での問い掛けだった。

「───国道のバイパスまで出て、遠回りして帰ってきた」

 想像通りの答えに盛り上がるおいちゃん達───改めて言っておくが、長時間勤務を終えて無事に帰庫した面々は、この時間かなりのナチュラルハイに陥っている。

「このヘタレが」

「貴重なお客さんを怖がらせた以上、自分も同じ思いをせな」

「そげん怖いなら、話さんがよか」

 等々。

 おそらく、自分も同じことをしたことがある面々が、ここぞとばかりにおいちゃんを茶化しながら責めたて、すでに凹んでいるおいちゃんを追い詰めたりもする。

 こうして、自分がしたことに対して報いを受けることを、自爆というのである。怖い・落ち込む・追い打ちの三セットだ。


 売り上げに目が眩み、市街地だけを走っていれば問題はないのに、わざわざ積雪が確認されている山間の町まで送って行って、勤務時間内に帰ることが出来なかった上、スリップするタイヤに心臓が止まるような思いをした人。

 同じく売り上げに目が眩み、『チェーンの準備がある号車』と予約センターに呼びかけられ、わざわざチェーンを買いに行って、チェーン代の方が高くついた人。

 我々タクシードライバーは、時によりドライバー個人の考えで、その仕事を請け負うか請け負わないかの決断をしなければならないことがある。そして、『やっちまった』面々は、孤独から解放された瞬間(つまり会社に戻って来た時)、ついつい訊かれてもいないのに、自らの行いを告白してしまうのだ(そして、追い打ちを食らう)。


 何度自爆しても、それでも、次の勤務までには立ち直り、街中を彷徨いに出て行かなければならないのだから、精神的にタフでなければやっていけない仕事だったりもするのだった。


 一件のお客さまの運賃が、¥5000を越えようが¥10000を越えようが、リスクの計算はきちんとしましょうというお話。



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