出撃前夜
m(_ _)m
読んでください。
ありえるか!!!!
傭兵の契約を済ました直後に、目の前で依頼主の王冠を盗まれる。
こんな話が噂になったら、俺も仲間二人も失業だ。
すぐに追撃に入ったが、心の中では分かっていた。
無理だ。
追いつけない。
俺が謁見の間を出ようとした刹那、ハジメが話しかけてきた。
「古龍さん。これを使ってください。」と、腕輪を持ったハジメ。
いや…
この際、藁にもすがりたいが…
ヨボヨボになってチにたくない…
俺の心を読んだのか、ハジメは続けた。
「ご心配には及びません。このアイテムには、リスクは(ホトンド)ありません。さあ!!早く!!逃られてしまう!!!」
「すまん!借りる!!!」
人生には選択の余地が無いことがたまにある。
そして大抵の場合はろくでもない結果に終わる。
だからそう言う時は、『それは自分で考えた選択だ。』と思うようにしている。
そして後でこう言うのだ。
『あの時は良い考えだと思ったんだ。』
俺はハジメから受け取った腕輪を腕に巻き、奴を追いかけた。
とてつもない加速が始まった。
この感覚は?
地球にいた頃乗っていたバイクに近い。
こっちに来て、馬やらドラゴネット(小型の竜)やら乗ったことがあるが、これだけの発進加速は無い。
俺は、すぐに奴を見つけた。
あざやか過ぎる赤毛。
奴は窓から城の庭園へ飛び出す。
俺もあとを追い外に出た。
奴との距離を読む。
もらった!!!
差し馬のジョッキーが勝利を確信した瞬間って、こんな感じかも知れない。
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
奴は突然振り向くと、いきなり王冠を投げてききゃがった。
それもムチャクチャ厳しいパスだった。
俺は急制動をかける。
必死にジャンプ!!
体を伸ばし…
指を伸ばし…
中指の先が王冠を触った。
なんとか指先が…
インターセプト!!!
って、俺、空中じゃないか!!
知ってると思うが、宝石細工なんて華奢なもんだ。
ヘビーデューティには出来ていない。
俺は必死に王冠を腹で抱く。
着地点は???
助かった!!
平地だ!!!
俺は受け身を取り王冠の無事を確認し、頭を上げ奴を探すが。
姿は無い。
いや、いたと言う気配さえ無い。
最初からこの庭園には俺しかいなかったような。
まるで狐に抓まれたような気がする。
奴は何のためにこんな真似をしたのか?
王冠を投げるときも、苦労して手にした獲物を手放すとか言う感じはまるで無かった。
むしろ俺をからかって遊んでいるような。
とにかく。
戻ろう。
謁見の間に戻り王冠を王に返した俺は、いちやく英雄扱いだ。
小一時間のうちに、サイクロプスを仕留め、謎の怪盗から王冠を取り戻したのだ。
実際は、とても英雄って気分じゃない、
奴にはいいようにされた。
だがこう言う場合は英雄として振舞うのも礼儀だろう。
しかしその前に、ハジメと話をつけねばならない。
相場の三倍近くは…
高過ぎる。(泣
「腕輪を貸してくれる時、」俺は腕輪を返しながら尋ねた。「リスクの話をしたよな?」
「え、そうでしたっけ?」とハジメ。
「『リスクは(ホトンド)ありません』。確かにそう言った。」
「ああ。そのことでしたか。」と、惚ける。
「心配するな。」と俺。「こうして生きて帰ってこれた。怒らんよ。」
「この腕輪は僕のアイテムの中ではたいした物ではありません。」とハジメ。「人間の潜在能力を引き出すだけです。今夜は筋肉痛で眠れないかも知れませんが。」
「運動能力の安全装置を外す訳ですから、常用はまずいですが、緊急事態には役に立ちます。」
なんだ、まともなアイテムも持っているじゃないか。
それじゃあ本題に入るか。
「ところで武器の値段なんだが。」俺は切り出した。
「あの値段は、仕入れ代に手数料を加えただけです。特別サービスのお友達価格ってやつですから。」すぐに切り返された。「あれ以上は、まけようがありません。」
「しかし、あかしあの値段は…」俺は頑張った!!
「良い物は其れなりの値段です。」ハジメの表情は、『何を言ってるんです?』って感じ。
「第一、今、刀を振ってみて、何も気がつかなかったのですか?」とハジメ。丁寧な言い方だが、ここで刀を誉めねば、俺がたいした武芸者じゃないみたいじゃないか。
「確かに物はいい…しかし…」ま、負けるものか!!!
「そうですよね(ニコッ)。」と、にこやかなハジメの笑顔。
いや実際いい刀なんだって。
俺はこっちへ来て以来、ずっと日本刀を使っている。
はっきり言って最高の剣だ。
しかし、少しだけ不満があった。
こっちで使うには、僅かに短い。
刃の肉厚ももう少し欲しい。
なんせ戦う相手の殆どが怪物だし。
新しい刀は、ちょうど俺が思っていただけ、厚くて長いんだなこれが。
手にも馴染むし、バランスだって文句無しだ。
いかん、いかん。
これが奴の手だ。
「しかし刀一振りに三本分の値段は…」たとえ少しでも値切る…多分…
「まあ、どうしてもご納得いただけないのでしたら、相場の刀と取り替えますが。」ここでハジメ、絶妙のタイミングでナニワとマリオに、チラッと視線を。
二人とも…
クリスマスプレゼントをしっかりと握り締めた子供みたいな目で、俺を見てるじゃないか!
「わはははは…」突然に王の笑い声が。
「算盤が得意な武芸者に、ろくな者はおらん。のう、カークよ。」と王。
「はい。古龍殿は武骨を絵に描いたような武芸者。」と騎士団長。「算盤でハジメ殿に向かっても、討ち死にでしょう。」
「うむ。」王は続けた。「武骨な武芸者を雇えたことへの感謝として、そして先ほどの見事な働きの褒美として、その武器の金、ワシが払おう。」
どうやら一件落着した。
アヤちゃんは『良かったね。』って感じで俺を見ている。
こんはずじゃ…
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」ハジメが叫んだ。
なんだ????
「古龍さん。大変です。」真剣な様子「あの黄金のプレートが…無い…」
「今の奴だ。…
「しかし僕からスリ取ったのか???…
「有り得ない…
「でも実際に無いし…
俺はハジメの茫然唖然とした姿を見れて、少し嬉しかった。
取られたプレートは拾った物だし。
第一、黄金かどうかも分かっていない。
ハジメのこの姿を見れた件に関してだけは、赤毛の男に感謝の念を感じていた。
しっかしハジメの奴、真剣に怒ってやんの(プッ
「絶対に許せない…」ハジメの言葉が丁寧で静かなのがヤバい感じだ。喧嘩腰モードの時は怒りをコントロールしている感じなのだが。
ハジメの怒りをよそに、王と騎士団長は話を進める。
どうやら俺たちがハンマを目指しているとの情報を得て、俺たちの到着を待っていたらしい。
流石はハンマ王国。なかなか優れた情報部をお持ちのようで。
さっきの酒場で見た連中が、今回の征伐隊の平均レベルなら、俺たちの到着を待っていたのも分かる。
サムライウォーリアー古龍と言えば、それなりに名前が通っているのだ。
すでに魔道士二人は先行させている。
出撃は明日の午前7時に決まった。
何やら騎士団長とアヤちゃんが揉めてる。
カーク騎士団長。
「アヤちゃん、ダメだよ。明日だけはダメだ。」
「正直に言おう。今回の討伐隊の予想死傷率は20%だ。女の子の行くところじゃない。」
「大丈夫ですよ。騎士団長様。酒場のバイトが優先ですから。」とアヤちゃん。
まあ、その後も多少の打ち合わせがあったが、俺たちは城を後にした。
城門を出たところで、ハジメが話しかけて来た。
「古龍さん。申し訳ありませんが、僕は明日朝7時の出発には間に合いません。」
「また、どうしてだ?」と俺。「ハジメの分のギャラも契約には入ってるぞ。」
「王や騎士団長が思っているほど、楽な戦いにはならないと思います。」
「予想死傷率20%の読みが甘過ぎると言うのか?」
「はい。だから少し仕込みをする必要があります。傭兵のギャラは生きて帰って満額になります。生きて帰れなかった傭兵の後払い分は支払われない。僕たち4人分のギャラを確実に受け取るには、あと少々の仕込みが要ります。」
「分かった。王には俺から言っておく。」と俺。
「今日はこれで失礼いたします。」ハジメはあっさりと別方向に歩いて行った。
俺たちは、酒場の方へと歩いて行く。
俺、ナニワ、マリオ、アヤちゃん。
「ねえ。古龍さん。」とアヤちゃん。「まだ宿は決まってないんでしょう?」
「ああ。まだだ。」
「じゃあ、私が紹介してあげる。」笑顔が可愛い。
「今ね、傭兵さんや商人さんが多いから、紹介もないとろくな宿に泊まれないわよ。」
なんか嬉しそうだ(笑
アヤちゃんの紹介してくれた宿で、4人で食事をした。
アヤちゃんは家に帰り、俺たちは部屋へ。
風呂に入ったり、明日の支度をしたり。
ナニワとマリオは、また新しい武器を撫で回している。
武器についている宝玉の種類や、特別な使い方に関しては、ハジメは二人に教えてくれなかった。
そのレベルに達すれば、自然に分かると言っていた。
俺の刀に関しては宝玉とかは付いていなかったが、何か緊急の時に役立つ仕掛けがあると言っていた。
あの野郎、俺にもはっきり教えなかった。
値切ったことうらまれたかなぁ。
ナニワが話しかけてきた。
「ねえ古龍さん。あの赤毛の男のことなんですけど…」
「どうかしたか?」
ナニワは話し始めた。
「どう考えてもおかしいです。」
「城の財宝が目当てなら、夜にでもこっそり忍び込めばいい。」
「何もあんな時に。」
「いや、白昼に襲うとしても、古龍さんがいない時に襲えば、何の問題もないはず。」
マリオも話しはじめた。
「じゃあ、何が狙いか?」
「黄金(かも知れない)プレート?」
「でも酒場で拾ったばっかりでしょ?」
「酒場にあんな目立つ赤毛、居なかったと思う。」
お!
いいぞ。二人とも。
俺は話した。
「じゃ、目的は何だと思う?」
ナニワ。
「ハジメか、古龍さん。」
マリオ
「僕もそう思う。」
俺。
「かなり良い線いっているな。」
「ま、今のところ手掛かりが少な過ぎる。」
「今日は寝るぞ。明日は早い。」
・・・・・・・・・・・・・・・・
俺は目が覚めた。
気配を感じたからだ。
ナニワとマリオも同時に目を覚ましていた。
いや、この二人は気配を感じて起きてきた訳じゃない。
二人には警戒用の結界を張らせていたのだ。
それでも以前は目を覚さなかったが、最近はやるようになった。
ランプの灯りは芯を絞ってあるが、目は充分に慣れている。
俺は手話でサインを送る。
『二人とも窓ぎわへ。』
『表に伏兵がいないかチェック。』
『いなければ退路を確保。』
相手の出方を待つ。
どう来るか?
気配はドアの前だ。
そして…
ノックの音が…
m(_ _)m
読んでくださり、ありがとうございます。