サイクロプス
m(_ _)m
読んでください。
俺たちは城門の前で、サイクロプスと睨み合うことになった。
俺の武器は小刀が一本。
柄まで刺し込んでも、棘が刺さったほどの効果しかないだろう。
もし山の中で、バッタリ獣に出会っちまったら。
向こうも最初からこっちを襲うつもりは無く、出会い頭ってやつだったら。
取り敢えず気合で睨み合うのも戦術オプションのひとつだ。
これで助かる場合もある。
ダメだったら…
まあクレームは、自分か神様に言ってくれ。
睨み合いながら、城門との対比で奴の身長を測る。
7メートルってとこだな。
「魔法の準備をしますか?」ナニワが聞いてきた。
「ダメだ。下手に動くな。」俺は応えた。「奴が殴り合いを決心したら、ここまで数歩だ。」
俺は奴との視殺戦をしながら、奇妙な感覚を覚えていた。
「マリオ。」奴から視線ははずさす聞く。「サイクロプスの平均身長は10メートル前後のはずだったな?」
「ええ。間違いないです。」とマリオ。
「アヤちゃん。この辺りのサイクロプスは、他の地方と比べると小ぶりなのかい?」アヤちゃんに尋ねた。
「いえ。そんな事はないです。」可愛い声で応える。
やはりな……
視殺戦ってやつは、お互いの精神のぶつかり合いだ。
なんか、こいつの精神は柔らかいのだ。
まだガキか……
それなら納得だ、
ガキと分かったところで、こいつの危険度が下がった訳でもない。
あの手のひらを一振りすれば、古龍のピッツァが出来上がる。
グーで殴る必要もない。
「古龍さん。」ハジメが話しかけてきた。「手持ちのアイテムで役に立ちそうなのは、これしか無いんですが…」
俺は横目でハジメを見た。
3センチくらいの不気味な人形を持っていた。
人形には紐が付いていて、首飾りっぽい感じだが。
「何でもいい。効果が期待できるなら、すぐに始めてくれ。」
「では小刀をお借りします。」とハジメ。
俺は腰から鞘ごと抜いて、ハジメに手渡す。
ハジメは人形の紐を、器用に鍔のあたりに巻き付けて…
なんか、人形と喧嘩を始めた。
「おらぁ!!!分かってるだろうな!!!」ドスの効いた声音。本気モードだ。
「てめぇの力なんざ、借りたくねぇんだよ!!ホントなら!!」まじ喧嘩腰のハジメ。
「ええか???一瞬やぞ!!!一瞬!!!」
「それ以上やりやがったら、鍛冶屋の竃に叩き込むでぇ!!二度と日の目をみれると思わんときやぁ。」
ハジメは小刀を返してきた。
なんか、非常に嫌な予感がするんですが……
「おい!大丈夫なんだろうな?」小刀を腰に戻しながら訊いた。
「すみません。こいつの力なら、あの程度、わけないんですが…」とハジメ。柔らかな物腰に戻っている。
「何か問題があるのか?」と俺。あのハジメの態度は尋常じゃない。
「使用する者の命を使って技をふるうんです。」珍しく非常に言い難そうなハジメ。
俺はポカーンとした。
そう来ましたか。
「分かった。一瞬で決める。」俺は覚悟を決めた。「使い方は?」
「構えれば、そいつが教えてくれます。」
俺は静かに腰を沈め、抜刀術の構えをとる。
闘志が静かに沈み込み、あたまのなかがクールになってきた時、その声は聞こえてきた。
『イメージしろ。』
『お前の振るう刀の刀身は、20メートル。』
『その刃は光のように軽く、次元のように鋭い。』
俺の殺気が変化したのを感じたのか、奴が一歩、踏み出してきた。
同時に俺も走り出した。
20メートルの刃の間合いで抜刀すると、下から逆袈裟に斬り上げた。
俺の小刀の刀身から、文字通り光の刃が生まれていた。
刃は奴の胴体に滑り込む。
熱いナイフをバターに差し込む様な手応えだ。
いや、もっと滑らかか。
一瞬で刀を鞘に納める。
奴の肉体が逆袈裟の切り口で真っ二つになるのを、俺は現実感を喪失しながら見ていた。
出血は無い。
見ると、切り口は完全に炭化している。
とんでもないカロリーの高熱で切断したのか?
こりゃ。
もし、この力を自在に使えるなら。
俺って無敵??
こいつは少しばかり寿命が縮んでも、正当な支払いかも知れない。
どのみちこっちの世界には、年金制度なんてものは無い。
ハジメが俺の方に向かって走り寄ってくる。
ハジメの後ろには、ナニワ、マリオ、アヤちゃんと続く。
ハジメが若い連中より先頭ってことは、全力疾走以上の走りに思えるが。
ハジメは凄い勢いで、俺から人形を取りあげた。
やはりよほど貴重なアイテムだったか。
「てっめぇぇっ!!」ハジメは人形と喧嘩だ。「やりすぎなんだよ!!!あれほど念を押したよな!!!」
「おいおい。」俺は話しかけた。「これでも抜刀術の免許皆伝だぜ。一瞬で決めたろう。問題はない。」
ハジメは俺の全身を、何かを確認するように見回す。
「信じられません。」ハジメは言う。「もしかしたら、古龍さんは魔力を持っているのかも知れませんね。」
「いえ、必要ないと思って省略したのですが、使用者に魔力があれば、先ず、そっちから使ってくれるんです。足りない分は、命から削りますが。」
「しかし…古龍さんの潜在魔力は、魔王クラスなんでしょうか?」
腑に落ちない様子だ。
ハジメは続けた。
「以前、寿命が500年以上ある種族の者にこいつを使わせたことがあるんです。」
「使ったのは2秒弱ってとこでしたが、僕の目の前でたちまちヨボヨボになって死んじゃいました。」
神様。今からこの男を御許に送ります。
許してくれとは申しません。
しかし、この男が今すぐ斬り殺されるべきであることだけは、ご理解ください。
ピッピューッ♫
俺がハジメを全ての命の源に旅立たせようとした瞬間、口笛が聞こえた。
合図に使う旋律だ。
こういうのは、どの世界でも共通だな。
見ると、3人の男が立っていた。
3人ともマントを頭から被り、全身を隠していた。
「あ、遅かったじゃないですか?」ハジメが3人に話しかけた。
同時に城門が開き始める。
遅まきながら、城の騎士団の出撃だろう。
「あ〜〜っ。」ハジメが呟く。「同時に二箇所での交渉は…」
「古龍さん。皆さんの武器、あてがあるって言ったでしょう?」
「連中は僕の商売仲間です。」
「しかし、まいった……」
「古龍さん。申し訳ありませんが、城の連中との交渉、お任せしても宜しいでしょうか?」心配そうに聞いてきた。
俺は失笑した。
これでもサムライウォーリアーの古龍と言えば、それなりに名は通っている。
この手の交渉なら、手慣れたもんだ。
「ああ。任せてくれ。」俺は応えた。
「じゃ、今倒したサイクロプスと、酒場で仕留めた7人の料金は、別料金としてキャッシュで貰ってくださいね。頼みましたよ。」
「ちょっ、ちょっと待て。酒場の7人はハジメが起こした喧嘩だろう!」
「何を言っているんですかぁ?」呆れ顔のハジメ。「偽の紋章で有名傭兵団を騙り、王室の財産を巻き上げようとした詐欺師の一団を、王に代わって始末したんです。ちゃんと料金は貰っておいてくださいね。」
それだけ言うと、ハジメは3人組の方に走り寄って行った。
あの喧嘩……
最初から計算づくかぁ……
………
いや…
考えすぎだ…
疲れ気味だな……最近……
ふと、誰かに呼ばれたような気がした。
俺は何かの命ずるままに小刀を抜いた。
見るとはなしに刀身を眺めた。
!!!
俺の見ている前で、刀身は音も無く崩れ去っていく。
いや、砕けるとか、錆びるとか、そんなんじゃない。
まるで朝日を浴びたクリスト・ファー・リーの様に。
ナニワ、マリオ、アヤちゃんの3名も、声もなく見つめている。
そうか。
俺は理解した。
お前が身代わりになってくれたのか。
名匠の打った刀には、魂が宿ると言われているが。
俺は心の中で、相棒に別れと礼を告げた。
俺みたいな傭兵風情が持つべき刀じゃなかったのかもな。
お前は最高の相棒だった。
刀が完全に消え去る瞬間、微笑みかけられたような気がした。
城門が開ききると、中から騎士団が20名ほど出てきた。
遅まきながらのご出陣ってわけだ。
先頭の男が騎士団長だろう。
鎧も立派だし、風格もある。
「こ、これは、」騎士団長と思しき男が呻いた。「あなたが殺ったのですか?」
俺は無言で頷く。
穏やかな表情を心がける。
少しでも高く売り込まなくっちゃ。
「古龍さ〜ん。」3人と交渉中のハジメが、大きな声で話しかけてきた。「サイクロプスの死体は僕が貰います。そこんとこ宜しく。」
やれやれ…
俺は分かったと合図した。
m(_ _)m
読んでくださり、ありがとうございます。