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異界の風  作者: 獣王丸
3/23

サイクロプス

m(_ _)m

読んでください。

俺たちは城門の前で、サイクロプスと睨み合うことになった。

俺の武器は小刀が一本。

柄まで刺し込んでも、棘が刺さったほどの効果しかないだろう。


もし山の中で、バッタリ獣に出会っちまったら。

向こうも最初からこっちを襲うつもりは無く、出会い頭ってやつだったら。

取り敢えず気合で睨み合うのも戦術オプションのひとつだ。

これで助かる場合もある。


ダメだったら…

まあクレームは、自分か神様に言ってくれ。


睨み合いながら、城門との対比で奴の身長を測る。

7メートルってとこだな。


「魔法の準備をしますか?」ナニワが聞いてきた。


「ダメだ。下手に動くな。」俺は応えた。「奴が殴り合いを決心したら、ここまで数歩だ。」


俺は奴との視殺戦をしながら、奇妙な感覚を覚えていた。


「マリオ。」奴から視線ははずさす聞く。「サイクロプスの平均身長は10メートル前後のはずだったな?」


「ええ。間違いないです。」とマリオ。


「アヤちゃん。この辺りのサイクロプスは、他の地方と比べると小ぶりなのかい?」アヤちゃんに尋ねた。


「いえ。そんな事はないです。」可愛い声で応える。


やはりな……

視殺戦ってやつは、お互いの精神のぶつかり合いだ。

なんか、こいつの精神は柔らかいのだ。

まだガキか……

それなら納得だ、


ガキと分かったところで、こいつの危険度が下がった訳でもない。

あの手のひらを一振りすれば、古龍のピッツァが出来上がる。

グーで殴る必要もない。


「古龍さん。」ハジメが話しかけてきた。「手持ちのアイテムで役に立ちそうなのは、これしか無いんですが…」


俺は横目でハジメを見た。

3センチくらいの不気味な人形を持っていた。

人形には紐が付いていて、首飾りっぽい感じだが。


「何でもいい。効果が期待できるなら、すぐに始めてくれ。」


「では小刀をお借りします。」とハジメ。

俺は腰から鞘ごと抜いて、ハジメに手渡す。

ハジメは人形の紐を、器用に(つば)のあたりに巻き付けて…

なんか、人形と喧嘩を始めた。


「おらぁ!!!分かってるだろうな!!!」ドスの効いた声音。本気モードだ。

「てめぇの力なんざ、借りたくねぇんだよ!!ホントなら!!」まじ喧嘩腰のハジメ。

「ええか???一瞬やぞ!!!一瞬!!!」

「それ以上やりやがったら、鍛冶屋の(かまど)に叩き込むでぇ!!二度と日の目をみれると思わんときやぁ。」


ハジメは小刀を返してきた。


なんか、非常に嫌な予感がするんですが……


「おい!大丈夫なんだろうな?」小刀を腰に戻しながら訊いた。


「すみません。こいつの力なら、あの程度、わけないんですが…」とハジメ。柔らかな物腰に戻っている。


「何か問題があるのか?」と俺。あのハジメの態度は尋常じゃない。


「使用する者の命を使って技をふるうんです。」珍しく非常に言い難そうなハジメ。


俺はポカーンとした。

そう来ましたか。


「分かった。一瞬で決める。」俺は覚悟を決めた。「使い方は?」


「構えれば、そいつが教えてくれます。」


俺は静かに腰を沈め、抜刀術の構えをとる。

闘志が静かに沈み込み、あたまのなかがクールになってきた時、その声は聞こえてきた。


『イメージしろ。』

『お前の振るう刀の刀身は、20メートル。』

『その(やいば)は光のように軽く、次元のように鋭い。』


俺の殺気が変化したのを感じたのか、奴が一歩、踏み出してきた。

同時に俺も走り出した。

20メートルの(やいば)の間合いで抜刀すると、下から逆袈裟に斬り上げた。


俺の小刀の刀身から、文字通り光の(やいば)が生まれていた。

刃は奴の胴体に滑り込む。

熱いナイフをバターに差し込む様な手応えだ。

いや、もっと滑らかか。


一瞬で刀を鞘に納める。

奴の肉体が逆袈裟の切り口で真っ二つになるのを、俺は現実感を喪失しながら見ていた。

出血は無い。

見ると、切り口は完全に炭化している。

とんでもないカロリーの高熱で切断したのか?


こりゃ。

もし、この力を自在に使えるなら。

俺って無敵??


こいつは少しばかり寿命が縮んでも、正当な支払いかも知れない。

どのみちこっちの世界には、年金制度なんてものは無い。


ハジメが俺の方に向かって走り寄ってくる。

ハジメの後ろには、ナニワ、マリオ、アヤちゃんと続く。

ハジメが若い連中より先頭ってことは、全力疾走以上の走りに思えるが。


ハジメは凄い勢いで、俺から人形を取りあげた。

やはりよほど貴重なアイテムだったか。


「てっめぇぇっ!!」ハジメは人形と喧嘩だ。「やりすぎなんだよ!!!あれほど念を押したよな!!!」


「おいおい。」俺は話しかけた。「これでも抜刀術の免許皆伝だぜ。一瞬で決めたろう。問題はない。」


ハジメは俺の全身を、何かを確認するように見回す。


「信じられません。」ハジメは言う。「もしかしたら、古龍さんは魔力を持っているのかも知れませんね。」

「いえ、必要ないと思って省略したのですが、使用者に魔力があれば、先ず、そっちから使ってくれるんです。足りない分は、命から削りますが。」

「しかし…古龍さんの潜在魔力は、魔王クラスなんでしょうか?」

腑に落ちない様子だ。


ハジメは続けた。

「以前、寿命が500年以上ある種族の者にこいつを使わせたことがあるんです。」

「使ったのは2秒弱ってとこでしたが、僕の目の前でたちまちヨボヨボになって死んじゃいました。」


神様。今からこの男を御許に送ります。

許してくれとは申しません。

しかし、この男が今すぐ斬り殺されるべきであることだけは、ご理解ください。


ピッピューッ♫

俺がハジメを全ての命の源に旅立たせようとした瞬間、口笛が聞こえた。

合図に使う旋律だ。

こういうのは、どの世界でも共通だな。

見ると、3人の男が立っていた。

3人ともマントを頭から被り、全身を隠していた。


「あ、遅かったじゃないですか?」ハジメが3人に話しかけた。

同時に城門が開き始める。

遅まきながら、城の騎士団の出撃だろう。


「あ〜〜っ。」ハジメが呟く。「同時に二箇所での交渉は…」

「古龍さん。皆さんの武器、あてがあるって言ったでしょう?」

「連中は僕の商売仲間です。」

「しかし、まいった……」

「古龍さん。申し訳ありませんが、城の連中との交渉、お任せしても宜しいでしょうか?」心配そうに聞いてきた。


俺は失笑した。

これでもサムライウォーリアーの古龍と言えば、それなりに名は通っている。

この手の交渉なら、手慣れたもんだ。


「ああ。任せてくれ。」俺は応えた。


「じゃ、今倒したサイクロプスと、酒場で仕留めた7人の料金は、別料金としてキャッシュで貰ってくださいね。頼みましたよ。」


「ちょっ、ちょっと待て。酒場の7人はハジメが起こした喧嘩だろう!」


「何を言っているんですかぁ?」呆れ顔のハジメ。「偽の紋章(エンブレム)で有名傭兵団を騙り、王室の財産を巻き上げようとした詐欺師の一団を、王に代わって始末したんです。ちゃんと料金は貰っておいてくださいね。」

それだけ言うと、ハジメは3人組の方に走り寄って行った。


あの喧嘩……

最初から計算づくかぁ……


………


いや…

考えすぎだ…

疲れ気味だな……最近……


ふと、誰かに呼ばれたような気がした。

俺は何かの命ずるままに小刀を抜いた。

見るとはなしに刀身を眺めた。

!!!

俺の見ている前で、刀身は音も無く崩れ去っていく。

いや、砕けるとか、錆びるとか、そんなんじゃない。

まるで朝日を浴びたクリスト・ファー・リーの様に。

ナニワ、マリオ、アヤちゃんの3名も、声もなく見つめている。


そうか。

俺は理解した。

お前が身代わりになってくれたのか。

名匠の打った刀には、魂が宿ると言われているが。

俺は心の中で、相棒に別れと礼を告げた。

俺みたいな傭兵風情が持つべき刀じゃなかったのかもな。

お前は最高の相棒だった。

刀が完全に消え去る瞬間、微笑みかけられたような気がした。


城門が開ききると、中から騎士団が20名ほど出てきた。

遅まきながらのご出陣ってわけだ。

先頭の男が騎士団長だろう。

鎧も立派だし、風格もある。


「こ、これは、」騎士団長と思しき男が呻いた。「あなたが殺ったのですか?」


俺は無言で頷く(うなづく)

穏やかな表情を心がける。

少しでも高く売り込まなくっちゃ。


「古龍さ〜ん。」3人と交渉中のハジメが、大きな声で話しかけてきた。「サイクロプスの死体は僕が貰います。そこんとこ宜しく。」


やれやれ…


俺は分かったと合図した。

m(_ _)m

読んでくださり、ありがとうございます。

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