ゴブリン
TRPGとは、テーブル・ロール・プレイング・ゲームの略です。
「あ、私のことは、王虎と呼んでくれたまえ。」
魔界の王位継承権34位との、突然の邂逅に、一同は放心状態。
現在、魔界の支配者は魔王邪夢。
王位継承権を持つ者は999人いる。
世界中のRPGのラスボスを999人並べてみましたって感じだ。
実際には、遙かにヤバい999人なのだが。
だから王虎に対し、どう応じて良いのか分からなかった。
・・・・ケイをのぞいては。・・・・・
ケイは、半分テンパリながらも、なんか、この超上的な状況が、楽しくなってきたらしい。
テンションもマックスだ。
「申し遅れました。王虎さん。僕はこう言う者です。」
いきなり名刺を渡した。
◎◎プロダクション所属タレント
諸星ケイ
興奮と癒しで、貴女の心をロックオン!
もちろん、顔写真も、メールアドレスも、営業用の電話番号まで、しっかり記載されている。
『さっきの鏡の女神(?)との遣り取りを聞いていると、俺が跳ばされて来たのも、王虎さんに関係あるっぽいな。』
『どこぞの王子さまっぽいし。』
『取り敢えず、仲良くしておこうっと。』
『ん?アヤさんと知り合いとか。魔王?・・焼酎か?・・・飲み友達?・・な訳ねぇか』
『二人がどう言う関係かは分からないけど、俺は女性の味方に決まっているんで、ま、いいか・・・』
アヤは言った。
「おじさん・・・王虎って名前だったんだ。」
「今回も何か企んでいるの?」
「あの時、私の両親を殺し、村を焼き払ったみたいにね!!!」
アヤは年齢を重ねるにつれ、事実を知るようになっていた。
王虎による虐殺は、ハンマでは余りにも有名だったからだ。
アヤが虐殺の生き残りであることを知らない者は、何もかも話してしまっていた。
幼いアヤには、残酷過ぎた。
戮目珠を与えてくれたおじさんが、両親を殺した張本人だったとは・・・・
「あの時、殺してくれれば良かったんだ・・・・」
アヤの頬を涙がつたう。
独りぼっちの心細さ、惨めさ。
強くなるための単独修行。
いや、それよりも、幼くして両親を失った自分の、たった一人のお友達であり、家族でもあった戮目珠。
戮目珠をくれたおじさん・・・
いつか、きっと、私を迎えに来てくれると信じていた・・
それはアヤにとって、幼い初恋とも言える慕情だった。
王虎は話し始めた。
「そうか・・・・
「私を怨めるだけの年になったか・・・・・・」
「猿山の天辺に登りたがる奴がいる限り、戦争で両親を亡くす子供がいなくなる事はない。」
「まあ、私がボス猿になったら、解決方法を検討してみよう。」
「ところでケイ君。」
王虎は、赤と青、二個の宝玉を取り出した。
一つは、ピジョンブラッドと呼ばれるルビーの様な赤。
もう一つは、最高級のサファイアの様な青。
王虎はジャグラーの様に、あざやかに二つの宝玉を左右の手の間で行き来させると、両の拳をケイに向かって差し出して来た。
「ケイ君。」
「名刺のお礼と言ってはなんだが・・・・」
「好きな方を選びたまえ。」
「君の運命が入っている。」
ケイは思った。
『ああ・・・見えてきた・・・』
『このインテリ野郎・・人の良さそうなツラして、とんでもなく性悪な奴ってか?』
ケイは王虎を睨み付けると涙を流すアヤに近寄り、そっとハンカチを差し出した。
「君に涙は似合わない。」
ケイはめちゃくちゃ頭に来ていた。
親を殺された・・・だと?
ちょっと聞いただけじゃ、とても信じられない話だが、アヤの表情からは、嘘なんか少しも感じられなかった。
『商売柄、人を見る目だけは自信を持っていたが、どうやら色々あって曇っていたらしい。』
『王虎と仲良くしようとか・・・』
「ふ・・・俺の運命だ?あんたが握ってるたぁ驚いたな・・・」
「俺は女を泣かせる奴が大嫌いなんだ!」
「泣かせるくらいなら最後までダマし通して夢を見せとくのが男ってもんだろ!」
「赤だろうが青だろうが、どっちにしろ俺は上手くやって行くさ!」
この時、ケイが何をする気だったのか?
もし、レッド、ナニワ、マリオの三人が気付いていたら、間違いなくケイを取り押さえていただろう。
『選ぶ前にこいつ・・・・ぶん殴ってやる!』
ケイの所属する事務所のプロフィールには、柔道黒帯と書かれている。
しかし実は、総合格闘技もやっていたのだ。
経歴に総合格闘技とか書くと、ウザいユ◯チ◯◯バーにウザ絡みされるのだ。
なんせ人気商売。
そこのところは、隠されている。
ケイはツカツカと王虎に歩みより、手加減抜きの右ストレートを。
『あれ???』
『何これ?何これ??』
ケイのパンチは当たったはず。そもそもケイは思い切り踏み込んだし、王虎は動いてもいない。
王虎の左手にはいつ抜き取ったのかケイのスマホが握られていた。
『あれ???俺のグーパン??いつの間にかスマホ取られているし???』
『もしかして、俺、これからちょっとイタイか・・・?』
通りがかり妖精ハリセン。
誰もその存在を感知出来ない。
『・・・うわぁ・・・痛いで済む訳が・・・チンだな・・・』
「はっはっはっ・・・
王虎は笑い出した。
「ケイ君、気に入ったよ。」
「何千年ぶり、いや何万年ぶりかな?」
「私の顔を直接ハリに来る相手と出会ったのは。」
「この二つの宝玉を、君に理解出来るように言えば、魔力の結晶体のようなものだ。」
「片方へは死への扉を、もう片方には明日への希望を記しておいたのだが。」
王虎が左手にケイのスマホを持ったまま、右手に赤と青の宝玉をだし、パンと手を閉じると、二つの宝玉は、ケイのスマホに統合された。
王虎は、合わせていた両の手を開いた。
「ケイ君。この奇妙な道具は、君の物だ。」
王虎は続けた。
「ケイ君。次に会う時に、善とは何か?悪とは何か?私に教えてくれたまえ。」
「それと・・・
「いや、ここから先の答は、自分自身で掴むしかないだろう。」
「君たちを友人の元へと送ってやろう。」
「どの友人の元へかは・・・・」
特に魔力を使ったそぶりも無かったが、アヤ、レッド、ナニワ、マリオ、ケイの五人は転送された。
王虎に宝玉と統合して貰ったスマホを握りしめながら、ケイは思いっきり怒鳴っていた。
「礼は言わねぇぞ!魔力だか何だか知らねぇが、このスマホ、精々利用させてもらうさ!」
「貰える物は貰っておく。これ、芸能人の基本ってやつだからな!」
「それと次に会う時には、クイズの答えと、お前に女性の扱い方ってやつを教えてやる。女性っていうのはもっと・・・・
ケイの精一杯の『決めゼリフ』だったが、誰も聞くものは無かった。
転送途中の亜空間に、虚しく吸い込まれていった。
アヤ、レッド、ナニワ、マリオの四人は、元の位置に戻された。
マリオが呟く。
「しっかーっしー・・・」
「怖いもの知らずって言うか・・・・」
「盲、蛇に怖じずって言うべきか・・・・」
「よく、殺されなかったよな。ケイさん。」
「あれ?ケイさんがいない?」
レッドとナニワも慌ててケイを探すが・・・・
いない。
アヤは、ケイがいなくなった事にも気づいていないようだ。
何か思いつめている。
アヤは戮目珠に言った。
「戮目珠。私はさっきのおじさんと、どうしてももう一度会いたい。」
「話さなきゃならないことがあるの。」
「お願い!!連れて行って!!」
戮目珠はアヤの目の前に浮いて、暫く見つめ合っていたが。
やがてアヤを導くように洞窟の奥へと進み始めた。
アヤはそれを追いかける。
「アヤちゃん!!待って!!!」ナニワが叫んだ。
レッドが指示を出す。
「二人とも。悪いがアヤを追ってくれ。」
「私は、ケイを探してみる。」
「こっちに来て、いきなり魔物の洞窟でおっぽり出されたら・・・」
「一緒に転送されたんだ。たぶん近くだ。」
「アヤの方は頼んだぞ!!!」
ナニワとマリオは、アヤを追った。
その頃、カークたち一行。
狂鬼がボヤき始めた。
「そろそろ来ますよ・・・
「今度の敵はゴブリンです・・・・
「数は多いですよ・・・
「特別に教えてあげましょうか?
「50匹くらいいますね・・・
「さてさてサライさんの仕掛けたトラップ・・・・
「通用すれば良いのですが・・・
サライの指が、僅かに動く。
糸に反応が。
「来る。」
指先を、カーク達にも気づかれない程度に動かす。
五匹・・・・
七匹・・・・・・
一本目は切れた。しかし、十数匹は、倒すか深手を負わせた。
「どうやら強行突破を狙っている。」
「騎士団長。トラップには、私だけが通れる通路を作ってある。」
「私はその道を移動しながら、殲滅戦を仕掛ける。」
「騎士団長には、魔道士たちの直衛を頼む。」
カークは応える。
「こっちは気にせず、存分にやってくれ。」
狂鬼。
「ご一緒します・・・
「まだサライさんに死なれては・・・
「私が叱れれてしまいます・・
サライ。
「勝手にしろ。」
「ただし、少しでも邪魔をしたら、その場で殺す。」
音も無くサライが移動する。
前方で妙な音が。
何か荷物の様な物が落ちてきた様な。
ケイが地面に激突していた。
顔面から・・・・
『畜生!!!!』
『王虎の野郎!!!』
『絶対、わざとだ!!!!』
「いい加減にしてくれよ…まったく。」
ケイは懐から煙草とジッポーを取り出し、一服しようとする。
シュボッ。
ファンから貰ったジッポーが辺りを照らした。
『ん?今なんか動いた様な気がした・・・』
くわえ煙草のまま、もう一度ジッポーに火を付けて辺りを照らす。
「ギィ…ギギ…」
『んなっ?!なな、なんか居る!!ちっこい…おっさんみたいのが・・・・』
ケイは焦りつつ、ジッポーの明かりで周りを確認する。
「は・・・・ははは」なんとケイは、ちっさいおっさん達に囲まれていた。
『なんか、見たことあるような・・・』
『TRPGに出てくるゴブリン・・・・そう、ゴブリンだ!』
「ウギ!ギィ〜」
『やばい・・・どんどん迫って来る!どうする?俺?』
その時、狭い洞窟内で大音響が鳴り響いた!
「おわっびびった!」
音源はケイのスマホだった。
『こんな時に誰だ!!ん?奴ら固まってるぞ?・・・い、今だ!取り敢えず逃げるぞ〜』
ケイは正面にいた奴を数匹蹴散らしながら、死に物狂いで駆け出した。
「ウギャギャ〜!!」
我に返ったのか、ゴブリン達も追いかけてくる・・・
「俺を走らせるなぁぁちくしょう〜!!」
暗い洞窟の中、得体の知れない鬼ごっこがスタートした。
サライは、糸の奇妙な反応に戸惑っていた。
『・・・?様子がおかしい。向かって来ている筈のゴブリンの感触が糸から消えた。これは・・・?』
ゴブリンとは違う質量を指先に感じた。
『新手か?だが正体も解らず攻撃をするのは危険だ。』
サライは向かって来る何かを傷付けずに糸を絡み付ける。
姿を見て敵だと確認できたら、直ぐに攻撃出来るように。
・・・
・・・・・
・・・・・・・・・・
来る!!!!!
失敗すれば、待つ結果は破滅だ。
サライは、慎重に糸の反応を探る。
糸が伝えて来る罠への闖入者。どんどんこちらに寄って来た。
「ぜぇぜぇ・・・し、死ぬ〜」ケイのちょっと後ろからは気味の悪いゴブリン達が迫って来ていた。
『そうだ!!』
ケイはスマホを取り出し、音楽ソフトを立ち上げ最大ボリュームで鳴らした!
「くらえ!!俺のハードロックコレクションから、全曲メドレー!!」
「ギギギギィィィィ!」
ゴブリン達は、洞窟内に響く音に反応して、パニックを起こしていた。
『どうだうるさいだろう!・・・俺も耳が痛え・・・』
ケイはこの隙にスタコラ逃げ出し、曲がり角を曲がった。
ーシュルルルー
!?
『なんだ?糸?』
ケイの身体に、糸みたいなもんが絡み付いてきた。
『今度は何なんだ〜!』
ケイは体に糸を巻き付けながらも、必死で進んで行く。
と・・・人影が見えた。
『人だ!誰か居るじゃないか!第一村人発見!!』
と少し喜んだ矢先に、糸がケイを締め付けた。
「くっ苦し」
「何者だ?」サライが叫ぶ。
「あっあんたこそ何者だぁ!」
じたばたする程、糸はケイの身体を絞め上げてくる。
「俺は見た目は怪しいが、怪しい者じゃないぞ!!」
ケイは必死になって弁解する。
ケイの後方から、ゴブリン共の声が聞こえてきた。
『やべぇ。なんとか糸を解いてもらわないと・・・!えぇいちくしょう!』
「おい、あんた。耳を塞いでいろよ。」
ケイは縛られた状態から器用にスマホを操作し、ハードロックを鳴り響かせる。
ゴブリンの気配が、少しだけ遠ざかる。
『ちっ!知恵付けやがって!こっちの様子を伺ってんなぁ・・・
「なぁ、取り敢えず、コレを解いてくれよ!変なのが後ろに居るんだ。時間稼ぎも、あんまりもたないぞ。」
ケイは目の前の人間(?)を説得にかかった。
流石のサライも、判断を迷う展開だ。
『!?糸の感触が、また遠ざかった。耳が痛いがこいつ・・・』
糸を外せと騒ぐ、『自称怪しくない奴』。
糸を外すべきか?
サライの頭脳は目紛しく回転する。
『自称怪しくない奴』を縛り上げた糸は、他の糸と分離させた。
これにより、『自称怪しくない奴』は、地面に転がっているだけ。
『自称怪しくない奴』を避けて、後方のゴブリンに張り廻らせた糸に巻き付ける。
そのまま指先を少し動かして息の根を止める。
さらに前面にいた数匹が、断末魔の悲鳴を上げ崩れ落ちた。
まだ半数は残っている。
妙な大音響が響き渡っているためか、ゴブリン共はそれ以上近寄って来ない。
一応、得体の知れない男も、役だっている訳か。
片手にナイフを取り出し、片手に糸を纏めて、『自称怪しくない奴』にサライは怒鳴った。
「正体が知れない以上、ゴブリン共を倒すまで、お前を放す訳にはいかない。」
音はまだ鳴り響き渡っている。
ゴブリン達の注意は、縛られて転がっているケイに向いている。」
サライは、呼吸法を暗殺術の中の瞬殺術のものに切り換えた。
一気に糸をゴブリンに絡ませ、間合いを詰める。
いや、詰めるなんて生優しいものではなかった。
ゴブリン達には見えないであろう駿足。
瞬殺術では、相手の目に止まらぬ速さが命。
呼吸法で一時的に身体能力を高める。
糸を使いつつ、ナイフで仕留める。
狙うは急所。
一撃で仕留めなければ、こちらの命はない。
それがサライの使う暗殺術の心得。
糸を使うのは、多人数を相手にする場合。
あるいは、追っ手やガードに対するトラップとしてだ。
だが、この駿足法は、体力の消耗も激しいのだ。
放置プレイ中のケイ。
『おいおいっ放してくれないのかよう〜。』
『だぁぁ!どうしろってんだっ!』
「ウギギィ〜」
心の中で悪態をつくケイの間近で、、数匹のゴブリンがバタバタと倒れていった。
『お?…死んでんのか?』自由の効く方の足で、チョンチョンと目の前の奴を突っついいてみる。
『うわぁ〜キモい!!泡吹いて死んでる』
「おい、こいつ死んでるぞ…ってあれ?」
さっきまでケイの目の前に居た『第一村人』の姿が見えない。
ーヒュッ!ー
ケイの横を風が通り抜ける。
「ギャギャギャー!!」
あれよあれよと、ゴブリンが死んで行く。
「ななななな、なんなんだぁ?」
一瞬、ほんの一瞬だが、ケイはゴブリンの群れの中に『第一村人』を見た。
『マジかよ・・・アイツがやってんのかよ?』
『すげぇ・・・こうしてる間にもどんどん奴らの数が減っていく。アイツの動きが速すぎて、ゴブリンが勝手に死んで行っているように見える。』
『あいつ、50メートル、何秒なんだろう?きっと俺より早いんだろうなぁ〜。』
ケイがアホな事を考えていると、
「シギャァァ!」
群れから流れて来たゴブリンが一匹、ケイに飛び掛かってきた!
「もう、ええっちゅうねん!」
ケイはそいつのアゴらしき部分を狙って、思いっきりキックを入れた。
総合格闘技では、倒れた状態からの蹴り技も豊富だ。
「アホか!オマエは!」
ケイは、ぺしゃっと這いつくばったそいつの後頭部を、ブランド物の靴のカカトで踏みつけた。
「・・・・」
ゴブリンはそのまま、ウンともスンとも言わなくなった。
「必殺!!ノリ突っ込み二段キッ〜〜ック!!!」
総合格闘技にそんな技は無い。
もしかして、お笑いバラエティ番組も出来るってアピール?
ケイが芸域の広さをアピールしている間も、サライの頭脳は猛スピードで計算を続ける。
かなりの数をナイフで仕留めたため、充分な数の糸が生きている。
サライはナイフを鞘に戻し、両手で糸を持つ。
『陽動が欲しいな。』
その様子を見ているケイ。
『なんか肩で息しているな。』
『この数を一人で始末したんだから、当たり前か。』
『もう一度、『怪しくない人』アピールして、共闘を持ちかけてみるか。』
「なあ!あんた!俺と手組まないか?」
ケイはサライに向かって言った。
「取り敢えずさぁ…こいつらどうにかしないと、ゆっくり話も出来ないし。」
内心、信用してくれるかドキドキものだったが、今のケイには、それが精一杯だった。
サライがケイに聞く。
「何か作戦でもあるのか?」
『しまったー!ノープランじゃん。俺。』
『必死に考えろ。』
『スマホの音楽は、もうダメだな。あいつら慣れてきやがった。』
『俺の持ってる物・・・ジッポ・・・煙草・・・・名刺・・・』
『そうだ!』
ケイの頭の中に、ひとつのアイデアが閃いた。
『やばい。俺って策士になれるかも・・・・素敵だなぁ・・俺・・』
「いい事、思いついたぞ。」ケイは自信まんまんで言った。「こいつらの注意を俺が全力で引きつけるから、あんたがその隙を突いてぶっ倒してくれ。」
「出来るか?」
『何はともあれ、糸を解いてもらわねぇと何にも出来ねぇ〜。』
「俺はあんたに命を預ける。あんたは、ちょっとだけでいいから、俺を信用してみないか?」
流石は芸能人。
売り出し前だけど。
口先勝負で、ハジメに対抗できるかも?
サライは糸を解いた。
「終わったら説明してもらうぞ。」
「ん〜肩こった。」
ケイはポキポキとストレッチングしながら、辺りを見回す。
『ここからは見えないが、まだ何人かいるのか?まぁいいか。』
「さぁてゴブちゃん達。これ、なぁんだ?」
ケイはポケットからジッポーを取り出し、チラチラ見せびらかした。
「ギギギ・・・」
「手品見せてやろうか?」
ケイは身に付けていたマフラーを外し、ジッポーで火を付けた。
化学繊維は激しく燃えた。
ケイはそれで近くにいたゴブリンの顔を叩いた。
「グギャァァァァ!!」
相当熱かったのか、そいつは地面を転げ回った。
「ケイ様と呼べー!」
燃えるマフラーを振り回しながら、群れの中に進んで行く。
さらにスマホを取り出し、フラッシュ機能で目潰しに出た。
「おらおらっ!これでも喰らえ!」
「シギャー」
切れたゴブリンが反撃して来る。
化学繊維の燃える炎。
スマホのフラッシュ機能。
さらに向かって来た相手には、
「ワラワラうぜぇんだよ。」
前蹴りと回し蹴りで対応する。
「ぜぇぜぇ・・・もっと来いよ!」
ケイの活躍ぶりは、サライも認めざるを得なかった。
『火?』
『それに閃光?』
『あいつは魔道士か?』
隠しナイフの内から数本、投擲用を投げる。
『自称怪しくない奴』に近づき過ぎた数匹を始末した。
そして暗殺の糸を操る。
炎に脅え、興奮したゴブリンの群れは、数の有利を失っていた。
ケイの陽動に乗ったゴブリンには、サライの死の糸が見えていない。
次々と葬られて行く。
サライは思う。
『残り一桁。あの男が陽動になって、私が一人で倒すより断然早い。」
とうとう最後の一匹。
逃げ出そうとしたが、サライの死の糸がそれを許さなかった。
「サライさん・・・
「なんかあの方・・・
「楽しそうですねぇ・・・
「フフフ・・・・
『さて、一仕事終わったな。』
サライは狂鬼言う。
「狂鬼。3匹目のサイクロプスで、私達は全滅するのだったな。」
「生き残らせたいなら協力しろ!」
「協力する気が無いなら、姿を見せるな!」そう告げて男に向き直る。
サライは言う。
「先ずは何者だ?何故こんなところに居る?」
「説明してもらおうか?」
ケイは思った。
『怖い・・・』
『いや、きっとツンデレだ。』
『・・・・ツンデレ・・・だよねぇ・・・(泣・・』