表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異界の風  作者: 獣王丸
13/23

諸角ケイ

TRPGとは、テーブル・ロールプレイング・ゲームの事です。

カーク達は洞窟を進んでいた。


パーティの並びは、

カーク、

ヴィーシャ魔道士、

ミユ魔道士、

最後尾にサライ。

そして一行に粘着している、マニアックスマスターの狂鬼。


荷物持ちはヴィーシャ魔道士が担当している。

彼女なら、別に力は要らないのだ。

アイアンゴーレム戦で、約80人分の兵站が余剰となった。

その中から、必要と思われる分を選び、地属性の反発魔法で浮かし、風属性の魔法を上手にコントロールして運んでいるのだ。


800メートルほど進んだところで、サライがカークに声をかけた。


サライ。

「騎士団長。提案がある。」


カーク

「ん?なんだ?」


サライは狂鬼に向かって話す。

「どうせ2匹目は、向こうからやってくる。」

「そうだな?狂鬼?」


狂鬼。

「やっと声をかけてくれましたか・・・

「フフフ・・

「ただ、すぐには来ない・・・

「もう正午を過ぎていますし、少し休むなら、今が良いかも知れませんね・・・・


サライ。

「だそうだ(笑)。

「私の提案だが、罠を張りたい。」

「ここの地形が、私の張りたいトラップに具合が良い。」


4人は少し奥まった平らな地面に、簡単なベースを作った。

魔力回復の魔法陣を敷き、ミユ魔道士は瞑想に入った。

先ほどの戦いで、大きな呪文を使い過ぎていた。

少しでも魔力を回復し、次の戦いに備えてもらうためだ。


サライは自分の荷物の中から糸を出し、通路に張って行く。


サライ。

「トラップは私に任せて、騎士団長達は少し休んでくれ。」

「旨く罠に(はま)ってくれたら、メインは私で戦う。」

「騎士団長には、魔道士二人の直衛をお願いしたい。」


カーク。

「分かった(笑)。」

「では、その間に美味い飯でも用意しておこう。」

「こう見えても、少々、自信がある。」


サライ。

「ああ(笑)。」

「期待している。」




その頃、先行している、アヤ、ナニワ、マリオのチームは、軽い昼食を終え、戮目珠(りくもくじゅ)の先導で、さらに洞窟の奥へと進んでいた。

三人の行くてには、インプの群れが・・・

先ほど倒したインプの仲間だろう。

インプは残忍で狡猾だ。

洞窟の岩場に身を隠し、三人が襲撃位置に来るのを、じっと待っていた。

数は、20はいる。


三人は風切り音を聞いた。

前方で一匹のインプが倒れる。

ピクリとも動かない。

そのインプの体には、短めの矢が刺さっていた。

インプとて魔物。矢が一本刺さったくらいで即死は無いはず。

あるとすれば、急所を完全に捕らえたか、(やじり)に『死の呪文』が込められていたか、あるいは、その両方か?


「インプよ!!」アヤが叫んだ。

20匹を越すインプが一斉に飛び出すが、綺麗なリズムで、一匹、また一匹と倒れていく。

倒れたインプには、一体に一本づつの矢が刺さっていた。

恐怖に駆られたインプ達は、洞窟の奥へと敗走を始めた。


三人はインプの死体を調べた。

「これは?」マリオが言う。「クロスボウの短矢(ボルト)・・・と言うことは・・」


「口笛は吹いていなかったけど、サービスかな?」


「何よ。二人とも。」アヤが口を挟んだ。


マリオ。

「アヤさん。赤毛の盗賊ですよ。」


ナニワ。

「俺たちの仲間になって、アヤちゃんを守ってくれてるんだ。」


二人は、レッドが仲間になったいきさつを話した。


アヤ。

「ふーん・・・・レッド・クイックナイフ・バスチェンかぁ・・・・」




アヤが、レッドが仲間になった話を聞いている頃、洞窟のさらにさらに奥の王虎の部屋では・・・

「懐かしい匂いが3つも近づいてくる・・・・」

「戮目珠か・・・・・」


王虎は静かに目を閉じ、思い出していた。

まだ、ほんの数年前のことだ。

人族から見れば悠久の時を生きてきた王虎だが、その思い出は、何故か、随分と昔の事のようにも感じられた。


『神魔大戦の頃からだったな・・・』

『あれを探していたのは・・・』


少しでも手掛かりがあれば、必ず調べた。

それでも、未だに見つからない。

あの時も、ハンマの村で、闇属性が異常に高くなった所があった。

もう、何万年も、いやそれ以上の永い時をかけている。

無くて元々。

もし見つからなくても、今さら失望することも無い。

可能性のある所は、一箇所づつ潰して行くだけだ。


結局、その村からは、何も出て来なかった。

村は、焼き払われた。


もうすぐ、ハンマの騎士団が来るだろう。

今は少しでも、目立ちたくは無い。


村を去ろうとする王虎の前に、一人の幼女が現れた。

今回の調査で、両親を亡くした娘だろう。


哀れみだったのか?

戯れだったのか?


王虎はその娘に尋ねた。

「どちらの手を選ぶ?」


娘は右手を選び、戮目珠(りくもくじゅ)を手に入れた。

もし左手を選んでいたら、娘は跡形も無く、この世から消え去っていただろう。


「…うん。ありがと…。」


何も知らずにお礼を言う娘に、らしくもない哀れみを覚えた。



王虎が戮目珠のいる辺りに意識を持っていったせいだろうか?

アヤ、ナニワ、マリオの目の前で、とんでも無いことが!!!

一人の男が、天井の辺りから降ってきた!!!


「うわぁぁ・・・」男は(うめ)く。「いたたたたた・・・」


アヤとマリオは吃驚(ビックリ)した。

しかし一番肝を潰したのはナニワだろう。

何しろ、その男。

着ている服は、少々派手派手だが、紛れも無い『スーツ』だった。


ナニワの心は千路にに乱れる。

『地球から来た男だ。』

『間違いない。』

『あんな高いトコから落ちて、大丈夫かな?』

『この人、混乱するだろうな・・・』

『僕は案外、普通に受け入れたけど・・・』

『そう言えば、古龍さんも、割と普通に受け入れたって・・・』

『そう言えば、最近の地球のこととか、まるで分からない・・』

『みんな、元気にしてるのかな・・・』


怪しい服装の男に、もしや魔族ではと疑いを持ったアヤやマリオは防御の構えを取ったが、ナニワはすたすたと歩いて近づいた。


ナニワは思った。

先ずは負傷の確認。

そして、この信じがたい現実を、少しでも男が受け入れられるように手助けを。

そんな気持ちだった。

ナニワは倒れた男を抱き起こし、声をかけた。


「今年の阪神はどうでしたか?」


男は応えた。

「うん?阪神?」

「頑張ったよー。3位だった。」

「結局、巨人が優勝したけどね。」


阪神が3位!!

感動するナニワに、男が尋ねてきた。


降って来た男。

「君たち、何それ??その服??」

「ひょっとしてコスプレーヤー??」

「そう言えば・・・」

「下水工事か、工事現場にでも、落っこちたかと思ったけど・・・・」

「凄え!・・予算かけてるねぇ。このセット。」


男は目ざとく戮目珠(りくもくじゅ)を発見。

「あ、何それ!!!!」

「どこで買ったの?やっぱト◯イザラス?」

「ド◯キにも無いかななぁ?」

「帰りにちょっとのぞいて行こっと。」


ナニワは男にキチンと説明する機会を、完全に逸していた。


男は続ける。

「しかしまいったなぁー・・・・」

「いや、渋谷でジャーマネと落ち合う予定で・・・・」

「スポンサーになってくれそうな人・・・」

「いわゆる『応援』をしてくれる人のことね・・・」


男はポケットからスマホを取り出す。

「あれ・・・」

「電波もWi-Fiも無いやん・・・」

「このセット、地下だからか?」


男の側に、いつの間にかレッドが立っていた。


レッド。

「みなさんの仲間になって、本当に良かった。」

「まさか、異世界からのゲストが召喚される瞬間に立ち会えるとは。」


謎の男。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

吃驚(ビックリ)!!!!」

「なになに?」

「イリュージョンってやつ??」

「やっぱ、アメリカの人??」


混乱に混乱を重ねる話を、みんなが何とか纏め上げるのに、およそ20分を費やしたのは、無理もないことであった・・・


男の名は、『諸角(もろずみ)ケイ。』

売り出し直前の、若手俳優だそうだ。

意外なことに、ケイは現実をあっさりと受け入れた。

多分、古龍やナニワよりもあっさりとだ。


ケイは言う。

「これでもTRPGの名手でね。」

「ゲームマスターをやらせれば、俺のストーリーでパーティの連中は、感動、感動、また感動。日本のTRPGの世界では、五本の指に入ってたんだぜ。」

「まあ、芸能界入りで引退したけど。」


突然、戮目珠が5人の周りを激しく回り始めた。


戮目珠(りくもくじゅ)!!どうしたの???」アヤが叫ぶ。


戮目珠は黒いオーラを急激に拡げる。

アヤ。

ナニワ。

マリオ。

レッド。

ケイ。

5人は黒いオーラに包まれ・・・・


黒いオーラが消えた時、5人は王虎の部屋に居た。


アヤが叫んだ。

「!!?・・あの時、戮目珠(りくもくじゅ)をくれたおじさん!」


突然・・・・

そしてそれが当然のごとく自然に、アヤがペンダントの様に首から下げていた魔鏡の(ふた)が開き、とてつもなく妖艶な女が顕れた。


レッドは、先ず王虎を見た時点で、これは勝負なるとかならないとか言う次元の存在ではない事を理解した。


そして、魔鏡から顕れた美女を見て、王虎と同格か?

いや、このレベルになると、もう次元が違い過ぎて、判断とかは無理であるなと思った。


古龍が魔鏡に見たものを誰もが連想した。

レッドも盗賊マスター。遠距離盗聴により聞いていた。


そして何故か理解できた。

これが古龍の見た女性なのだと。

黒いドレスに映える白い肌。

しかし、実際に目にすると、古龍の表現がよても慎ましやかだったことが分かる。

艶っぽいとか、妖艶とかいうレベルではない。

王虎以外の全員が、背骨の中の背腸(せわた)を引き摺り出されるような、恐怖と快感に震えた。


美女は言う。カリスマを持った声で。

「お久しぶりですね。」

「今は、ケーニッヒ・ティーゲル。もしくは王虎とお呼びすれば良いはずですね。」

「確か・・・

「34位まで、魔界の王位継承権の順位をあげたそうですね。」


王虎は、彼女の出現が、さも当然の出来事のように、自然に応える。

「これはこれは、本日は夜会ドレス。それもシックで慎み深いお姿でお出ましとは・・・・」


魅力と言うよりは、身体中の神経を飛っこ抜かれそうになる妖艶さが、この女の慎み深いいでたちなら、本気で相手を蠱惑(こわく)する気になった時にはどうなるのか?


謎の女王。

「でも、あなたらしくない失敗ですね。」

「招かれざる客。ストレンジ・オブ・ストレンジスまで招待していまうとは。」


女は続ける。

「王位継承権争い。」

「ここから上位を狙うなら、一つのミスが、命取り。」

「特に10位以上となると、魔王邪夢と互角の実力者ぞろいですから。」


王虎は涼しい顔で応える。

「別に、王位継承権1位になりたい訳じゃないですから。」


鏡の女。

「そうですね。邪夢が魔王になっていらい、魔王位が変わった事もなし。」

「王位継承権というより、発言力の象徴に過ぎませんし。」


王虎。

「何をおっしゃる。私は魔王邪夢様が全世界を支配なさる戦いの一翼を担えれば、それ以上の望みは在りません。」

「それより、このような仮住まいにおいでいただいても、ろくな持てなしも出来ませんが。」


鏡の女。

「いえ、今日はご挨拶だけと思いまして。」


王虎。

「確かに。」

「ここでいつぞやの決着を着けようとすれば、この島宇宙が無くなりますからな。」

「それに万一、鏡を壊して、あなたを解放でもしてしまっては・・・」


鏡の女。

「今までの悪だくみが水の泡ですか?」

「確かあなたの座右の銘は、


『悪事を尽くして、天命を待つ』


でしたわね?」


王虎。

「はっはっはっ・・・

「艶っぽいお姿でも、皮肉屋は変わりませんな。」


鏡の女。

「昔のよしみで、二つほど忠告を。」


「一つは『異世界からの客』が増えているようです。」

「あまり次元を弄んでいると、しっぺ返しがきますよ。」


王虎。

「ご忠告、痛み入ります。」

「して、もう一つは?」


鏡の女。

「今の私の主はアヤさま。」

「もしアヤさまの身に危険が迫れば、私も鏡の精としての義務を果たさねばなりません。」

「例えこの大陸を地図から消すことになってもね。」


王虎。

「ああっ。

「その娘は昔の馴染みでね。」

「危害を加えるつもりはないよ。」


鏡の女。

「つまり・・・

「まだ駒として利用価値がある訳ですね。」

「それを聞いて安心しました。」


女は突然消え、魔鏡の蓋が閉まった。

言いたいことだけ言って、用が済んだらいきなり退場したことについて、王虎でさえも、文句を言う気は無いようだった。



『やれやれ・・・・』

『この連中には魔鏡の価値が解ってなさそうだし、魔鏡と引き換えに、この洞窟からの全面撤退でも持ち掛けたかったのだが・・・』

『釘を刺されてしまったか・・・』

『まあ、そうそう上手く行くとは思っていなかったが。』


王虎は、ゆっくり自然に五人に向き直った。

「さて・・・

「お待たせしたね。」

「アヤさんとは、あの日以来。」

「君達とは初めてだったね。」

「レッド君、ケイ君、ナニワ君、マリオ君・・・・と、呼んでもかまわないかね?」


「あ、私のことは、王虎と呼んでくれたまえ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ