凛々(りんりん)流空手総帥
今回より、妖精ハリセンが登場します。
誰にもハリセンの姿は見えません。
誰にもハリセンの声は聞こえません。
古き大神がハリセンに与えた職務は・・・・
突っ込みです。
ちょうど、カークがアイアンゴーレムを仕留めた頃…
洞窟のある山の絶壁を登る、巨大な影があった。
洞窟のある山は、周りが全て絶壁で、道はない。
つまり、軍は送れない、天然の要害になっている。
山の絶壁を登っているのは、身長が7メートルほどのサイクロプス。
その肩の辺りに、見覚えのある男が乗っている。
ハジメだ!!
と言うことは、このサイクロプスは、お城で古龍に倒された奴??
サイクロプスの死骸は、サイボーク化されていた。
サイクロプスの肩の上で、ハジメは居眠りをしていたが…
どうやら目を覚ましたようだ。
ハジメは思った。
『徹夜明けはきついなぁ…』
『どうやら、ここまでは、真族に発見されずに来れました。』
『と言うことは、討伐隊の皆さん、けっこう活躍してくれてるようです。』
崖を登るサイクロプスの腕が、ギコギコ言って止まった。
『やれやれ。』
『徹夜の突貫工事でしたからね…』
ハジメは工具を出して修理を始めた。
なんとか、サイクロプスは動き始めた。
『この山の頂上に着くまでは、魔族と出会いたくないな。』
『おや?何やら近づく者の気配が…』
『この気配で、目が覚めたのかな?』
ハジメが下の方を覗くと、同じように崖をよじ登って来る者が。
いや、よじ登ると言うより、ぴょんぴょんと足場から足場へ跳び移っている。
並の身体能力ではなさそうだ。
『やはり、頂上まで誰にも見つからずと言うのは甘かったですか。』
『しかたがない。』
ハジメが戦闘態勢をとる。
と言っても、この男の場合、少しだけ相手に意識を移すだけなのだが。
しかし、その追跡者には、まったく殺気が無い。
ハジメは、少し様子を見ることにした。
男は、あっと言う間にハジメの乗るサイクロプスに追いつくと、肩の上に跳び乗って来た。
「あっれ〜〜〜〜???」男は陽気な声をあげる。「もしかして、これ、作り物?」
ハジメは挨拶をする。
「こんにちは。旅のお方。」
「驚かして申し訳ありませんでした。お察しの通り、これは作り物です。サイクロプスの死骸を利用していますが、呪われたゾンビなどとは、まったく別の技術を使っております。」
男は応えた。
「あ、たいへん失礼をば…」
ハジメは続ける。
「申し遅れました。ハジメと申します。」
「この先のハンマ王国で、小さく商売をしていますが、今日は王国の魔族討伐隊の一員です(笑)。」
男も挨拶を返す。
「旅の武芸者です。リンリンと申します。」
「何か、ロッククライミングをしてる、酔狂なサイクロプスがいたので、空手の組み手の相手でもしてもらおうかと…」
「いや早合点でした。お恥ずかしい。」
ハジメは思った。
『カモかな?カモかな?』
ハジメは急に機嫌が良くなる。
「ほほう…」
「流浪の空手家ですか?」
「成る程……道理で……」
リンリンは尋ねる。
「は?『道理で』と申されますのは?」
ますます愛想の良くなるハジメ。
「いえ、このサイクロプスに追いつく姿。拝見させていただきましたが。」
「並の身体能力ではない!!!」
「さぞや名のある流派の方と、お見受けしましたが?」
「差し支えなければ、りんりんさんの流派など、お聞かせいただけないでしょうか?」
カモは・・・
失礼。
リンリンは応える。
「いや、お恥ずかしい。」
「一応、凛々流空手の総帥をしております。」
ハジメは応える。
「なんと!!!総帥!!!」
「成る程、これで合点が…」
「あの動き!!あの跳躍力!!!。」
「そこいらのヘッポコ武人とは、武格が違う。!!!」
照れながらリンリン。
「いえ…。」
「全然、凄くないです。」
「それどこらか、我が理想とする武は、果てしなく遠く。」
ハジメは頭の中で算盤を弾きながら応える。
「何やらお悩みのご様子。」
「差し支えなければ、そのお悩みとやら、聞かせてください。」
リンリン。
「・・・・実は・・・・これでも神族の端くれだったりして・・・・」
「おまけに、大戦の生き残りだったりします。
ハジメは思った。
『神、来たーーー!ネギ背負って!!』
神族や魔族は、人族より遥かに寿命が長い。
その分、繁殖力が弱く、生物的にバランスを取っている。
しかし・・・
大戦が終結したのは、約5000年前。
しかも、大戦に参戦したってことは・・・
寿命が5000年を越えている。
これは上級神でなければ有り得ない。
しかし、何でまた上級神が人界で空手の修行などを?
ハジメ。
「ほほう・・・しかし、どうして空手の修行などを?」
リンリン。
「古い話で恐縮ですが・・・
「ハジメさんも、絶代宗師のことは、ご存知ですよね?」
絶代宗師の伝説。
かって、神魔大戦のおり、神々の戦争に巻き込まれ苦しむ民衆を憂う、1人の若い神がいた。
「大いなる神々の戦い・・
「これも、古き大神の御心のうちなのがろうか・・・
「私が戦乱に苦しむ人々を救いたいと思うのは、私のエゴにすぎないのだろうか・・
「それでも、私は弱き者達が苦しむ姿を、黙って見てはいられない。
「偽善者と呼びたければ、呼ぶがいい・・
宇宙は古き大神が、その肉と霊でお創りになった。
この世界そのものが、古き大神であると言われている。
しかし、古き大神の霊の核だけは、この宇宙のどこかにあり、万物の成長を見守っていると言われていた。
その若い神は、古き大神の霊の核を求めて、旅立って行った。
永い年月が過ぎ、しかし神々の大戦は続いていた。
誰もが、その若い神の事など忘れた頃に、彼は帰って来た。
四門の拳と言う、強大な武の力を携えて。
戦禍に巻き込まれた民衆が居れば、その若い神は現れた。
四門の拳を振るう彼の力は、古き大神の分霊(第1世代。ゴライ神や、次元の女神など)にも匹敵する程であったと言う。
しかし、いかほど強くても、大戦を止める事は出来ないし、すべての人を救うことも出来ない。
彼は四門の拳を、弱き者達に伝えていった。
青龍、白虎、朱雀、玄武。
これらの拳は、まるで術理が異なるため、複数にまたがって修めるのは、ほぼ不可能。
全てを使えるのは、古き大神より技を授かった彼のみであった。
やがて、彼の元へ、多くの民が集まって来た。
神族もいた。人族もいた。魔族もいた。
みんな、自分達の家族、故郷を守りたい一心で集まった者たちばかりであった。
自分のために、その拳を振るわぬ事。
弱き者たちの盾になる事。
この2つを条件に、若い神は、彼らに四門の拳を伝えていった。
人々は、彼を絶代宗師と呼ぶようになった。
彼の高弟たちは、四門それぞれを守り伝え、今も苦しむ民衆の力となっている。
その後、絶代宗師がどこへ行ったかは、誰も知らない。
ま、こんな伝説だったはず。
ハジメは言う。
「おお、絶代宗師に所縁のあるお方でしたか。」
「確かにリンリンさんの武格、そうでなければ納得できない。」
リンリンは言いにくそうに。
「いえ・・・所縁と言うか・・・何と言うか・・・」
「大戦中、ある作戦で辺境の惑星を魔王軍と争った時です。」
「その惑星の住民には、気の毒でしたが、何しろ戦争なのですから・・・」
「それは激戦でした。戦地の名は、ご勘弁ください。」
「その戦場に魔拳士が現れたのです。」
「いえ、絶代宗師ではありません。その高弟で・・・・」
「四つの門の門主でした。」
「青龍の門を預かる、竜王。」
「白虎の門を預かる、拳王。」
「朱雀の門を預かる、妖精王。」
「玄武の門を預かる、戮王。」(戮王は、陸王と呼ばれる事も多い。)
リンリンの話は続く。
「いやはや、強い強い・・・・
「その激戦地、光帝神軍も魔王軍も、精鋭部隊を投入していたのですが・・・
「コテンパンにやられました。」
「いえ、強いだけなら、いくらでもいる。」
「俺が痺れたのは、あの華麗で多彩なテクニック。!!!!」
「あれは戦技と言うより芸術をおもわました。」
「その後、大戦も終結し、俺は『四門の拳』を探し求めたのですが・・
「手掛かりは見つかりませんでした。」
「俺には『四門の拳』に師事するだけの武徳が無いのかも・・」
「その後、武縁があり、いくつかの空手の流派に入門したのですが・・・」
「どこも追い出されてしまいましたぁぁぁぁぁぁ。」
「何でなんだ・・・」
「まぁ、俺には武徳と武縁が、著しく欠けていると悟り、それならば!!!」
「自分で、自分の理想とする武を求めてみよう!!!」
「いかに伝説の武芸者といえ、同じ生き物。」
「彼らに出来たことなら、俺にだって・・・」
「幸い、神族なので、時間だけはたっぷりあるし。」
「ま、そんなとこです。」
ハジメは尋ねる。
「失礼ですが、いくつ位の流派を学ばれたのでしょうか?」
応えるリンリン。
「あれやこれたで、29ほど。」
ハジメ。
「どの位の修行を修められたのでしょうか?」
リンリン。
「恥ずかしながら、どこも初伝です(泣。」
ハジメは思った。
『カモがネギ背負って鍋まで持ってキターーーー!』
ハジメはゆっくりと話す。
「何と素晴らしい。」
「感動しました。」
「しかし、お辛かったでしょう。」
「リンリンさん。武徳が高過ぎる人は、返って武縁は少なくなるものなのです。」
「でも、ご安心ください。僕は小さいながら商売をしてると申し上げたでしょう。」
リンリン。
「もしや、『四門の拳』にお知り合いが?」
ハジメ。
「もっと良い話かも知れません。」
「僕の取り扱う商品の中に、あるんですよ。リンリンさんの悩みを、ズバリ解決するかも知れないものが。」
リンリン。
「??????」
ハジメ。
「最近は驚くほど便利になりまして。」
「世界の名のある武芸の秘伝書を、僕の店で取り扱っております。」
リンリン。
「ま・・・まじですかぁ?????」
ハジメ。
「カラテマスター。」
「カンフーマスター。」
「ジュウジュツマスター。」
「ソードマスター。」
「ランスマスター。」
「ニンジャマスター。」
「さらには伝説の『喧嘩師』の秘伝まで、取り揃えております。」
リンリン
「おおおおおぉぉぉぉぉぉ(感動泣き)・・・・
ハジメ。
「どれも、有名マスターの責任監修。!!!」
「有名マスターは、どなたもお忙しいので、直接には書いていませんが・・・
「何しろ、責任監修!!!!」
「本人が書いたのも、一緒ですよね!!!」
リンリン。
「すばらすい・・・・
ハジメ。
「特にお勧めなのは、『記録の宝玉』がセットになっておりまして、秘伝の武芸を映像でご覧になれます。」
「もちろん、マスター本人は出演しておりません。」
「武芸のマスタークラスですと、命を狙う者も多いですから。」
「でも、責任監修ですから!!!」
「本人の出演と同じ事です。
ハジメ。
「しかもです!」
リンリン。
「ウンウン!」
ハジメ。
「これは、あまり人には言ってはマズいのですが・・・
リンリン。
「お願い・・・
「教えて・・・・・・
ハジメ。
「今回の初回販売分のお客様に限り・・・・
「各マスターの指導が受けれます!!!通信教育で。
リンリン。
「まだ残ってますか???」
「初回セットって???」
ハジメ。
「確か、一つか二つ・・・・残っていたかと・・・」
リンリン。
「ウワーン・・・
「これは・・・
「この邂逅は・・・・
「武の神ライガ様の御加護か・・
「あるいは、武の魔神タイロンのお導きか・・・
偶然、居合わせた突っ込みの妖精ハリセン。
『いや、詐欺の神マルチの導きだと思うぞ。』
しかし、ハリセンの姿は誰にも見えず、その声も聞こえない。
ハジメ。
「ところで、29の流派をどれも初伝で辞めているのでは、凛々流空手総帥をな乗るのは、厳しくはないですか?」
「旅の武芸者同士の立ち合いとかもあるでしょうし。」
リンリン。
「いやぁ・・・お恥ずかしい・・・・
「実はマーシャルコマンドーのマスターを持っていますので、それで何とか誤魔化しています。」
ハジメは思った。
『カモガネギショッテナベマデモッテソノウエゼンシンニタレマデヌッテキターー!」
マーシャルコマンドーのマスターと言えば、カラテマスターやカンフーマスターと比べても、遜色の無いジョブマスター。
戦闘系のジョブの中では、文句なく上位のジョブである。
ハジメ。
「リンリンさん。」
「直ぐにでも店に取って返したいのですが、何しろハンマ王国の魔族討伐隊の一員として従軍している身です。」
「いえ、大した作戦じゃない。遅くても3日もあれば終わるでしょう。」
「それまで、ご同行していただいて、よろしいでしょうか?」
リンリンは応える。
「もちろんです!!」
「せっかくハジメさんから貴重な物を売ってもらえるのに。」
「このチャンスは逃せません。」
「な〜に、心配は要りません。」
「ハジメさんの身の安全は、俺が責任を持って、守ってみせます。」
どうやらハジメは、いざと言う時の用心棒をゲットしたか?
妖精ハリセン。
『いや、捨て駒だと思うぞ。』
ハジメが崖を登っているのは、彼なりの推理と考察による。
ここに魔物が暮らしているのは、5000年以上も前からの話である。
生き物である以上、食べ物が無ければ生きては行けない。
どんな食べ物でも食物連鎖をたどれば『太陽光』にたどり着く。
それも、主に紫外線だ。
つまり、この山の頂上には、必ず農園が有るはずだとハジメは考えた。
おそらくは、村もあるだろう。
洞窟の中に魔力を使って太陽光を再現して農業を行うのは、コスパが悪すぎて有り得ないだろう。
大昔から、ここに魔物が住んでいると言う事は、この推理に間違いは無いだろう。
ハジメが討伐隊の主力と別行動を取り、単独で潜入を試みたのは、危険を侵さず美味しいところをいただくつもりだからである。
魔物の村を発見出来れば、それだけで大金星。
さらに、本隊の危機を、この巨大サイボーグで救えば。
『何しろ僕が直接動くんですからね。恩賞はたっぷり貰わないと。』
それにハジメの情報網にも、色々と不穏な話が入って来ている。
5000年間続いいた、光帝神と魔王邪夢との平和だが、ハジメに言わせれば、ただの冷戦だ。
光帝神も魔王邪夢も、決着戦のための準備期間にしか思っていないだろう。
混沌とした諜報戦の中、上層部の思惑とは関係ない『うねり』が、誰も気づかぬ中、胎動を始めていた。
『僕に言わせれば、神魔大戦の戦後処理が間違っていたんですよ。』
やがて二人を乗せたサイボーグサイクロプスは、崖を登り切った。
ハジメ。
「ここからは徒歩で潜入しましょう。」
「魔物に出会っても、リンリンさんは何もしないでください。」
「直接の戦闘が任務じゃないんです。」
「僕が、上手く話をつけます。」
リンリン。
「分かった。」
「ところで任務の目的は?」
ハジメ。
「決まっているでしょう。」
「僕の大切な友人の命を救うためです。」
リンリン。
「流石はハジメさんだ。」
サイボーグを離れる時、ハジメは少し迷った。
『メイン魔力炉を切っておくかな?』
『しかしそれだと再起動に時間がかかり過ぎる。』
『キルスイッチも在るし・・・このままでいいか。』
徹夜の突貫工事で、何とかでっち上げた仕事だ。
流石に絶対の自信作では、ないらしい。
二人は、山の頂上にあたる部分を探索する。
今まで見つからなかった村を探すのだ。
簡単には行かない。
しかし、ハジメの考えによれば、必ず畑があるはず。
畑には太陽光を当てねばならない。
ならばカムフラージュするにしても、限界があるだろう。
その山の頂上部は、平たくなっていた。
山全体が円筒形に近い。
30分ほどで、二人は村と思われる集落を発見した。
その頃・・・・・
サイボーグサイクロプスに異変が・・・
突然、目が赤く光だし・・・
「うぉ〜〜〜〜〜・・・・」
唸り声を上げると、ふらふらと歩き始めた。