魔界
R15
残酷な描写があります。
苦手な方は、飛ばしてください。
なんてこった。
まったく…
こっちへ来てから、もう何匹の魔物を斬り倒したんだぁ?
『魔界と言っても、私の庭みたいなものだ。』だと!
これまで、俺が人界で倒した怪物の類いなど、ここへ来ればリトルリーグだ。
奴に貰ったこの長剣がなければ、魔界のエントランス・ロビーに着いた途端に、慌ただしく、あの世行きの便に登場手続きをしていたところだ。
神界、魔界、人界は、それぞれ独立した宇宙だ。
なんせ俺は『星の船』に乗って『星の海』を旅した事がある。
勿論、こっちの人間の技術じゃ、恒星間航行なんて無理だ。
星空の神ビリーブの神殿が、スペースポートになっている。
神ビリーブが連れて行ってくれるのは、人界の光帝神の支配領域に限るが。
こんなサービスが受けられるのも、光帝神にとっても、魔王邪夢にとっても、人界は価値があるらしい。
その価値が何だって?
知らん。
人界から、神界と魔界には、幾つかゲートがあり、行き来が可能だ。
神界と魔界を繋ぐゲートは無い。
サンドウィッチを思い浮かべてくれ。
上のパンが神界。
中のハムが人界。
下のパンが魔界。
神魔大戦のあと、人界の9割は神々の縄張りになった。
しかし…
王虎とか言ったな…
『時間軸も調整しておいたから、たっぷり修行してくるがいい。丁度いい具合の時間と空間に戻って来れるだろう。』
ふざけやがって…
こう見えても、俺は地球じゃ理系の大学を出ている。
さらに言えば、J・P・モーガンの愛読者でもある!
だから奴の言った意味も分かるが…
ようは、こっちで過ごした時間軸と、あっちの時間軸じゃ、流れを変えてあるってことだろ?
まったくご親切なこった。
俺はフラッシュバックに悩まされながら、やっと倒した魔物(見た時ねえよ!こんなヤツ)を検分しながら、心の中で悪態をついた。
長剣の意思(人間の意思、意識とはだいぶ違う)と俺の人格が、統合されて来てるらしい。
剣の記憶が俺の中にダウンロードされるって訳だ。
ま、最初のダウンロード先は、潜在意識の方なんだろうね。
だから剣の記憶が、突然、俺の記憶になってフラッシュバックして来る。
魔物との戦闘中、いきなり習った覚えもない長剣の扱い方、その魔物の名前や特徴が、顕在意識の中に跳び込んで来たりする。
デジャビューの様に、「何で俺はこんなこと知ってるんだ?」って感じの時もある。
まあ、お陰で随分と助かっているんだけど。
俺の学んでいた流派は、少々変わったところがあった。
年に何回か、山籠りの修行があるんだ。
内容は、
『武術の特別訓練』
+
『特殊部隊のサバイバルキャンプ』
+
『山岳密教の修行』
ってとこかな。
なんか楽しそうだって?
冗談じゃない。
半分、気が狂いそうになる、地獄の数週間だ。
蜥蜴や蛇や昆虫なんて、初めて食べたぜ。
その経験と、剣からダウンロードされた知識のお陰で、なんとか生きていられる。
さっき倒した魔物は毒を持った奴だったが、筋肉部分には毒成分が無い事を思い出した。
もちろん、これは剣の記憶だな。
魔物の肉のうち、持ち運べる分を解体して、やはり魔物の皮を剥いで作った袋に入れて、俺は歩き出した。
先ほど捉えた妖虫を齧る。
甘い体液だ。
見た目は悪い。
こいつを思い切りマンガチックに可愛くデフォルメすれば、タランチュラに似てなくもない。
ま、人間、慣れだよ。慣れ。
ここの様子は、だいたい分かってきた。
密林でサバイバルしてるってとこだな。
加えるなら、敵陣の真っ只中。
小物はこの長剣を見ただけで近づいても来ないが、強いやつは逆に狙って来る。
連中が命を賭けるだけの値打ちがあるらしい。
中には、物凄い憎悪とともに襲ってくるやつもいたりする。
王虎に怨みを持つ奴だと、潜在意識が言ってくる。
しっかし美味いな。この妖虫。
もし、アヤかサライが救援に来てくれたら、この貴重な妖虫を半分わけてやってもいいのに。
そんなことを思いながら、もう一匹妖虫を取り出して齧り付いた。
しっかし〜・・・・
今の俺は長剣をまったく使えてないな。
ただ、1メーター60の斬れ味の良い剣を持ってるだけ。
王虎がくれた鎧も、俺に力を与えてくれているらしい。
未だ未だ使い方が良く分からんが、怪我をした時には、鎧の何ヶ所かに付いている水色の宝玉が光を発し、たちまち傷を治してくれる。
うーん。便利だ。
それに運動能力が飛躍的に増大している。
これは白い宝玉が発光した時だな。
この鎧には、他にも色々な宝玉があるし、鎧じたいにも、何かの力を感じる。
俺の内部にある何かと呼応して、何か魔力の様なものが発動すると思うのだが。
鎧のあちこちに装備されてる宝玉だが、今の俺にはアクセサリー。
王虎が用意した出口とかの手掛かりでもさがすか。
俺は老人と出会った。
どこか知性を感じさせる老人だった。
『灰色のガ◯ダルフ』がイメージとして近いかなぁ…
老人の瞳は、昼間の猫のように、あるいは爬虫類のように縦長だ。
しかし、凶暴さは感じない。
むしろ深い知性を感じる。
もし、森で一番の老木に目があったら(まあ、この世界ではたまにあるんだけど)、きっとこんな深みを湛えているんだろうな。
そんな眼だ。
老人の眼は語っていた。
『なんだ、騒がしいと思っていたら…
『お前が無様な戦いをして、喧騒を振り撒いておったのか…
好きで来たんじゃねぇよ!!
しかし老人の眼が、俺の背負っている長剣に移った瞬間!!
爺さんは爆発的な速度で、俺に襲いかかって来やがった。
俺に突撃をかましながら爺さんの肉体は膨れ上がり、纏っていた衣は肉体の膨張に耐え切れず散り散りになる。
肉体はハリウッドのSFXを観るようにゾアントロピーを起こし、持っていた杖は、斧と呼びたいところだがギリギリ剣だなと言う豪剣に変わった。
『斧と呼びたいが、ギリギリ剣だな。』
いや、マジで。
俺も長剣を引き抜き突進する。
停止した状態で受け切れる斬撃じゃない。
こちらも速度のエネルギーをつけるしか受けようがない。
まして躱すなど。
うちの流派にも、相手の初撃を斬り返す技法は山ほどある。
しかし、俺の本能が無理だと言っていた。
どういう事情かは知らない。
こちらの事情も説明しようがない。
もしこの戦いが終わって俺が生き残っていたら、爺さんの死体にすがって泣いてやるさ。
埋葬してやるのは無理だな。スコップが無い。
爺さんの肉体は、硬そうな鱗が見る見る皮膚を覆って行く。
竜人だ!
本物を見るのは初めてだが、リザードマンなどとは格が違う。
俺が今まで戦った中で、間違いなく最強の敵だ。
長剣と豪剣が激突した。
爆発的な衝撃が走る。
巡り合ってはならない二振りの剣が、邂逅してしまったのだ。
俺と竜人は、数合、激しく斬り結んだ。
竜人は突然、後ろに15メーターほどジャンプした。
片手を俺に向ける。
その手から、電撃というか?怪光線というか?
とにかく、それに当たったらロクなことにならないのは、出来の悪い俺の頭でも理解できる魔力を発してきた。
俺は無意識のうちに左手を出した。
鎧の各所の宝玉が煌く。
それが当然のごとく、俺の左手は、虹色の半透明の盾を造りだした。
多少の衝撃はあったが、竜人の魔力を受け切ってしまった。
俺は一気に距離を詰める。
竜人も突進して来やがった。
実際には、1分も戦ってはいなかったと思う。
竜人は突然距離を取ると、俺の手前の地面に、先程の怪光線を連射し煙幕を張ると、身をひるがえし退却した。
見事な逃げっぷり。
奴が何を考えたか、俺には理解できた。
このまま戦闘を続けても、勝てる確率は五分と五分。
ここは奴にとってのホームグラウンド。
準備を整え、確実に俺を殺す!
俺は無意識に煙草を探った…
無かった…
その日の夜、俺は夢を見ていた。
夢の中で、俺は長剣だった。
主とともに一団を率いて荒野を疾走する。
目指すは竜人のキャンプだ。
これから襲撃する竜人のキャンプは、放浪の旅を続けている一族だ。
もちろん、全ての竜人がボヘミアンって訳じゃない。
これから襲う一族は、流浪の旅を宿命にした一族だ。
先祖代々、ある物を護るために、特定の地に定住せず、代々の預言に従い旅を続けているそうだ。
竜人族の中の、ある特殊な神官の地位を、一族全体で継承している。
俺の主の目的は、その継承されている物の強奪だ。
主の顔は分からない。
剣である俺には、主の顔や性格には興味が持てなかった。
やがて斥候と合流し、闇に紛れて奇襲をかけた。
勝てると踏んだから襲撃に出たのだ。
しかし、竜人たちの守りは偵察情報より遥かに固く、また戦士一人一人の力量も戦意も高かった。
主は、戦況を好転させるべく、俺を引き抜くと上段に構えた。
主の闘気が俺の中に満ち溢れて来る。
主が俺を、敵陣に向けて一振りした途端、真空の刃は敵陣地の一角を襲う。
それは竜人たちを引き裂き、その剣を持った腕を巻き上げ、真空は傷口から血液を吸い出し、巻き上がる旋風が、連中の血を顔料に、抽象画を描き出す。
『破導剣・真空刃』
大気を利用した真空刃は、俺にとっては、ごくごく基本的な能力にすぎない。
つまらん。
勝てると踏んで仕掛けた戦いだったが、キャンプを制圧した時、味方の損失は計算値の三倍を超えていた。
残っていた女子供や老人を捕虜とし、キャンプ中を家捜しした。
村の長老は、自害をして果てていた。
蘇生呪文も効かぬ様、完全に自身の肉体を破壊していた。
探し物は見つからなかった。
こうなっては、生き残った村人に聞いて見るしかないな。
上手くコミュニケーションが取れるといいんだが。
連中との交渉には、『拷問』と言う言語を使う。
分かり合えるまで、少々時間がかかるのが難点だが、どうやら他に方法は無い。
泣き叫ぶ母親の前で、幼子を生きたまま解体して、その肉を喰った。
爪の間に火薬を仕込み、1本づつ爆破した。
眼球に一本づつ針を刺していった。
15本から20本も刺すと、流石に次の針を刺す所が無くなってくる。
子宮を裏返しに引きずりだし、その女の口に突っ込み喰わせた。
俺も多少は協力したが、殺傷力があり過ぎ拷問には不向きなのだ。
主は俺の刀身に、闘気とイメージを送り込み加熱した。
やれやれ、俺が鋼の剣だったら、焼き鈍しになって、切れなくなっちまうだろうが?
主は馬鹿なのか?それとも俺がどう言う由来の剣なのか、分かってやっているのか?
この主は好きになれんな。俺の力を引き出せないし。
主は俺の刀身で、若い女性の乳房を切り取っていった。
充分に時間をかけて。
傷口は加熱した刀身が焼き潰しているので、失血死の心配は少ない。
ショック死しようにも、回復呪文と蘇生呪文がそれを許さない。
生きたまま5つに解体された者もいた。
それぞれの部分を生かし続けてだ。
襲撃の時点でメーデーが発せられていただろう。
救援部隊が来る前に、あれを探し出さねばならない。
斥候から報告が来た。
救援部隊はすぐそこまで来ていた。
残念ながら今回のミッションは失敗だったようだ。
主はまだ息のある肉片を晒し者にした。
村中に、磔にしたり、串刺しにしたりした。
救援部隊の到着時に、ギリギリ生きている様に、最新の注意を払って作業を続けた。
ある幼女(眼は潰され、鼻も耳も削ぎ落とされ、皮膚の大部分は剥ぎ取られていたので、幼女とは分からなかったかも知れないが)は、火刑の杭に串刺しにされ、救援者が助けようと近づいた時火炎呪文が発動するブービートラップにされた。
主は、仕事の出来に満足しているようだ。
結局、3日3晩の拷問では、時間が無さすぎた。
せめて1週間は無いと。
襲撃部隊はキャンプ地を去った。
俺は目が覚めた。
まだ生々しく虐殺の感触が残っている。
感想は・・・・
聞かないでくれないか(泣