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異界の風  作者: 獣王丸
10/23

アヤの村

「私ね・・・両親がいないの・・・」

「私が四つの時、魔族に村が襲われて・・・」

「私をかばって、死んじゃった。」


ナニワは、胸の辺りに痛みを感じていた。

いつだか古龍が言っていた言葉を思い出した。


『こっちの世界じゃ、ストリートチルドレンなんて、珍しくもない。』

『むしろ、両親に大事に育てられてる子供の方が、少数派なんだ。』


それに、さっきマリオが戮目珠(りくもくじゅ)について尋ねた時、アヤは『私の大切なお友達。』と応えたが、その時、彼女の表情に、(かげ)りが射したことも、見逃してはいなかった。


「何か居る!!!」


マリオの声が、ナニワの思考を中断させた。


「あまり友好的な相手じゃないような気がする。」とナニワ。


「来るわ。フォーメーションはどうする?」とアヤ。


「え?アヤちゃんも戦うの?」とマリオ。


前方の暗闇より、5つの影が。

インプだ。

小型の魔物だが、スピードと凶暴性には、定評がある。

武器も器用に使う。

三叉の槍、トライデントだ。


アヤが飛び出す。

一瞬遅れてナニワとマリオが。

そもそもアヤが戦うなどと思っていなかった。

二人でアヤを護るつもりだったのが、一瞬判断を遅らせた。


戮目珠(りくもくじゅ)!!獅子咆哮(ライオネスロア)ァァァッ!!!」

アヤの命令で、宝貝は黒い炎に包まれインプの群れの中央へ飛び込んだ。


二匹のインプが、黒く燃える戮目珠の攻撃で、跡形もなく消された。

悲鳴すら残らない。


『黒い炎!!!ありえね〜〜〜!!!』

ナニワの心に、疑問が引っかかる。


『黒い炎!!!まさか!!!』

マリオの心に、疑問が湧いた。」


しかし、考えている時間は無かった。

アヤが先頭だが、宝貝を飛ばした今、彼女は丸腰なのだ。

戮目珠は二匹のインプを焼き、その速度で群れの後方まで抜けて、すぐに反転しアヤに向かうが、残ったインプの突撃はさらに早い。


アヤも心得ていて、スウェーで下がる。

同時に、ナニワとマリオが前に出る形。

一瞬で、フォーメーションは入れ代わる。


マリオが七節棍を振るった。

七節棍は、紐で繋がれた七つの棍に分かれ、鞭の様に飛ぶ。

棍と棍とを繋ぐのは、ドラゴンの皮で造られた革紐。

ミスリル銀の細い芯が通っている。


魔力の伝導率の高いミスリルを、魔法防御の高いドラゴンの皮が被膜しているのだ。

相場の三倍の値段は、伊達ではない。


しかし棍に秘められた特殊な力が発動することは無かった。

高速で飛ぶ先頭の棍が、一匹のインプの頭蓋を砕く。

そしてマリオの手首の一捻りで、倒したインプの横を走る別のインプの首に巻き付き引き倒した。


その時点で、残る一匹のインプは、ナニワの剣で斬り殺されていた。


『あれ?ナニワのやつ、こんなに上手かったっけ?』地面に倒したインプの頭蓋を棍で叩き割り、とどめを刺しながらマリオは思った。

マリオの記憶では、ナニワの剣技は、ややバランスが悪かった気がしたが…


ナニワの武術は北派中国武術。

八卦掌。

太極拳。

八極拳。

形意拳。

などを学んでいた。


「う〜ん。」アヤは言った。「70点。」


「「えええええええええ!」」ナニワとマリオがハモる。


「何でだよ!!」とナニワ。


「95点は行ったでしょ!」とマリオ。


「最初の私のダッシュに、一歩、出遅れたでしょ?」


「「厳しいのぉ…」」また、ナニワとマリオがハモる。


「じゃあ、85点に、しといてあげる(笑)。」


アヤは戮目珠に向かって言う。

「それで、さっきの話は本当なの?」


「アヤさん。その宝貝『戮目珠(りくもくじゅ)』って、いつからアヤさんのお友達になったの?」

マリオが尋ねる。


「ちょっとだけ待ってて。」

「今、この子と話しているから。」

「………」

「うん。分かった。」


戮目珠と話していたアヤが、二人に説明を始めた。

「この子はさっきまで古龍さんの居所が分かっていたんだって。」

「それが急に消えたんだって。」

「恐らく何処かに飛ばされたっぽい。」

「だから、これから最後に古龍さんが居たところを目指すわ。」

「何か手掛かりがあると思うの。」

「戮目珠。また頼むわよ。古龍さんを探すの。」

そう言うと、戮目珠のが先導し、アヤは洞窟の奥へと進み始める。


ナニワとマリオは、一瞬、顔を見合わせたが、お互いに(うなず)き、アヤの後を追う。


「アヤさん。さっきの話の続きなんだけど、その戮目珠…」


アヤの表情は、一瞬くもったが、すぐに元の明るさに戻る。


「私が四才の時だったわ。」

「村が魔族に襲われて全滅しちゃったの。」


「両親は、私を庇って死んじゃった。」


アヤは黙った。

二人も口を開かない。

宝貝の案内で、洞窟を進む。


進むにつれ、光苔(ひかりごけ)が増え始めた。

歩くには不自由しないくらいの明るさだ。


「二人は私を村から逃してくれたの・・・・」

「お城に行きなさいって・・・・」


「泣いたわよ・・・・」

「泣きながら走って・・・・・」


「疲れて・・・」

「息も苦しくなって・・・・・・」


「道は暗いし・・・・」



「そのうち、もう歩けなくなって・・・・


「でね、村に帰ることにしたの。四才の子供って、馬鹿よねぇ(笑・・・・


アヤの声は、涙声になっていた。

その時の悲しみが、生々しく甦ってきたのかも知れない。


ナニワもマリオも思っていた。

『もう、話さなくていい!!!』


しかし、二人はその言葉を口に出来なかった。


「村が近づいてくるととね・・・・

「燃えているのが分かった・・・・・

「でもね、その時は、

   『おうちに帰るんだ。』

   『ドアを開ければお母さんがいて・・・』

   『お父さんもいて・・・』


「そう、思っていた・・・・



「私が着いた時、もう魔物はいなかった・・・・

「村中の家が燃えてて・・・



「私ね、走ったの・・・・


「おかしいわよね。ついさっきまで、もう歩けないって思っていたのにね・・・



「あの坂を越えて・・・・

「あの角を曲がって・・・・


「井戸のある広場を抜けて・・・・


「そう。もうすぐ見えるの!

「おうちが!!!


「でもね・・・・

「やっぱり、おうちも燃えてたの・・・・



「どんな気持ちだったと思う??

「何を考えたと思う??



「な〜〜〜んにも・・・・

「考えられないの・・・・


「おじさんがいたの・・・・

「みたことない人・・・・・



「なんか、話したはずなんだけど・・・・

「おぼえてない・・・・



「それでね、おじさん・・・・・

「両手をこう握って、私の前に出してね、どっちか選べって・・・


「私ね・・・

「すっご〜〜〜く、迷った(笑


「可笑しいわよね・・・

「四才くらいの子の考えることって・・・・



「それでね、結局、右手を選んだの・・・・

「そしたら、この子が出てきて・・・・


「不思議だったわ・・

「だって黒い光に包まれていて・・・



「そのおじさんと話したこと・・・

「ほとんど覚えてないんだけど・・・・・


「そのあと、おじさんが言った言葉だけは、今でもはっきり覚えている・・・・


『これからはこの戮目珠(りくもくじゅ)で自分の身を守れ。』

『使いこなせばそこそこ強い武器だ。』

『ただ使い方は、お前自身で覚えるんだ。いいな。』


「…うん。ありがとう。…。」


「そうふに(そういう風に)答えた・・・



「そのあと、おじさん、いつの間にかいなくてね・・・・



「私もね、ぼうっとしながら、この子を撫でてたの・・・



「お馬さんがね・・・

「たくさん、走ってくる音がして・・・


「この子、隠さなきゃ!!

「だって、この子まで取り上げられたら、私、独りぼっちだもん!!

「この子、隠さなきゃ!!って・・・


「そしたらね、この子、私の手の中へ、しゅーって入っちゃって・・・・

「よかったぁ・・

「これで、この子、取られないって思って・・・


「やって来たのは、お城の騎士団でね・・・

「騎士団長さまが、私を抱き上げてね・・・・


「あとは・・・・・・・ね?


「だけどね・・・

「そん時、四才だったでしょ?


「だから、ず〜っと思ってた・・・

「この子をくれた、おじさんが・・・

「迎えに来てくれるって・・・

「ほんと、ず〜〜〜〜っと・・・


「七才くらいの頃には、もう分かっていたけど・・・・

「あのおじさんが、村を滅ぼし、両親を殺した魔族だったんだってね・・・・

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