交喙の嘴 part1
さてどこから捜したものか。
彼女は用事があると言ってすぐ立ち去った。
そういえば警備団員が来たときは何時頃だったのだろう。
まずはギルド街に行くついで、待機所に行ってみよう。
待機所はコトワリ橋を渡ってすぐの所にある。
「すみません、今朝歓楽街で暴行事件があったと思うのですが、その被害にあった者です。キザキ・ハレイと申します。担当の方はいらっしゃいますか?」
「確認します、しばらくお待ちください」
受付の女性は、日々の慣れた作業をこなす要領で、淡々とハレイの話に関する業務を開始した。
得体の知れない書類をパラパラと確認している。
無機質な態度に反して、白くスラッとした指は人間味を、そして色気を放っている。
別の事を考えながらの会話だったので気がつかなかったが、綺麗な人だなーとハレイは見惚れていた。
「ごほん、キザキさん。キザキさん。あの!」
無機質な態度の受付の女性は呆けた面をした男を前に少し感情をあらわにした様子で呼びかけた。
「あ、あぁすみません。なんでしょうか」
ハレイは我に返った。
危うくこの女性の内なる色気にのぼせるところであった。
「今朝の暴行事件の担当者ですが、べギー・ハクランという団員で、現在巡回を行っています。しばらくお待ち頂ければ戻ってくると思いますよ」
「分かりました、では少し待つことにします。ありがとうございました」
「はい。あ、丁度来ましたね。あの方です」
受付の女性はハレイの後ろの方に手を示してそう言った。
「お待たせしたようで。べギー・ハクランです。それで、私に何の用でしょう。えーっと…キザキさん?」
無精ひげの男、今朝は朦朧としていたからか顔を見たとして覚えていなかったが、この人が担当者だったんだなあ。
「いえ、僕が来たところに丁度ハクランさんが来たので待つ事なく済みました。改めて今朝はありがとうございました。それで今回来たのは、待機所に来たという女性について聞きたいことがありまして。」
「あぁ、あの人ね。」
視線を上方に浮かべながら呟くべギー。
「その人が待機所に来た時間を覚えていますか?」
「確か5時頃だったよなぁー。うん…5時頃ですねえ」
太ももをポリポリと掻きながら答えるべギー。
5時頃か。その後すぐに去っていった…
「その後どこに向かったのか知りませんか?」
「いやーそこまでは分かりませんがね、ただギルド街の方に走って行きましたよ」
「ホントですか!」
心許ない情報にせよ、ありがたい!
今が16時過ぎ、5時にギルド街に向かったとしてまだ居るだろうか。
とりあえず職場に向かいがてら目を配っておこう。
「ハクランさん、ありがとうございます!では!」
手短に会話を終わらせ、飛び出した。
「おっと!忙しい人だなあ」
――30分後
結局何も手掛かりがないまま職場の冒険者ギルド兼酒場に到着してしまった。
デカデカと酒とコンパスの絵が描かれた看板。
建物の上の方に付いているその看板を見ていると少し遠くの方で、
「ちょっと!気をつけなさい!もう…謝りもしないんだから!」
そんな声が聞こえた。
その奥に……走り去る女の姿が見える!
あれは!いや考え過ぎだろうか…
うーん…よし!追いかけよう!
すると、
「ハレイ、なにしてんの?もうすぐ時間だよ!」
後ろから聞こえる明朗な声、これはハレイの少し先輩であるサラ・サプリックスの声だ。
「あぁ、サラさん。…なんでもありません、行きましょうか!」
追いかけたい欲望がピリピリと脳内を駆け走る中、仕事を放り出すわけにはいかない理性という名の天然鎮静剤が作用し、諦めることに決めた。
仕方ない、彼女はまた明日捜すとしよう。