日常のシミ part2
「!…い!…おい!…起きろ!大丈夫か!」
ぼやけた大きな声が聞こえる。
眩しい……
そうだ、返事をしよう。
「だ…うぶ…」
声がうまく出ない。
「なんだって?」
「だいじょうぶ……です……」
「こんな所で倒れて一体どうしたんだ?」
本当に俺はこんな所で一体何をしてんだ。
中々思い出せずにいると、
「お兄さん名前は?」
俺の名前は…
「キザキです…キザキ・ハレイです」
「キザキ・ハレイさんね、さっき若いお姉さんが警備団の待機所に来て、人が倒れてるって言うからここに来たんだけども。」
若いお姉さん…そうだ!俺は昨日女の人が襲われてる所を見て男連中から逃げて来たんだ!
もしかして!彼女もうまく逃げることが出来て、たまたま俺が倒れてるこの場所を見かけて警備団を呼んでくれたのかもしれない。
「あの!その女性はどこに?」
「なにやら用事があるとかで、ここまで案内して貰ったあとすぐどこか行っちゃったよ」
「そうですか…分かりました。わざわざ来ていただいてありがとうございます。あとは一人で帰れるので大丈夫です。」
「おっと、君は大丈夫でも私達が大丈夫じゃないんだよ!何があったのか話して貰わないと。」
「あぁすみません、忘れてました。」
俺は橋の前で奴らに捕まってそのあと…ボコボコにされて気を失っていた事を警備団員に話した。
もちろん女を見捨てて逃げようとしたところを見つかって追われた話の部分は全カット。
「ふむ、ちなみに風貌は?」
「スキンヘッドと金髪ロン毛とあと一人は…眼帯をしていて、皆ガタイがよかったです」
「分かった、男達は私達が対処しておこう」
「よろしくお願いします」
警備団員は手帳にメモをし、
「それではお気をつけて、キザキさん」
そう言ってその場を去っていった。
「何だか疲れちったなぁー」
自分で何を決断した訳でもなく、いつの間にか追われて知らぬ間に女性を救った事になっていただけなのに、久しぶりの非現実なヒロイック的多幸感に何食わぬ顔で浸っていた今日の朝。
――ここはエステルス王国首都メンデルの歓楽街の端っこの方。
歓楽街に安い賃貸があったのでそこに居を座している。
しかし夜も冷めぬ街の熱は騒音を生み出し、ゆっくり眠れた試しがない。
ここに住み始めたのは間違いだったのかもしれない。
だがそうは思わない自分もいる。
学もない才もない夢もない俺にとって夜は冷たすぎる。
人の生気である騒音は、心の隙間を通り抜けて深く悲観する暇を与えさせない、夜を生きる灯火となってくれる。
しばらく歩いていると自宅に着いた。
――ガチャッ
家に入ると、無意識下の緊張が解れたのか急に全身に痛みが広がった。
「これじゃ何も出来ないなぁ」
疲れも痛みもひどかった。
布団に倒れ込む。
やることはあったが、もう何も考えられない。
意識が言うことを聞かずに夢の中へ落ちていく。