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初めての異世界召喚  作者: 鍋ノ縁冗句
39/41

冒険者ギルドを目指して part1

「ぐすんぐすん」

「リオナ、大丈夫だって」

「本当ですか?」

「ほら、しゅっしゅっ」


立ち上がったハレイは、宙にパンチを繰り出す。

俺は元気だ!と言わんばかりに。

余計な心配をかけさせる訳にはいかない。

元の傷もあって体中めちゃくちゃ痛いけど、痩せ我慢!


「キザキ様……わかりました。でも無理はしないでくださいね?」

「うん、もちろん」


俺達はギルドに向かう為、この家を出る事にした。

幸い横で頭から血を流して倒れている赤いホブゴブリンが来て以来魔物は侵入してきていない。

あれから10分といったところだろうか。

そろそろ侵入してきてもおかしくない状況だ。

早めにこの家を出る必要があるが、未だに路地を跋扈する魔物によって動けずにいる。

まさかゴブリン全員があれほどの強さという訳ではないだろうが、数が多すぎる。

一人で何百も相手にする事は不可能。

せめて神託物語に出てくる女神の恩恵があれば……。

いや、あれはフィクションだ、すがるのはやめよう。


 ……本当にフィクションなのか?


約150年前、実際に起きた事実だとしたら……。

いや、だとすれば話が語り継がれているはず。

やはりフィクションか。

でも……魔法なりなんなり使えたら……何百何千の魔物にだって立ち向かえるのに。

どうしたらいいのやら……。


「リオナ」

「どうしましたぁ?キザキ様ぁ」


いつもの調子に戻ったリオナ。

そう、これでいい。

これでこそリオナだ。


「あ、あのぅ、そんなに見つめないでくださいぃ。恥ずかしいですからぁ」

「あぁ、ごめん」


知らぬ間に俺はリオナの顔をマジマジと見てしまっていたようだ。

リオナは堪らず頬を赤らめて目を伏せてしまった。

改めて見るとやっぱり整った顔してるよな。

ミルクティーベージュの髪色も綺麗だし。


「……これからの事だけど」

「これからですかぁ?私達のですかぁ?」

「あーうん、含んだ意味じゃなくて、本当にこれからの事ね。ギルドにどうやって行こうかって話」

「そういう事でしたかぁ。はぁ……」


リオナは残念そうに肩を落とす。


「そう落ち込むなって。これでもお前の事ちょっとは好きになったんだ。含んだ方の意味も少しは考えてる」

「ホントですかぁ!」

「うん、サラさんとシグラと一緒に遠い国にでも行こう。旅ってやつだな」

「ん?二人じゃないんですかぁ?」

「うん」

「えぇー!はぁ……でも、はい、わかりましたぁ。私はどこまでもくっついて行きますからねぇ?うふふっ」

「おう、ちゃんと掴まってろよ」

「はいぃ♪」


ウキウキ気分のリオナを見て、少しだけ頬が緩むハレイ。

こんな状況で俺は何を呑気な事言ってんだろう。

……サラさんとシグラの様子も見に行きたい。

ギルドの次は中央病院だ。


「で、ギルドに行くにはどうしたらいいかって話だけど、屋根を伝って行こうと思う」

「屋根ですかぁ?」

「うん、路地はゴブリンホブゴブリンが沢山いるし、あそこを突破するのはまず無理だろ?」

「確かに……難しいですねぇ」

「だから屋根を伝っていく。単純だけどそれしかない。ただ問題が一つ、空を飛んでる魔物だ」


窓の外を見ながら話すハレイ。


「あいつらが一体どんな動きをするのか分からない。俺達を見つけ次第襲ってくるのか、どうなのか。今のところ上空を羽ばたいているだけだけど……どうなんだろうな」

「はいぃ。でもそれしかないのなら、それしかないのでしょう」

「うん……そうだな!よし、じゃあそうしよう。屋根を伝ってギルドを目指す!コトワリ橋の手前まで屋根が繋がってるから、とりあえずそこまで行こう」

「はいぃ、仰せのままにぃ」

「なんじゃそりゃ。あ、そういえばギルドに行くまでの途中警備団の待機所もあるな。そこにも寄ってくか」

「あ、そうですねぇ。そうしましょう!」



俺達は準備を始めた。

傷薬、解毒薬、麻痺毒を在庫の分だけバックパックに詰め込む。

これだけでバックパックの半分は埋まった。

次に先ほどの鉄の剣を鞘に納め、腰に装備した。

左に柄を向ける事によって抜刀攻撃が可能になる為、そのようにする。

ハンディボウの矢は今日買った30本、バックパックの右横に装着した。

ハンディボウ本体は矢の反対側、左横に装着した。


「よし、後は食料だけだな」

1階がどうなっているのか分からないが、とりあえず様子を見るだけ見てみよう。


「リオナはここで待ってて」

「んんー、はいぃ、わかりましたぁ」


少し悩みつつもハレイの意思を尊重するリオナ。


――ガチャッ


部屋を出て、恐る恐る階段に近づく。

音がならないように……慎重に……。


――ぎしっぎしっ


うっ、少し音鳴るな。

まぁいいや。

少しずつ降りて、ようやく一階の全貌が明らかになった。


「ふぅ」


部屋全体を見回してみると目立って荒れている様子はない。

元々寂しい部屋だったし、逆に荒らす方が難しいか。

扉も丁寧に閉まっている。

あの扉が開いていたらまた展開も違ったのだろう、よかった。

ただ、正面に置いてあったテーブルは粉々になっていた。

もちろんテーブルの上に置いてあった食材も。

はぁ、デカ目鳥の卵高かったのになー。

晩餐も中止になっちゃったし。

まぁ仕方がない、うん仕方がない。


 カティアさん、大丈夫かな……。


「よし」


俺は階段を降りきって、台所にある保存食を取り出した。

干し肉、野菜の漬物、水、パン、あるだけバックパックに詰め込んだ。

これでバックパックの容量は限界を迎えた、思い残しはないだろう。



――ガチャッ


「おまたせー」

「いえぇ。あ、キザキ様ぁ、見てくださいぃ……これっ」


二階の自室に戻ると、リオナが駆け寄ってきて何かを見せてきた。


「ん?これは?」

「道具のナッチで買ったメンデルの矢ですぅ」

「あ、ホントだ」


メンデルの矢と言っても、剣尻型の矢じり部分だけを取り、それを頑丈そうな紐に通して見事なネックレスに仕上げている。

七色に輝くメンデルストーンを混ぜた矢じり、これだけ見ると立派な装飾品だ。

さっき何かイジってたと思ったら、これを作ってたのか。


「でぇ、んしょっ」


リオナは尖った矢じりに矢じりカバーを装着した。

確かにそのままじゃ危ないからな、懸命だ。


「うふふっ、どうですかぁ?」

「うん、イイ感じ」

「キザキ様の矢じりカバー、ずっと一緒ですぅ。んふぅ♪」

「だな」


こいつは何でこんなにも幸せそうな表情ができるんだろうな。

俺があげた矢じりカバーだけで。

本当に好きになりそうだからやめてほしい……まったく。


 はぁ、道具屋か……ナッチ、無事だよな。


「じゃあ、そろそろ行こっか」

「はいぃ、行きましょう」


――ガタッ


天井の一角を棒で外すと、折りたたみ式の梯子が出てきた。

グイッと伸ばし、梯子を完成させる。


「屋根裏に窓があるから、そっから出よう」


リオナは無言で頷いた。

さすがに緊張するよな。

今から魔物侵略の渦中となった街中に出るのだから。


俺が先に登り、リオナも後に続いた。


「ごほっごほっ。しばらく使ってなかったからなー、ホコリがすごい、へっくしょん!」

「ホントですねぇ、くちゅん!」


可愛いくしゃみをしやがって。

まぁいいや。


早速窓を開けてみると、これまで曇っていた音が鮮明に……一斉に届いてきた。


――グルルァァァ!!!

――ウォォォォオ!!!

――キャァァァァ!!!


雄叫び、叫び声、咆哮、煙のニオイ、雨のニオイ、血のニオイ。

この街は紛れもなく戦場と化していた。

冒険者や警備団が魔物と戦っているのだろう。

しかし戦闘能力のない民は路地で血を流し、倒れていた。

首をもがれた人間、四肢をもがれた人間、腹がえぐれた人間、残酷すぎる。

命を奪うだけでは物足りないというのか。


「……行こう」

「えぇ」


俺達は屋根に移り、走り出した。


「雨で滑りやすいから気をつけてな」

「わかりました」


コトワリ橋までは走って5分といったところだろうか。

今のところ飛行型の魔物は襲ってこない。

あいつら何してんだろうな。

こっちとしては有り難い限りだけど。



――グァァァア!!!


「ん?」

聞き馴染みのない声。

視線を下の路地に向けてみると、そこにはゴブリンとは違う、人に近い姿の魔物がいた。

全身の筋肉が剥き出しになっていて、ところどころ骨が見えている。


「あいつ何をしてんだ」

「キザキ様……あの魔物、人を……食べてます」

「えっ」


よく見てみると、横たわった人間の死体を一心不乱に貪っていた。

肉を裂き、内蔵を引きずり出し、喰っていた。


「うっ」

「キザキ様、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ。大丈夫」

「あの魔物は……神託物語でいう食人鬼、グールですね……」

「あれがグールか。実際に見てみると酷いもんだな……」

「えぇ……」

「……行くか」

「はい」


助けようにも手遅れなのは一目で分かったので、二人はその場を後にした。



――カタッカタッカタッ


あと少しでコトワリ橋だろうか。

コトワリ橋といえば、男連中に拐われた記念すべき思い出の場所だったな。

最近の事なのに随分と懐かしい。

彼らは生きているのだろうか、クズだろうが生きていて欲しいと思うのは愚かだろうか。

坂道に連なる家々の屋根を登りながら、そんな事を考えていた。


「リオナ、あと少しでコ――」


――ギャウ!!!


「どわっ!」


一瞬何が起きたか分からなかった。

しかし、視界に映る飛行物体によって現状を大まかに理解する事が出来た。

女性の体をした鳥型の魔物……ハーピーだろうか。

ヤツが俺の体目掛けて体当たりしてきた。

狙ってか偶然か分からないが、どちらにせよ俺は今……ヤバい。

なぜなら俺は今屋根の縁に足を尖らせバランスを崩しているからだ。

バランスを崩している?違うな、もう既に落ちていると言っても間違いではないだろう。

この体勢からどうやって屋根の上に戻れというのだ。


くそっ!下にはゴブリンとグールが3体ずつ計6体……魔物が少ない道を選んで屋根を伝ってきたにせよ、さすがに死ぬだろ……これ。

どっちで?高さ?魔物にやられて?

どっちもだ……高さはおそらく7メートル程ある、頭から落ちたら死んじまう。

助かっても魔物の餌食だ。

くそっ!くそっ!くそっ!


「うわぁぁぁぁぁあ!!!」

「キザキ様!!!」


――ドダッ!!!


「がはっ!」


見事に落ちた。

息ができない……痛すぎる……。

視界も霞んで周りが把握できない。

音も聞こえない。

だが、確実に俺の元に集まって来ているのだろうな。

ゴブリンとグール。


「がっ……はぁはぁ」


なんとか息は吸えるようになってきた。

こんなにも早い回復はアドレナリンのおかげだろうか。


 立ち上がれ!見せかけだけでもいい……剣を構えろ!俺!


「ぐ……ぐぅぅう!!!」

ハレイは精一杯の力を振り絞り、立ち上がった。

そして剣を抜き、熊流剣術最下段……反撃の構えをとった。


今になってようやく視界が戻る。

当然だが、ゴブリンとグールが周りを囲むようにこちらを睨みつけていた。


「キザキ様!!!キザキ様!!!」


音も聞こえるようになってきた。

リオナが大声で叫んでいる。

そんな事をしたら魔物が寄ってくるだろうが、まったく。


「リオナ!先にコトワリ橋に行け!俺もすぐに行く!」

「ダメです!!!すぐそっちに行きます!!!」

「リオナ!」


リオナは屋根から飛び降りようとしていた。

7メートルもあるのだからただじゃ済まないだろう。

俺は体が頑丈だから無事だったものの、リオナじゃ……。


「やめろ!リオナ!」

本当に飛び降りる気だ。

くそっ!


『クルァァァァ!!!』


ゴブリンの甲高い叫び声を皮切りに、3体のゴブリンが襲い掛かってきた、グールは様子を見ているようだ。

俺を三角形に囲むよう3体同時に飛びついてくる。

前方のゴブリン、空中で無防備になった小さな体を振り上げるように剣で突き刺し、そのまま前に突進する。


「どらぁぁぁぁあ!!!」


人間の追い込まれた気迫に圧倒されてか、魔物が距離を置く。


――プシュッ


剣に突き刺さったままのゴブリンを地面に落とす。

そして……


「行くぞ!リオナ!」

「は、はい!」


屋根に居るリオナに声をかけると、俺は全速力で坂を上り始めた。

コトワリ橋まであと少し、前方に見えるのは数体の魔物……イケる!


「どけぇぇぇえ!!!」


邪魔なゴブリンを蹴飛ばし、斬り伏せ、ようやく坂の上が見えてきた。

やっとコトワリ橋に辿り着いたのだ。


「よし!着い……た……?」


 嘘だろ……


坂を上りきり、コトワリ橋が見えた。

しかしそこでは魔物大群、人間の大群が拮抗して争っていた。

街で一番大きいコトワリ橋は、大勢の生物によって踏み荒らされていた。


向こう側、ギルド街に行くにはあそこの橋以外道がない。

どうしろってんだ。


「キザキ様……これは……」


いつの間にか降りてきていたリオナが、隣で体を震わせていた。

彼女の体と密着する腕に震えが伝わってくる。

生死を賭けた人間と魔物の雄叫び、咆哮、その圧は大気を震わせ、辺りを恐怖で染め上げていた。

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