明日に備えて part1
――35分後
道具屋と薬屋の近くまで来たハレイとリオナ。
道具屋とはもちろん道具のナッチ。
薬屋はもちろん魔女の隠れ家。
行きつけだからな。
「んふぅ♪んふぅ♪」
道すがらやっとの思いで離れてくれたリオナは、ハレイの後ろで鼻歌らしき何かを発しながらついてきている。
さて、まずは道具のナッチに行くとするか。
今回はハンディボウ用の矢を買っていこうと思う。
ハンディボウとは、片手で扱える小さいボウガンの事である。
ハレイの自宅にも一丁ある。
今回の駆除対象である狂暴ザルは、おそらく木々を俊敏に飛び移り、こちらの様子を伺ってくるだろう。
なので牽制の為、もしくは中距離から一撃で仕留める為にも、ハンディボウを持っていくべきではないかと、ハレイは思ったのだ。
「リオナ、まずは道具屋に行こう」
「今夜私を陵辱する為の道具を買うのですかぁ?キザキ様ったらもぅ……んっ」
「そんな訳ないだろ!あっ、そういえば言ってなかったか。さっきギルドに行った時依頼を受けてな。明日ちょっと出かけてくる」
「あぁ!それで準備のため道具屋に行くのですねぇ?……はぁ、残念ですぅ」
「お前が言うと何に対して残念がっているのか分からんが……そういうことだ」
「うふふっ、あっ……ちなみにどういった依頼なのですかぁ?」
「大量発生した狂暴ザルの駆除だ」
「狂暴ザル?……キザキ様、私も行きます」
急に真面目な顔つきになるリオナ。
「いや、お前は来るな」
「ついて来たいのなら、ついて来ればいいと言ったのはキザキ様です。私はついていきます」
「そうは言ってもなぁ。かなり危険だぞー?」
「だからこそです。シグラが居ない今キザキ様を守れるのは私だけです」
「あ、それなんだけど。一人で行く訳じゃなくてギルドマスターが一緒に来てくれるみたいだから。問題ないよ」
「ムキキー!あの女……!だったら尚更ですぅ!私も行きますぅ!」
ハレイの服を掴んで揺さぶるリオナ。
「ん?お前ギルドマスターの事知ってるのか?」
「知ってますよぉ?ちなみに向こうも私の事を知ってますぅ」
「へぇーそうなんだ。なぁ、お前の事を知ってるって言うのは……表の顔か?」
「いぃえ、裏の顔ですぅ。私が王家の人間だと言う事は知らないはずですよぉ?」
「まったく、どういう繋がりだよ……ギルドマスターと快楽殺人狂、想像つかねぇ」
「心の闇……私と彼女は似ているのかもしれませぇん」
「いやいや!お前なぁ……」
「うふふっ、冗談ですよぉ?」
「はぁ、まぁでもそうか。よし、じゃあ明日お前も来い」
「やりましたぁ!キザキ様ぁ♪キザキ様ぁ♪」
ハレイに抱きつくリオナ。
「お前!このやろ!離れろってんだ!このっ!」
「あぁーん!ヒドイですぅ!」
「ヒドいのはお前だろ!怪我人に容赦なく抱きつくなんてよ!痛えんだよ!」
「あ……申し訳ありませんでした。キザキ様……」
スッと離れ、俯くリオナ。
「お、おい……急にどうしたよ、なぁ。お前人が苦しむ姿見るの好きなんじゃねえのか?」
「はい……でも……申し訳ありません。つい自分の事ばかりで……キザキ様に触れたくて」
「よく分からんやつだなぁお前は。急にシュンとしやがって。まぁあれだ。右腕は痛くないから、別にいいぞ……少しの間だけな!少しだけだぞ!」
はぁ、なんで俺はコイツの事を心配してんだ。
俺の腕はサラさんの為にあるようなもんなのに。
でも仕方がない。
こんな申し訳なさそうで寂しそうな顔されたら放っておけねえよ。
「え……?……では遠慮なくぅ!キザキ様ぁ!うっふぅーん!」
右腕に飛びついてくるリオナ。
その勢いは飢えたライオンの如く。
なんという切り替えの早さ。
「どわぁ!」
体への衝撃は、彼女の豊満な胸が緩衝材となり、痛みをほぼ感じずに済んだ。
これじゃ心配は要らなかったか……。
そのまま放っときゃよかったぜ……。
「うふふっ。……ありがとうございます……優しい優しいキザキ様」
小声で呟くリオナ。
「何か言ったか?」
「なんでもありませんよぉ?」
「ん、じゃあ行くぞ」
「はい♪」
そうして二人は道具のナッチに向かった。