心の傷は深くまで part4
乗り心地も良いし、香水のおかげで落ち着くし、なんだか眠くなってくるなあ。
「ハレイ……さっきはごめんね。わたしおかしくなっちゃってた」
少しずついつもの調子に戻ってきている様子のサラ。
「へ?あ、いえ!誰にでもそういう事ありますから。」
ウトウトしていたハレイは少しだけ雑な返答をしてしまった。
「あはは!ごめん、今眠たかったねっ。邪魔しちゃった」
「いえ、サラさんの声を聞けるなら一週間でも起きてますよ」
「もうっ、反応しづらいよ…ふふっ」
冗談なのか本気なのか分かりにくいハレイの言動に戸惑いつつも嬉しそうなサラ。
「ははは、ごめんなさい。……それと、謝るべきは俺の方です。サラさんのトラウマを掘り起こしてしまったようで、本当にすみません」
徐々に目が覚めてきたハレイの思考回路は元来の活動を始めた。
「ううん、謝らないで。わたしが勝手に変な風に考え込んじゃっただけだから。でも、うん。わたしね、14歳の時に父親に犯されたの。父親とはいえ血は繋がってないんだけどね。でも小さい頃から一緒だったから実の父親みたいなもので、その時すごく怖くて、心も身体も痛くて、普段見てた顔とは全く違くて、わたしを犯してる最中ずっと猛獣のような顔をしてた。でもそのあと運良く警備団員だった叔父が家に来て、あの人を連行していったの。それでその日からわたしの父親は犯罪者になった。父親ではなく、ただの犯罪者になったの。あの人に同情はしないし、他の犯罪者にも同情しない。……そう思ってて、でも普段はあんなに怒ったりしないんだよ!あの時は、なんていうか……好きな人にああいう事言ってほしくなかったっていうか……はっ!なんでもない!」
「あ、すみません。最後聞き取れませんでした……もう一度お願いします」
「え?あ!ううん!大したことじゃないから大丈夫!」
「ん?そうですか……サラさん、今まで本当に大変でしたね。あまり気の利いた事言えないですけど、本当に、辛かったですよね。男性恐怖症とかそういうのは大丈夫なんですか?」
初めて出会った時のギルドでの乱闘騒ぎ、とんでもない恐怖を感じた事だろう。
それに俺だってついさっき軽々しく手触っちゃったし、嫌だったかな。
「ふふっありがと。男性恐怖症はだいぶ改善してきたけど、やっぱりまだ少し怖いかな……あっでもハレイは特別だよ?私の事助けてくれたし、それになんか安心するの。よく分かんないけど、初めて会った時にこの人なら信頼できるって、そう思ったの。」
「ふふふまだ分かんないですよー?めちゃめちゃ極悪人かもしれない!」
「あはは、ハレイは絶対に悪い人じゃない!だって寝顔すごく可愛いし」
ハレイの頬を人差し指で突くサラ。
「え!いやいや、え?」
困惑するハレイ。
「ギルドで乱闘騒ぎがあった後、ハレイ入院したでしょ?その時2日間意識が戻らなくて、その間わたしずっと側に居たんだよ?」
「そうだったんですね……その節はありがとうございました。それでその時に寝顔を見たと」
「うん、ちなみにおむつもわたしが替えてあげたんだよ?」
なにやら秘密を握っているかのような表情で薄ら笑みを浮かべ、こちらを見るサラ。
「ふむふむなるほどおむつを……おむつを!?!?え?じゃあ、え?ゲホッゲホッ!え?」
赤面必須のセリフが脳内を駆け巡って止まらない。
おむつを替えたってことは……そういう事だよな……
うわぁぁぁあ!!!
そして、2日間という事はおそらく糞尿を垂れ流していたのだろうな。
そんな汚穢なおむつをあんな綺麗な手で……
しかもケツに付着した糞を拭き取ってくれて……
頭が上がらねえよ……
ていうか顔見れねえ……
「ふふふっ、それだけ初対面の時から信頼してたの。出会って1日2日の男の人のおむつを替えたいと思えるくらい、初対面の時から安心できたの」
「そ、そうですか……」
恥ずかしさが治まらないハレイ。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいんだよ?おむつは替えたけど、その……ちょっと……しか見てないから!おしっこだけでそんなに汚れてなかったし!」
何を思い出したか少し照れながら話すサラ。
「そうなんですね!そうならそうと早く……とはいえまだ少し恥ずかしいですけど、なにより、ありがとうございました。」
糞が漏れていなかった事に安堵し、少しずつ平静を取り戻してきたハレイ。
だがやはり完全には拭いきれない。
なにせ……ちょっと、見てる訳だからなっ!
うっ……また恥ずかしくなってくるから考えないようにしよう。
「ううん、わたしがしたくてした事だから礼なんて……でも、どういたしまして!」
曇りのない純粋な笑顔で真っ直ぐとハレイを見つめるサラ。
そんなサラを見て、ハレイは安心した。
やっといつものサラさんに戻ってくれた……よかった、と。