プロローグ 中編
――バタン!!!
「きゃっ!」
「待たせた!!!」
「え!あ、鳥羽ルークさん!びっくりしましたよ。いきなり勢いよく扉が開くんですから。ちゃんとノックをしてから入ってください」
「え?来るって分かってるんだから良いじゃないですか」
「良くないです!次からは必ずノックしてください!」
「今までは何も言わなかったのに……いまさら」
「必ずノックしてください!!!」
「うわっ!はい、わかりました……」
「うふふ、いい子ですね。よしよし」
「おい!私の頭を撫でるな!」
「サラサラで触り心地がいいからつい撫でたくなっちゃうんですよ。鳥羽ルークさんが悪いんですよ?ほらバブちゃん、よしよし」
「ばぶー!……って危ない危ない。溢れ出る聖女さんの母性に溺れるところだった……」
「ちっ、惜しい」
「舌打ちするんじゃないよ!はぁ、ところで召喚……教えてくれるんですよね」
「あぁ、はい。お教えしますよー」
「じゃあ早いとこ教え……あ、その前に、これあげます」
「ん?ありがとうございます。……これは、ミルク石鹸?」
「はい、ミルク石鹸です。これからお世話になるので」
「へぇー、鳥羽ルークさんにもこんな事できるんですねぇ?うふふっ」
「どんだけ私を見下してんだ!」
「え?だって鳥羽ルークさんですよ?礼儀の心得なんてミジンコのクソくらいしか無いじゃないですか」
「聖女さん?言葉が汚いですよ?」
「あらお見苦しい所をお見せしてしまったようで、申し訳ない事でございます」
「見たし聞いたよ……はぁ話を戻すけど、早いとこ召喚について教えてくださいよ」
「はい、じゃあついてきてください」
「ん?分かりました」
聖女は部屋にある玄関扉とは別の古そうな扉を開いた。
するとその先には階段があり、ジメジメとした陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
聖女がその階段を颯爽と降りていくので、アルカシリオも恐る恐るついていく。
「聖女さん、これってどこに繋がってるんですか?」
「教会の地下ですよ」
「ふーん、何があるんですか?」
「色々です。地下墓地もありますし、拷問部屋もありますし、堕ちた天使の処刑場もありますし」
「ん?え?ちょっとよく分からんのですけど、何で教会の地下にそんな場所が?」
「なんででしょうねー。まぁ今から行く場所は私の書斎ですので心配なさらないでください」
「そうですか、分かりました。で、何で教会の地――」
「なんででしょうねー!!!」
「うわっ!聖女さん?」
「あらごめんなさい、えっと何か仰いましたか?」
「い、いえ何も……」
「ですよねー」
その後しばらく階段を降り、階段が終わると次は複雑な迷路のような廊下を延々と進み、やっとの思いで彼女の書斎へと辿り着いた。
――ギィガシャ
「うふふ、ここが私の書斎です。どうです?」
「うん、整理整頓されていて気持ちがいいですね」
「はい、普段から整理整頓は心がけていますから。よかったです」
「それで――」
「えぇ、分かっています。召喚についてですね?」
「そうです」
「ではまず最初に……鳥羽ルークさんはなぜ召喚をしたいのですか?」
「魔王軍に対抗する為、いえ魔王軍を滅ぼす為です。次の魔王軍襲来は150年後、彼らは今回の戦いよりも一層強くなって現れるでしょう。異世界人が一人いる状態で臨んだ今回の戦い、ギリギリで勝ちました。それではダメなんです!次回の魔王軍襲来時には最低でも異世界人三人、確実に必要なんです!私を含めて四人、これだけ居れば奴らを滅ぼすことが出来ます」
「そうですか。鳥羽ルークさんの考え、しかと聞かせて貰いました。確かに異世界人の力は必要だと私も思います。ですが召喚には希少な材料を消費しますし、体力も大幅に消費します。鳥羽ルークさんの驚異的な体力でも三人を召喚するのは危険です」
「いや、私はどうなってもいい。召喚した三人がその後の世界をどうにかしてくれるだろう」
「何を言ってるんですか?危険なのは鳥羽ルークさんではなくて、召喚された側の人間達です」
「へ?」
「最悪の場合、記憶喪失や身体能力の低下。知能の欠落もありますし、そのまま植物人間になって衰弱死する場合もあります。召喚すればあとは何とかしてくれるだなんて思わないでください」
「は、はぁ、すみません」
「しかしやってみる価値はあるでしょう。どっちにしろ召喚しなければこの世界は滅んでしまうのですから」
「うん、私もそう思います」
「召喚はするという事で決まりですね」
「決まりです!」
「はい、では材料についてですが……ベヒモスの心臓と黄金マリモ、そしてグリフィーネの羽が必要になってきます。そして召喚用の魔法陣を描くのですが、それに必要なのがヴァンパイアの血です。これらの材料を人数分揃える事はできますか?」
「ベヒモスの心臓、黄金マリモ、グリフィーネの羽、ヴァンパイアの血……もう持ってますよ」
「え!それだけのレア素材どうやって!というかどこに!」
アルカシリオは突然空中に現れた魔法倉庫に手を突っ込むと、まずは心臓、次にマリモ、羽、そして血を順番に取り出した。
「これでいいんだよね」
「はい!一体どうやって……こんなにも」
「最前線で戦ってましたからね」
「へぇー、鳥羽ルークさんって凄かったんですねぇ!」
「いや、私は大して凄くもない。聖女さんがお世話してくれたおかげもありますし、皆が全力で戦ってくれたおかげもありますし、私だけでは一分も生きていられませんでした」
「またまたぁ。でもそういう謙虚なところ、私は好きですよ」
「何を急に!そ、そういうのはいいから召喚について教えてくださいよ」
「うふふ、分かりました。まぁでも教える事なんて殆ど無いんですけどね。召喚用の魔法陣は私は描きますし、召喚材料の設置も私が行いますし」
「そうですか。覚えることが少ないのならそれに越した事はないので私としては嬉しいです」
「ですね。うーん、教える事と言えば……魔法陣に魔力を供給する『活魔法陣発動作法零式』という儀式作法ですね。これを行う事によって初めて準備した魔法陣に命が宿るんです」
「ん?かつまほうじ……え?」
「覚えにくいですよね。ここでは『召喚作法零式』とでも呼びましょうか」
「召喚作法零式、おー!これなら覚えやすい。ちなみに壱式や弐式はあるんですか?」
「ありますよー。零式は人間の召喚なんですが、壱式は精霊召喚、弐式は魔物召喚なんです。あと最後に参式ですが、これは特殊でですね、召喚というよりも転送と言った方が近いかもしれません」
「ほー、なるほどー。でも転送っていうのはどういう?」
「はい、転送は人間を未来に召喚する召喚術式です。ですが参式では過去に召喚する事は出来なくて、一方通行になってます」
「未来に召喚……なるほど」
「ちなみに私は今、過去に召喚する召喚作法肆式を考えているところで、いずれ実用化したいと思ってます。完成まではまだ時間がかかりそうですけどね」
「聖女さんって凄い人なんですね」
「今さらですか?まぁそうですね、じゃあ取り敢えずこれから計画を練っていきましょうか」
――1時間後
「――そんな感じで、零式と参式を組み合わせた複合式召喚作法を使えば、鳥羽ルークさんの考えた計画通りに進むと思いますよ。異世界人三人を150年後に召喚、そして鳥羽ルークさん自身も150年後に召喚するっていう」
「これでなんとかなるって訳ですね」
「うふふ、はい。では明日から早速修行に入りましょうか」
「修行?」
「はい、修行です。召喚作法はコツがいるんで。それに体にかかる負荷にも慣れないと」
「そっかー、分かりました。お手柔らかにお願いしますね?」
「ふふ、任せてください。では、今日のところは休みましょう。この部屋使っていいですから」
「いいんですか?ありがとう聖女さん」
「布団は無いですけど寝袋があるので寝る時はそれを使ってください」
「了解でーす」
「それじゃ私は自室に戻ってますんで。何か用があったら来てください」
「はーい、おやすみなさーい」
「おやすみなさい鳥羽ルークさん」
――ガチャッバタン
さて聖女さんも行ったことだし、この質素な寝袋で寝ますかねぇ。
夜になると冷えるこの季節。
寝袋の品質なんて気にしちゃいられんよな。
「――鳥羽ルークさーん、朝ですよー、起きてくださーい」
「ぬっ!あ、おはよう聖女さん」
「おはようございます。寝れましたか?」
「おかげさまでグッスリと」
「それは良かったです。では早速修行といきましょうか」
「え?朝ご飯は?」
「修行のあとです!」
「えー!はぁ、わかりました。さっさと済ませましょう」
「はい、ではついてきてください」
――バタン
なんの説明も無しに部屋を出ていく聖女に無言でついていくアルカシリオ。
修行といっても一体どんな事をするのか見当もつかない。
もちろん召喚作法に関する修行だろうが……。
「到着です」
「ん?ここは?」
「元々空き部屋だったのですが、広くて修行に適してるかと思いまして」
「確かに広いけど……これから何をするんですか?」
「はい、これを見てください。私が用意しました」
彼女が手で示す方を見てみると、床に魔法陣らしきものが描かれていて、一見不規則な様に見える位置に怪しげな物がいくつか置いてある。
「これは魔法陣ですか?」
「はい、魔法陣です。今日はこの魔法陣を発動してもらいます」
「これって何を召喚する魔法陣なんですか?」
「魔物です。まぁ魔物と言ってもほとんど害のないスライムですけど」
「なんだ、スライムか」
「はい、じゃあまず私が手本を見せますのでよく見ていてください」
そう言うと聖女は両手を魔法陣に向け、目を閉じた。
すると体が発光し、光の粒子が空中を漂い始めた。
そして光の粒子は魔法陣に降り注ぎ、描かれた線は輝き出す。
しばらく経つと、今度は逆戻りするように輝く線から光の粒子が飛び出し、魔法陣の真上に凝縮されていく。
凝縮された光は非常に眩しく、直視などできたものではない。
その様子を最大限に目を細めて観察していると、一層輝きを増し、直後何か物体が床に落ちる微かな衝撃を感じた。
「あ!スライムだ!本当に召喚できるんだな……」
「えぇ、では鳥羽ルークさん、やってみてください」
「え?いや、やってみてくださいって言われても見ただけじゃ分かんないよ」
「こればっかりは才能ですので。とりあえず魔法陣に両手を向けてみてください。そしたら魔法陣の内的資質が手のひらに、そして頭の中に流れ込んできます。それを汲み取ってあげる事で魔法陣本来の力を引き出す事が出来るはずです」
「何を言ってるのかサッパリだけど……オッケー、やってみるか。ん?ところで魔法陣って何回も使えるものなの?」
「はい、この魔法陣は私が開発した練習用の魔法陣で、100回まで使えますよー」
「へー、便利な魔法陣だねぇ」
「はい、まぁそういう事ですから。心置きなく修行してください」
「それはありがたい……では、やってみますかね」
アルカシリオは静かに両手を魔法陣に向けた。
そして視界の端でスライムがぽよんぽよん飛び回っているのが気になるので、目を瞑ることにした。
今は召喚に集中するんだ。
……。
何も感じないが……。
ん……来た!
なにやら手の平がこそばゆい。
続いて血管の中を何かが伝っているような感覚がしてきて、そのまま頭の中に集結していった。
これが魔法陣の内的資質というやつなのか?
これから召喚するべきものが何なのか手に取るように分かってくる。
眼球に被さる瞼の先に光を感じているのは、聖女さんと同じ様な現象が起きている証拠だろう。
おそらく今のところは順調だ。
このまま行こう。
私は君を召喚したい……。
召喚させてくれ!
むぅん!知識の奔流が私の魂を震わせる!!
「うおおおおおおお!!!」
――ぺたん
「ゼェゼェ、ハァハァ」
「あ、召喚出来たみたいですね。スライム」
「はい、ゼェゼェ、召喚できました、ハァハァ」
「素質があったようでなによりです。ここで頓挫するような事があればどうしようかと思っていたのですが、安心しました」
「ふぅ、しかしスライムを一体召喚するだけでこの疲労感……魔力はさほど消費してないようだけど」
「鳥羽ルークさんの魔力量は異常ですからね。私も魔力量には自信がある方ですが、鳥羽ルークさんには到底及びません。ですが異世界人を自身合わせて4人召喚するとなると鳥羽ルークさんでもギリギリです。それに加え召喚疲労、今のやつですね。それもあるので、やはり修行は必然です」
「そうですねぇ、はぁ、道程は遥か遠くまで続いているようです」
「はい、長い長い道程です。私も応援してますから頑張ってください」
「ありがとう聖女さん」
「いえ、では私は教会のお務めに行ってくるので鳥羽ルークさんはここで修行していてください。お務めが終わったらまた来ます。おそらく夜になるとは思いますが」
「分かりました。聖女さんも頑張ってくださいね」
「うふふ、ありがとうございます。では」
――ガチャッバタン
「よし、やるか」
視界の端でスライムが二体元気に跳ねているが、気にすることなく修行を始めた。
あれ?そういえば……朝ご飯……まぁいいか。
――カーンカーンカーン
あ、18時の鐘ですね。
あと1時間程お務めをしたら鳥羽ルークさんの様子を見に行きましょうか。
――1時間後
「今日はこの辺までにしておいてっと」
早速鳥羽ルークさんの様子を見に行ってみよう。
さて、どこまで進んでるかなぁ。
初日だし疲れて寝ちゃってるかもしれない。
そういえば休憩取るように言ってないけど大丈夫だったかな。
まぁ鳥羽ルークさんだし大丈夫か。
「到着、入りますよー!」
ん?返事が無いけど、まぁいいや。
――ガチャッ
「おつかれさ……ええええええ!」
扉を開き、目の前に現れた光景は現実のものとは思えなかった。
部屋中を飛び交うスライムの大群。
ぽよんぽよんと元気そうにはしゃぐスライム達は、召喚主の鳥羽ルークさんの体に時折ぶつかりながら、この世に誕生した事を大いに喜んでいる。
「ちょっと!鳥羽ルークさん?おーい、鳥羽ルークさーん!」
「はい、なんでしょう」
「えっと、これはどういう事ですか?いや、召喚したっていうのは分かりますけど。なんで処分しないんですか?」
「処分だと!私が召喚したこの子達を……この世から消し去るなんて……できない!!」
「いやいや、だってこれじゃ邪魔でしょ」
「薄情者!私の子達を邪魔扱いするなんて!」
「鳥羽ルークさん、召喚疲労でおかしくなっちゃったんですか?」
「私は正常だ!」
「はいはいそうですか。じゃあ私が処分しちゃいますね……えい」
聖女は腰につけていた小杖を手に持ち一振りすると、部屋にいたスライム達はみるみる内に消滅した。
「あ、あぁ……私の叡智……うぅ……」
「もう……確かに召喚した対象に愛着が湧いてしまう気持ちは分かりますが、スライム達に気持ちなんて存在しないんです。こっちが何を思おうと彼らには関係のないこと。次からはきちんと自分で処分してくださいね」
「はぁ、分かりました……」
「はい、よろしい。じゃあ今日の所は終わりにして、ご飯にしましょうか。あ、それとも先にお風呂にします?」
「私ご飯の前にお風呂派なんで、先にお風呂入ってきます」
「そうですか、分かりました。ではご飯作って待ってますので、ゆっくりと浸かってきてください」
「はい、ありがとう聖女さん」
――チャポン
「ふぅ、いい湯だぁ……」
召喚にはこの一日でだいぶ慣れてきた。
やっぱセンスあんのかなぁー。
ほっほっほ、鼻が高いのー。
はぁ……でもやっぱりあのスライム達可哀想だよな。
いや、でも処分しないとダメだよな。
殆ど害がないとはいえ魔物だもんなー。
「はぁ、そろそろ出るか」
――ガチャッ
聖女さんの部屋に入ると、途端にいい匂いが鼻腔を刺激する。
これはカレーだ!
「聖女さん!晩ご飯カレー?」
「はい、カレーですよー」
「うひょー!お腹空いてきたー!カレーの匂いってなんでこんなにも食欲をそそるんだろ」
「ですね、私もすっかりお腹空いてきちゃいました。あ、ご飯よそってくれますか?私のは普通盛りでお願いしますね」
「はーい」
アルカシリオは、自分の分はやや多め、聖女さんの分は普通に盛りつけた。
それを鍋の前に立っている聖女さんに手渡す。
まずは自分のお皿にカレーを入れてもらう。
次に聖女さんの分を手渡す。
「あれ?普通盛りでお願いしますって言いましたよね?これじゃお子様カレーじゃないですか」
「え、え?じゃあもう少しよそってきますね」
「はい、お願いしまーす」
これが普通じゃないだと……。
私の普通がおかしいのか?
いやそうじゃないだろ。
こうなったらガッツリ盛りつけてやる!
アルカシリオは、しゃもじ一杯によそってどっさり盛りつける。
「聖女さん、これでいいですか?」
「うーん、今よそったのと同じくらいのをあと三回お願いします」
「あ、はい、分かりました」
――どさっどさっどさっ
「これでオッケーですか?」
「はい、バッチリです。ありがとうございます」
これが普通盛りだと!?
天高く盛り上がった白米。
供物でもここまで盛らないぞ……。
大盛りになったらどうなるんだ?
手首に痛みを伴いつつ大盛りの、否、普通盛りのお皿を聖女さんに手渡す。
「あ、自分で持っていくので鳥羽ルークさんは先に座っててください」
「わかりましたー」
アルカシリオは、自分の皿を持って居間に置いてある小ぶりのちゃぶ台にゆっくりと置いた。
そして既に敷かれていた座布団に腰を下ろした。
美味しそうな匂いを漂わせるカレーを目の前に、お腹を鳴らしながら聖女さんを待っていると、程なくしてやってきた。
「お待たせしましたー」
そう言って特盛りの、否、普通盛りのカレーをちゃぶ台に置くと、少しだけ軋んだような気がした。
「うわー!もう我慢できない!食べましょー聖女さん!」
「うふふっ、そうですね」
二人は声を揃えて「いただきます」と言い、カレーを食べ始めた。
「んー、んまい!んまい!ガツガツ」
「鳥羽ルークさん?んまいのは分かりましたから、がっつき過ぎですよ?」
「んまい!んまい!」
「もう……パクパク。うん、美味しいですね」
「はい、めっちゃ美味しいです」
ん、ん?一見おとなしそうに食べているけど、一口がデカい!
みるみる内に白米とカレーが消えていく。
聖女さんの口は異次元に繋がっているのか?
「もぐもぐ、どうかしましたか?もぐもぐ」
「いや、美味しそうに食べるなーって思って」
「そうですか?まぁ実際美味しいですから!顔に出ちゃってたみたいですね。ふふふっ」
「ガッツリ出てますね、ハハハ」
――カチャリ
「ふぅ、美味しかったー。また作ってください」
「嬉しいこと言ってくれますねぇ。じゃあ毎週金曜日に作る事にしますね」
「わーい!やったー!」
「鳥羽ルークさんってたまに子どもになりますよね、うふふっ」
「え?私が子ども?」
「はい、まぁそういうところも含めての鳥羽ルークさんですから、私は良いと思いますけどね」
「ほう?そうですか」
「よし、じゃあ私お風呂入って来るのでお皿水に浸けといてくれますか?」
「わかりましたー」
部屋を出てお風呂に向かう聖女さんの背中を見送り立ち上がると、皿をシンクに置き水に浸けた。
しかし、どうにもモヤモヤするので自分で洗うことにした。
ご飯を食べた後すぐに洗いたくなってしまうのは、長年の癖だろうか。
「うん、いいね」
ピカピカに洗い上げた皿とスプーンを見つめて満足する。
それらを水切りカゴに置くと、再びちゃぶ台の前に戻り、座布団の上に座った。
うーん、勝手に部屋に戻るのもあれだしな。
待ってるか。
――40分後
眠くなってきたな。
ん?なにやら足音が聞こえてくる。
聖女さんがお風呂から出てきたようだ。
――ガチャッ
扉の先から現れたのはパジャマ姿の聖女さん。
普段とは違った印象だ。
「もう!鳥羽ルークさん!浴槽にチリ毛が浮いてたんですけど!お風呂から出る時はちゃんと確認してから出てください!」
「あ、すいません。確認したつもりなんですけど、あれですか?端の方にくっついてました?」
「はい!端の方にくっついてました!まったく……罰として明日の一番風呂は私が貰いますからね」
「えぇ!はぁ、分かりました」
「次からは気をつけてくださいね?」
「はーい」
「うん、ん?あれ?お皿洗ってくれたんですか?」
「はい、洗っちゃいました」
「えー!ありがとうございます!うふふっ、嬉しいです。いや本当に嬉しいんですよ?」
「大した事じゃないのに……変な人ですね、聖女さん」
「うふふっ、かもしれないですね」
「ふわぁ、眠くなってきたのでそろそろ部屋に戻りますね」
「えぇ、ゆっくり休んでください。おやすみなさい」
「はい、聖女さんも。おやすみなさーい」
部屋を出るとそのまま聖女さんの書斎、現自室に戻っていった。
結構距離があるので歩いている内に目が覚めてしまうかと思ったがその心配は要らなかったようで、部屋に戻るなり寝袋に包まると、すぐさま眠りにつく事ができた。