心の傷は深くまで part2
どうしたものか。
元気づけるって何をしたらいいんだ?
……とりあえずこんな人通りが多い門近くの道端に居ても仕方ないし歩こう。
あ!違う違う!ヘックテペテル湖に行くんだから馬車を手配しないと!
ここからヘックテペテル湖まで約10kmと言ったところだろうか。
歩いて行くには少し遠い。
「あの、サラさん。とりあえず馬車、手配するので一緒に行きましょう」
いつもより優しさを意識して声を出す。
「うん、ごめんね」
やはり滅入ってしまっているようだ。
しかしここで家に帰すのも、逆効果だろう。
今日起きた嫌な事は今日中に晴らしておかないと!なんとかして!うー、なんとかってなんだよ……
――とりあえず俺なりに頑張ってみるしかない。
まずは馬車だ馬車。
二人は、すぐそこにある馬車乗り場に向かった。
一歩近づく度に干し草や、馬のにおいが増していく。
これだけ10頭も20頭も集まっていれば当然か。
さてどれがいいんだろう。
んー、ん?
悩んでいると話しかけられた。
「や、やぁ!ちょ、調子はど、どうだい?ば、馬車をお探しなら、ぼ、僕のば、馬車は、ど、どうかな?」
怪しげな口調の、いや悪い人ではなさそうだが、怪しげな口調の……どうやら御者のようだ。
純白でサラサラの髪の毛に、目の下まで伸びた前髪……そして意外にも、意外にもとは失礼だが、端正で中性的な顔立ちだ。
どうしようか、歳も近そう?だし、この人に頼もうか。
歳が近そうだからって理由だけで決めるってのもどうかと思うが、その方が気持ち的に少し楽な気がする。
それに、理由は一つしかないが、なにより俺の直感が選別してくれたような気もする。
よし、決めた!この人にお願いしよう!
「あぁ、お願いするよ」
「や、やっぱり、ぼ、僕、こ、こんなんだし、き、気味悪いよね。は、はぁ。」
「え?だから乗るって!」
「ひ、ひぇえ!ご、ごめんなさい!も、もう行きますから!……て、え、え?の、乗る?ほ、ほんとに?ぼ、僕のば、馬車に?」
「あぁ、よろしく」
ハレイはコクリと笑顔で頷きつつそう言った。
「や、やったー!ぼ、僕はコットン・パプスト!よ、よろしくね!」
とてもいい笑顔ではしゃぐコットン。
「俺はキザキ・ハレイ、こちらはサラさん」
サラに手を示して紹介する。
ハレイの紹介に続いて、後ろに隠れるように居たサラは軽く一礼した。
いつもの調子なら、俺より先に勝手に挨拶して話進めてたんだろうな。
「キ、キザキ…くん、とサ、サラさん、ぼ、僕の初めてのお、お客さんだからりょ、料金はタ、タダでいいよ!」
俺たちが初めてのお客さんって今まで一体どうしてたんだ?という疑問は胸の内にしまっておこう。
「いや、まだ場所言ってないけどいいのか?…ヘックテペテル湖まで行ってほしいんだけど」
「へ、ヘックテペテル湖ね。よ、よろこんで!か、帰りも乗ってくよね?も、もちろんタ、タダだよ?」
「さすがに悪い気してきたな……せめて片道分は払わせてくれよ。な?料金は今払っちゃえばいいのか?」
「う、うん。じゃ、じゃあありがたくも、貰っておくね!へ、ヘックテペテル湖までは、りょ、料金が決まってて、せ、1500コールなんだ。だ、だから1500コール貰うね!」
「1500コールっと、じゃ、よろしく頼むぜ!」
ハレイはコットンにお金を渡し、握手をした。
「う、うん、ま、任せて!ば、馬車はこ、こっちだよ」
そう言ってコットンは二人を馬車へと案内した。
案内された馬車は、これまた意外にもしっかりとしていた。
馬を見てみると、コットンと同じように純白の見事な毛色をしている。
普段からこまめに体を洗ってあげているのだろう。
「さ、さぁの、乗って!」
嬉しそうな顔をして二人の乗車を促すコットン。
「お邪魔しまーす、はい、サラさん」
先に乗り込んだハレイは、後から来るサラに手を差し出した。
「あっ、ありがとう…ハレイ」
サラはハレイの手を握り、グッと引っ張り上げてもらい乗車した。
ハレイの手……あったかいな…
「あの、サラさん、手を……」
馬車に乗車してからも繋がれたままの手を見て言った。
「あ!ごめん!」
慌てて手を離すサラ。
んー、やっぱり言うべきじゃなかったかなぁ。
まだ繋いでいたかったとしたら……いや自意識過剰だな。
いやでも……
「また手繋ぎたくなったら言ってください、サラさん」
うわー!言っちゃったよ俺!恥ずかし!これ勘違いだったら超やべーやつじゃん!
「……うん、ありがと」
そう言うサラの顔は赤らんでいた。
今…繋ぎたいなんて言えないよね……
「しゅ、出発す、するよー!」
コットンの声を聞いて二人はハッと我に返り、馬車に設置されたフカフカの長椅子に座った。
長椅子なのですぐ近くに座る必要はなかったが、二人は何を考える訳もなくすぐ近くに座った。
視界の端に写るサラの顔は赤みを帯びていた。
それを見たハレイの顔も徐々に赤らんでいくのであった。