よし、準備をしよう。
――午後2:30
ハレイとサラは中央広場に戻り、そのまま東門へと向かっていた。
「本当に行くんですか?」
「うん、だって気になるじゃん」
今日のおでかけのメインはこれだったようだ。
最近巷で噂になっているヘックテペテル湖の魔物が本当にいるのか、というより実際の正体は何なのか確かめに行きたいとのこと。
一応俺も冒険者だ。
巨大イノシシを仕留めた事もある。
巨大熊を仕留めた事もある。
万一何かあってもサラさん一人なら守れるだろう。
そう判断した俺は心から納得はせずとも、渋々ついていく事にした。
「わかりました、だったら少し準備をさせてください」
「いいの?ありがとー!」
「とりあえず…このまま東門に向かいましょう。途中に行きつけの薬屋さんがあります。」
「薬屋さん?」
「はい、薬屋さんです。傷薬と麻痺毒を買っていきます」
「へぇー、頼りになるねえ!ふふっ」
「一応冒険者ですからっ」
キメ顔で自慢げに話すハレイ。
実際冒険者らしいことなんて殆どしてないんだけど…こんな時くらい見栄張ったっていいよな。
――薬屋に到着したハレイとサラ
看板には 魔女の隠れ家 と書かれている。
そういえばギルドで働き始めてから来てないや。
2ヶ月くらいか…
「さ、入りましょう」
そう言い、先に店内へと踏み入るハレイ。
――カランコロン
「こんにちはー」
挨拶をするハレイの後ろに落ち着かない様子のサラ。
「あら、ハレイじゃない。久し振りね」
正面のカウンターには、クールな声を発しハレイとの再会を懐かしむ女性がいた。
彼女はカティア・ゲーテリンク、薬屋魔女の隠れ家女店主である。
クリーム色の髪をしていて、彼女の幽艷な瞳は覗き込む者の心を一瞬にして魅了してしまう程に危険な色気を秘めている。
「お久しぶりですカティアさん。今日は傷薬と麻痺毒を貰いたくて」
「傷薬はいつものでいいのかしら?」
「はい、いつもありがとうございます…ははは」
いつものとは、お財布が寂しいハレイに特別に用意してくれている期限切れの低品質傷薬である。
低品質とはいえ、カティアの作る薬は元々の質が高い為、十分な効果を発揮する。
「あ、でも麻痺毒は上質なやつでお願いします」
麻痺毒は念の為上質な物を持っていこう。
値段は結構するけど、もし大型の獣が出ても一瞬で効果が出る。
「分かったわ。ところで後ろのお嬢さんはどなた?」
とカティアは後ろを覗くように尋ねた。
「こ、こんにちは!サラ・サプリックスと言います!ハレイくんとは同じ職場で、今日はわたしのわがままに付き合って貰ってます!」
「あらそうなの。サラちゃん、私はカティアよ、よろしくね。うーん…今度私のわがままにも付き合って貰おうかしら。ねぇハレイ、うふふ」
う、魔性だ…
「あはは、よろこんで」
余裕の笑みを浮かべるハレイ。
そうでもしなければその幽艷な瞳に飲み込まれてしまう。
「はい、お待たせ。傷薬と麻痺毒よ。2500コールいただくわね。」
「2500コールっと……はい!これで」
ハレイはカティアに2500コールを渡し、傷薬と麻痺毒を腰に付けてある袋に入れた。
「丁度ね。それじゃ、気をつけていってらっしゃい」
「はい…行ってきます!」
「ありがとうございました、カティアさん!」
一礼をして出ていく二人を、これまた幽艷な笑みで送り出すカティア。
――カランコロン
「カティアさん、凄く綺麗な人だね。」
「ですね…恐ろしいくらいに…」
そんな話をしつつ今度は道具屋へと向かう二人。
とはいえ道具屋はすぐ向かいにあるので、間もなく着いた。
看板には 道具のナッチ と書かれている。
「次はここです!入りましょう!」
「うん!」
――カランコロン
「やっ……」
(やっほー!やってるかー!と言いたかった)
「らっしゃーい!」
ハレイの声を遮る代わりに少女のような幼い声が聞こえた。
「なんだ、ハレイか。」
「おい!…なんだ、ハレイか。じゃねーよ!もっと歓迎してくれよ……」
そこには声の通りの見た目をしたちっちゃいのが居た。
「だってハレイだし。まぁいいや、で、なんか用かー?ん?その女の人は誰だー?」
「この人はサラさん、俺の友だちだよ」
「よろしくね、お嬢さん。うふふっ可愛い」
一瞬チラッとハレイの方を見たが、すぐに視線を戻すサラ。
「むむむ!バカにすんなー!こう見えてもう18歳なんだぞー!自分でこう見えてとか言うのも変だけど!」
プンスカプンスカする道具屋店主。
「で、サラさん、こいつはナッチです」
手で示しながら紹介するハレイ。
「こいつとか言うなー!おほん、ナッチだ。よろしく頼むぞ」
「仲いいんだねー、あはは!」
和やかな表情のサラ。
「――それで、鋼鉄針が欲しいんだけど」
「ふむ、あるぞ。ほれ」
そう言って鋼鉄針を投げ渡すナッチ。
「お、ありがと。っておい!投げるなよ!刺さるだろうが!」
「ああ、すまんなハレイ。二本セットで200コールだ」
「ちょっとドライ過ぎない!?いや、ごほん、200コールだな?ほい200コール」
ハレイはナッチに200コールを渡し、受け取った鋼鉄針を太ももに付けてある特注の鋼鉄針用ホルダーに収納する。
「まいどー、まぁ何をするつもりか知らんが……気をつけてな」
なんだかんだで優しいナッチである。
「おう!ありがとうナッチ。また来るよ!」
「ありがとね!ナッチちゃん!」
少し照れた顔をするナッチはそれを隠すよう早々に別の作業を始めた。
――カランコロン
「ナッチちゃん、良い子だねー!」
「…はい!良い子です。」
微笑むハレイ。
「あ、準備はこれでオッケー?」
「はい、バッチリです。よし、それじゃあ早速行きましょうか!」
「うん!レッツゴー!」
準備が整った二人は東門へと向かう事にした。