不平等な交渉
書きたいことを書くだけの文章力と構成力が足りないな...
「兄ちゃん。オレ達を助け出してくれ」
狼の耳をつけた少年が、ヴァンにそんなことを言った。
「何を言ってる。そんなことをしたらお前らの代わりに俺が捕まるだけだ。犯罪奴隷としてな」
「あいつらはオレ達の集落を襲ったんだ!何人も殺された!悪いのはあいつらだ!」
「それでも、だ。そんな事件は毎日握りつぶされてる。役人どもにとってはそれが一つ増えるだけだ」
そう言うと少年は黙ってうつむいた。「うっ・・・うっ」と嗚咽を漏らしているのを見て、ヴァンは話は終わったとばかりに奴隷の物色を続けた。
「やっぱ、駄目か・・・」
「駄目だ。諦めろ」
「ちがう!そうじゃない。・・・兄ちゃん。オレの腹を思いっきり殴ってくれない?」
「は?」
ヴァンは数歩後ずさった。それを見て少年が「そういうことじゃないから!」と焦る。しかし、発言自体を撤回しようとはしない。
「嫌だ。というか。檻はどうするんだ」
「その太刀を鞘付けたまま使えばいいじゃん!」
「傷をつけたら奴隷商どもに買わされるだろう」
「今なら誰もいないから!早く!」
ヴァンはため息を吐いて太刀を下ろした。そして言われるがままに振りかぶり、少年の腹めがけて突き込んだ。
「が・・・ふっ・・・!げぼぉっ!」
吸血鬼の膂力で突き込むと鞘があっても腹に穴が空くので、ある程度の手加減をしつつも、気絶させるつもりで突いた。どうせなら黙ってくれれば面倒がないと考えたためである。
しかし。「へへ・・・」と笑い声が聞こえる。まさか本当にそっちの人だったのかとヴァンがまたも数歩退がって少年を見ると、その手には赤い球体が握られていた。
「やっぱ一人で吐き出すのは無理だった・・・兄ちゃん、これ、受け取ってくれる?」
「これは・・・まさか、記録水晶か!?」
記録水晶とは、魔力を流すと映像をそのまま記録する性質を持った水晶である。性質上役人や貴族が持っていることが多いのだがーーー赤は最高位の容量を持っているはずである。こんなものを買おうとしたらこの少年たちは百人は下らない。
「これ、報酬代わりにあげるよ・・・げほっ」
「中身は?」
「奴隷商たちの脱税の記録。それから・・・オレ達の集落が襲われてるときの、記録だ」
少年は苦々しげに言った。要するにこの水晶をやるからこの店を潰せ、ということだ。
「脱税なら、役人どもも捕まえてくれるでしょ?自分たちに歯向かった人間だし」
「そうだが・・・しかし、俺にメリットがーーー」
「だからそれあげるってば。それに、犯罪者捕まえたら確か資産の三割もらえるんでしょ?結構でかい商会だし、結構入るよ」
「・・・なんで俺なんだ?」
ヴァンの心はもはや決まっていた。それでも問答を繰り返すのには理由があった。
少年は事も無げに答えた。
「匂いでわかるよ。あんた、強いだろ?多分・・・人間じゃないな」
それを聞くと、ヴァンは立ち上がった。急に立ったヴァンに少年が驚く。
---こいつだ。
ヴァンは少年から水晶を受け取り、魔法で水を出してその水晶を洗い流した。
「すげっ!無詠唱かよ!?」
「事情があってな。後で話す」
そんなとき、奴隷商が帰ってきた。
「ヴァン様、お決まりですか?・・・ん?その水晶はーーー」
「ああ、決まった」
そう言ってヴァンは親指を咬んだ。手元から一筋の血が滴る。それは地面に落ちると、数匹の蝙蝠となって奴隷商の首筋に咬みついた。
「う、うわあああああっ!」
即座に干からびる奴隷商。ヴァンはその頭を踏み潰した。乾いた音を立てて飛び散る奴隷商だったもの。
奴隷商の血を吸って大きくなった蝙蝠達がが少年に向かって飛び、檻を翼で切り払う。
「血盟ーーー『血塗られし装備』」
言葉に反応して蝙蝠は形を変える。少年の前で蝙蝠は一振りのナイフに変化した。
「頼みがある。これが終わったら俺についてきてくれ。手伝ってほしいことがある」
「あ・・・うん!あいつらが助かればオレはあんたの奴隷にーーー」
「奴隷としてじゃない、仲間としてだ。報酬としてーーー」
「何の騒ぎ・・・うわあっ!ボス!」
「全員、奴らを包囲しろ!逃がすな!」
「あいつらを、殺させてやる」
少年は笑ってナイフを手に取った。