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bloody bat  作者: 龍狐
2/6

奴隷

しばらくは説明として地の文多め。


3/16 衛兵→役人

これじゃこの後がおかしくなるわ、あはは

「・・・また、あの夢か」


 ベッドから起き上がると、ヴァンはため息を吐いた。見ていたのは、彼の人生で最も思い出したくない記憶ーーーむしろ、彼の人生が終わった瞬間の記憶というべきか。

 ヴァンはあの瞬間、人間ではなくなったのだから。


 ヴァンは日が昇り切った空を憂鬱気に眺めた。


 あれから、二年の月日が経った。


 ヴァンの身体は完全に吸血鬼に変化していた。傷つけば瞬く間に治り、にんにくを嫌う。そんな吸血鬼の一員となったわけだが、しかしヴァンは特別な存在でもあるようであった。伝承とは異なる点がいくつもあるのだ。


 日光を体いっぱいに浴びるも灰になることもなく、ヴァンはそのまま着替えを始めた。黒いローブと軽鎧に身を包み、銀髪を後ろで縛り、最後に身の丈ほどの太刀・・を背負って、宿屋の扉を開ける。もはや顔なじみとなった宿屋の娘が挨拶をした。


「おはようございます、ヴァンさん。今日は早いですね」

「ああ、今日は少し用があってな。いつもの飯、もらえるか?」

「はい。ヴァンさん用のスペシャルセットですね。少々お待ちください」


 食堂にある専用の席につき、出してもらった紅茶をすすりながら料理を待つ。


 ---時間よりも早起きしてしまった。


 ヴァンは太陽の光を浴びても灰にならない、ある種太陽を克服した吸血鬼であるーーーが、太陽の光に強いわけではない。

 光はあくまで、吸血鬼の敵だ。

 太陽の光を浴びると、ヴァンの力は制限される。その状態でも通常の人間よりははるかに強いのだがーーー同時に感じる強い倦怠感により、ヴァンは日中の活動を嫌っている。

 何故自分は太陽の光を浴びても生きていられるのだろう。伝承では確かに数秒は平気なようだが、自分はあまりにも異常だ。

 考えてはいたものの、しかし吸血鬼になってから一週間でその疑問は捨てた。吸血鬼の知り合いが存在しなかったからだ。

 ---ちなみに、ヴァンが太陽が平気だと気付いたきっかけは、倒れている状態から目覚めたとき、診療所で窓際のベッドに寝かされていたからである。


 少し待つと、食事が運ばれてきた。


「お待たせしました」

「ありがとう。・・・いただきます」

「はい、召し上がれ。・・・それにしても、本当にお好きですよね。ほうれん草」


 娘は笑顔で言った。---これが吸血鬼になって最も驚いたことの一つである。


 血は、吸わずとも鉄分の多いものや肉で体から作り出せる。


 ヴァンは血の摂取をほとんど食事で賄っていた。人を無差別に襲う吸血鬼にはなりたくない。


「ところで、今日はどんな用事があるんですか?」


 笑顔のまま娘が尋ねる。言えないような用だったらどうするんだ、と一瞬顔をしかめたが、ヴァンは素直に話すことにした。


「そろそろ金が貯まったからな」

「え、もしかしてヴァンさん、ここを出て行っちゃうんですか!?」

「違う違う。今日は・・・奴隷を買いに行くんだ」


 なあんだ、と胸をなで下ろしかけた娘は言葉の意味を考え直して赤面した。



ーーーーー



 この世界では、奴隷はそう珍しい産業ではない。国からも認可されているため、夜にひっそり買うようなものでもなく、普通に白昼堂々と商売している。・・・もっとも国が認めているのはあくまで借金による奴隷や犯罪奴隷であり、人攫いは犯罪だが。

 この世界に人攫いをしていない奴隷商などいない。顧客も国もわかっていることである。

 ちなみにヴァンが泊まっている宿屋にも奴隷は居る。娘が赤面したのは『冒険者が買うのは性奴隷ばかりだ』という迷信を信じているからである。実際は戦闘用や雑務用が一番多い。


「いらっしゃい」


 ごつい身体の店員が愛想悪く頭を下げた。ヴァンは入場料をその手に渡し、小屋へと入る。と、瞬間声が響いた。


「兄ちゃああん!!!!俺を買って行けよおおおお!!!!」

「あたし結構うまいわよ?」

「飯よこせえええええええ!!!飯いいいいいいっ!!!!」


 ヴァンは顔をしかめた。うるさすぎる。下品な奴隷共の言葉には耳を貸さず、ヴァンは店の奥に入った。


「予約していたヴァンだ」

「は・・・ようこそ」


 中から出てきたのはいかにも怪しそうな小柄な男。顔はサングラスに隠れてよく見えない。おそらく顔をあまり知られたくないのだろう。


「面倒がなく、戦闘用で安いものを希望でしたな・・・予算はいかほどで?」

「これだけだ」


 懐から硬貨の入った袋を取り出し、来客用の机に置く。中を確かめると、奴隷商は二枚ほど硬貨を手の内に入れた。ヴァンは見逃さなかったが、大した金でもなかったので放っておいた。奴隷商の民度が低いのは分かっていたことである。


「これでしたら・・・そうですな、こちらのコーナーですかな」


 奴隷商は壁際の一角を掌で指し示した。その檻は他よりも一回り小さい。

 近づいてみるとその理由がわかった。


「・・・子供じゃないか」

「はい。子供は育てる手間がかかりますので、安く提供させていただいております。だいたい10歳から13歳くらいです」


 一人ひとり見ていくと、三人に二人くらいには尻尾や獣耳が生えていた。亜人だ。人間に近しくも異なる存在として奇妙なシンパシーを感じる。

 ---この亜人の量・・・攫ったな。

 

 亜人はこの国では多少立場が低い。というのは、独自の集落を作って生活するため、国にとっては邪魔な存在だからだ。それゆえ奴隷商が奴隷にするためよく集落を襲う。それも握りつぶされる状況だ。


 可哀想だとは思うが、犯罪者になってまで助けようとは思わない。予定通り一人を選んで買うだけである。


 ヴァンがじっくりと選んでいると、さっきのごつい店員が近づいてきた。


「ボス。すいません、役人が・・・」

「わかりました。ヴァン様、少々出なくてはならないようで・・・」

「ああ、構わない。勝手に選んで買っていくよ」

「申し訳ありません。それでは」


 頭を下げて奴隷商が出ていく。それを気にせず選別を再開すると。


「兄ちゃん。俺たちを助け出してくれ」


 狼の耳をつけた少年がそんな頼みをしてきた。

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