プロローグ
浪人したので暇つぶしに書きます。きちんと設定作りこんでるし時間もあるからきっと今回は失踪しないはず・・・
「殺してやる・・・!」
「おお、威勢がいいな」
余裕気に呟いて、男ーーー吸血鬼は傷だらけの男の首に咬みついた。
「ぐっ!?あ・・・う・・・ああっ!」
男の体は徐々に水分を失い萎れていく。が、ある一瞬を境に体が水分を取り戻していた。半面、男の苦痛に喘ぐ声は大きくなる。
「がああああっ!」
大きな音が響いた。牙を抜き取られ、支えを失った男が地面に激突する音であった。そしてそのまま、男は動きもしない。しばらく待った後、吸血鬼はため息を吐いた。
「・・・また失敗か。今度のは素質がありそうだったがーーー無駄な血を使ったな」
そう呟いて立ち去ろうとする吸血鬼は、しかし背中に伝わる感覚にもう一度振り向いた。
吸血鬼は知っていた。それは強大な吸血鬼が立ち会った時特有の、吸血鬼同士の共振。彼がそれを味わったのは、自分の主であった吸血鬼と戦った時一度だけだった。
「---私に、匹敵しうるというのか」
「匹敵じゃない」
男の傷が煙を立てて治る。手にした杖は魔法の発動媒体として強大な魔力を蓄え始めた。体内の吸血鬼の血がもう働き始めているのだ。
---これは大きな拾い物だ。
吸血鬼の唇が歪んだ。
「お前を今!殺すんだ!食らえっ!『炎帝』おおおおおっ!」
男の杖が光る。そしてそのまま蓄えた魔力を大きな炎としてーーー
放出、しなかった。
「・・・な、に・・・」
「お前、やはり素晴らしいな」
あえなく霧散した魔力に呆然としている間に吸血鬼はゆっくりと近づき、男の左肩をつかんだかと思うとーーーそのまま粘土細工でも壊すかのようにーーー引き裂いた。
「がああああああっ!」
「もう一本ほどいっておくか。すぐには回復しないだろう」
そのまま左脚も太ももの中ほどから引き裂く。血が飛び散り、筋繊維がちぎれる。痛みによる混乱の中で、男はそうも細かい部分までが見えたことを不思議に思った。
「私の眷属の中で特に強いのが十人居る。そいつらを一人ずつ倒してみろ。全員倒したら相手になってやろう」
「き、さま・・・!ゲームでもしているつもりか!?」
「ゲームか・・・違うな。私は真面目だよ。この張りの無い生活に刺激が欲しいんだ。そのためには、私に匹敵する敵が必要だ。私はお前を気に入ったのだよ」
「ち・・・!薄汚い吸血鬼め・・・!」
「何を言っている。まだ気づいていないのか?」
男は親指を咬み、血を飛ばした。地面に落ちたそれは煙を立てて消える。それで男は気づいた。
大量に出たはずの|血が一滴も地面に残っていない(・・・・・・・・・・・・・・)。
「お前も今日から吸血鬼だよ」
「そ、んな・・・」
「絶望した顔をしているな。だがそう悲観することはないさ。私を殺せば人間に戻してやるさーーー、もっとも、夜の世界は案外楽しいがね」
そう言って吸血鬼は立ち去った。
「ヴァンだ!」
男は立ち上がる。無事な右半身だけでーーー否。
|既に骨が再生している左脚も使って。
「俺の名前はヴァンだ!覚えておけ!」
男の声は暗闇に木霊した。そして男は倒れ伏せ、意識を手放した。