表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/28

真逆の友人

 向かった先は、弥生高校。

 八戸はいるだろうか。



 校門をくぐり抜けると、荒くれた生徒たちがいる。ほとんど俺がシメたことがある人間だったので、俺は歓迎されるかのように校内を進んでいった。



「村雨さん、どうしたんですか⁉︎」



 俺の前に現れたのは、タロという臆病な八戸のお付きだった。



「八戸はいるか? あいつと話がしたい」

「や、八戸さんは……その、音信不通なんです」

「どうしてだ?」

「分かりません。最近、風神のグループと揉めてるらしいですけど」



 どうして八戸が風神と揉めているのかは分からない。

 だが、タロは心当たりがあるようだ。



「お、俺のせいかもしれないんです……! 俺が、神崎に捕まっていたから……!」

「んだと?」

「あいつ、俺を人質にして……八戸さんに無理矢理風神を裏切らせて、雷神に勧誘したんです……!」



 あの女は、自分が戦力で勝てないからと人質を使ったのか。

 聞けば聞くほど虫唾が走る。



「もし風神に会ったら、八戸のことは言っといてやるよ」

「えぇ!? でも、あいつら信じてくれるんですかね」

「俺は元風神総長、村雨 蒼葉のガキだ。俺が何か言えば風神の奴らも分かってくれるかもしんねぇ」


「え、ええええぇっ!? で、でも本当ですか、八戸さんを助けてくれるんですか!?」

「勘違いすんな。俺ら神崎いのり……あいつが気に入らねぇだけだ」



 そう言うと、俺はある事を思いつく。



「お前、そう言えば弱かったよな」

「そ、そんなド直球に言うんですか!?」

「本当のことだろ。また雷神……いや、神崎いのりに捕まっても面倒だしな。ついて来い」

「え、えぇぇーーーーッ!?」



 耳を掴んで強引にタロを連れていく。

 もし雷神がまたこいつを捕まえて、人質にでもしたら面倒くさくなるからだ。



「あいたたたたた!! こんな強引なやり方、神崎とやってること一緒じゃないですかぁ!」

「黙ってろ! 八戸にもう迷惑かけたくねーんだろ!」


 そう言うと、タロはうなだれるように抵抗する気を失っていった。



「ん、あれ……?」



 ピロン、とタロの携帯が鳴る。



「八戸さん、から……?」



 タロは急いで携帯のメールをチェックする。



「どうして、どうして病院なんかにいるんですか⁉︎」

「病院だと⁉︎」

「きっと『風神』の奴らにやられたんです……! あそこは、裏切り者には絶対容赦しないグループなんです!」


 ふと蘇る、母さんの言葉。


「うちの周りはみんな良いやつなんだよ。だから何か悪さをした時は、まずどうしてそんなことをしたのか知らなくちゃならない。



 何も原因を知らないのに、人のことを責めるなんてことすんなよ、裕翔」




「……変わっちまったみてぇだな、母さんの居場所だったところも」

「村雨さん、どうしますか? 多分そろそろ夕方なんで、面会の時間終わってると思うんですけど」

「明日にしよう。二時くらいに、病院前で」


 中途半端な時間にしたのは、昼過ぎじゃないといまいち気力が出ないからだ。


「いや、それまだ授業の時間じゃ……!」

「知らねー」

「ちょっ、ちょっとー!」

「不良なんだから授業くらい休めんだろ!」

「そ、そうですけど……!」



 自分を呼びかける声を無視して歩き出す。

 ここの近くの病院といえば、一つだけだ。


 ついでに、篠原にも会えないだろうか。


 自分のせいで、あいつを傷つけてしまった。せめて会って、目を見て詫びたい。

 

 ……そんなこと、気にする性格だったか、俺?


「なんか、おかしいな……」


 そう言いながら、家へと帰っていった。



 次の日。

 怠い体を起こして、学校の準備をする。

 今日も遅刻が確定しているが、別にどうでも良いだろう。


 学校に着いて、自分のクラスへ向かう途中。

 篠原のクラスを横切る。

 ぼーっと視線を向けるが、そこに篠原の姿はなかった。


 代わりに、あいつといつも仲良くしてる女が目に入る。



「……」



 無意識に見つめていると、そいつもこちらを見た。

 そして目があって初めて、俺は自分の足を止めていたことに気づく。

 気恥ずかしくなって、俺は早足で自分のクラスに向かった。


 いつも通り、授業の内容は左耳から右耳へ流れるように抜けていく。

 ただ一ついつもと違うのは、ぼーっとしているだけではなく、考え事をしているということだった。

 考えているのは、もちろん篠崎のことだ。



 ーかなり冷たくしちまったよな。

 ーあいつに悪気はないとは薄々分かってたのに。


 ー会って詫びたいが、なんだか気まずいな。



 はぁ、と溜息をつく。

 そんなめんどくさいことは、考えない性格だったはずなのに。

 どうにもあいつにだけは、罪悪感が湧く。


 キーンコーンカーンコーン。


 気づけば、昼休みのチャイムが鳴っていた。

 ざわざわとクラスの中が耳障りな声で埋まる。

 俺はその声の不快さに耐えられず、急いで屋上に行こうと席を立った。



「む、村雨くん!」



 声が聞こえた。

 それは、クラスの入り口の方からだ。



「篠原の……仲良し野郎」

「ちょっと、その呼び方何〜〜!? 名前くらい覚えてよね! 私は佐藤 佳奈、だよ!」

「……んで、佐藤。何の用だよ」



 そう言うと、ちょいちょいと佐藤は手招きをした。こっちに来いということだろう。

 人気のない道を通って、彼女が向かう先には屋上への扉があった。

 彼女は屋上の扉を開ける。



「美咲のためにも、誰もいないここの方がいいと思って」

 


 俺が屋上に出ると、佐藤はこちらへ振り返った。



「話がしたいの、村雨くん」

「篠原のことか?」

「うん。何か、あったんでしょ」



 佐藤は深刻そうな顔でそう言った。

 流石に驚いた。

 普段何も考えてなさそうなこいつが、こんなに鋭いとは。


 一瞬、話しても良いものか迷った。

 だが、篠原だってこいつのことは信頼していたはずだ、大丈夫だろう。



「……篠原は、今病院だ」

「え、どうして!?」

「話せば長くなるぞ」


 そう言うと、佐藤は大丈夫と頷いた。

 俺は話した。

 昨日あった出来事のこと。そして、美咲の精神に深く関わっている彼女の恩師が、自分の母親だということを。



「美咲に、そんなことが……」

「あんな状態でも、お前には会えるだろ。もしあいつに会えたら、すまねぇとだけ伝えておいてくれ」

「ま、待ってよ!」



 屋上から出ようとすると、手を掴まれた。



「それでいいの!? あなただって、会いたいんじゃないの!?」

「会いたくねぇよ。もう馴れ馴れしくするつもりもねぇからな」

「な、なんで……!?」



 佐藤を無視して歩み始めると、そいつは屋上の扉の前に立ち塞がった。



「教えてよ、どうして美咲を避けるの!? あんなに仲良くしてたのに!」



 目の前に立つ彼女の足は震えている。俺のことが相当怖いのだろう。

 その割に言葉は強い。よっぽど友達思いなのか、ただの馬鹿か。



「自分勝手だと思わないの!?」



 無視しようとしていたが、その言葉を聞いてカチンときた。

 手を出しそうになったが、なんとか我慢する。



「うるせぇ、何も知らねぇくせに口出しすんな!」

「じゃあ説明して納得させて!」



 睨みを効かせた上で怒鳴るも、目の前に立つ女は決して引く気がないようだ。

 頑固な女だ、と溜息をつく。



「チッ、説明すりゃいいんだろ。減るもんじゃねぇしな」



 頭を掻いて、俺は話し始めた。

 

 友人というものを嫌いになった日のことを。

 そして、人生で一番、友人に恐怖を覚えたあの時のことを。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ