表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/28

隠された真実

 それから、二ヶ月が過ぎた。

 お祭り後の夏休みは、楽しくなかった。その理由は言うまでもない。


 勿論、佳奈と過ごした日は楽しかった。

 けれど胸にぽっかりと穴が空いてしまったようで、心から楽しめることはなかった。



「はぁ、めんどくせぇ……」



 重い荷物を運び終わり、誰もいない倉庫で溜息をついた。

 文化祭は当日は楽しいものだ。だが、準備のための仕事がたくさんあるとなると、つい嫌だと思ってしまう。


「でも、今年の文化祭は、楽しめる気がしねぇな」


 村雨のことを思い出す。

 数少ない、二つの私を受け入れてくれた存在だったのに。


 あれから村雨は、私と一切言葉を交わしてくれなくなった。

 頭がむしゃくしゃする。

 悲しんでいるだけ無駄だ。手を動かさなくては。


ーどうにかして、あいつの力になれないか?


 なんて、自分で言うのもなんだがお人好しだなぁ。


「あ〜、クラスで大人しくしてるのも嫌になってきた……こんな大掛かりな出し物をなんで提案したんだよ、無理に決まってんだろうが……」



 ぶつぶつと文句を言っていると、キィ、と音を立てて倉庫の扉が開いた。



「篠原さん、これとこれ、取ってきてくれない?」



 そこにいたのはクラスメイトの花柳さんとその取り巻きの人たちだった。


 彼女はクラスのリーダー格で、周りにはいつも人がいる。しかしその裏では、陰口などを言っているので、私はあまり好きじゃない。



 だが、彼女の気に食わないことをすると私の立場が危うくなる可能性もある。

 それはそれでめんどくさいので、私は彼女のパシリになる方を選んだのだ。




「う、うん、いいよ。 んじゃ行ってくるね!」




 私はそう返事をすると、校舎を出た。

 彼女に頼まれた物は、全て学校の外にあるものだ。

 佳奈はきっと教室での準備で忙しいだろうから、誘わなかったが……


 サボりたがりの佳奈のことだ。今頃、教室で「めんどくさ〜いっ!!」と叫んでいるのだろう。


 今日は帰りにからあげでも買ってあげよう。



「ん?」




 買い物に行く途中の道路で、何か声が聞こえた。

 怒鳴り声だったような気がする。


 念のため、私は変装を解いて様子を見に行った。




「何とか言えよオラ!!」

「『風神』を裏切るたぁいい度胸だなァ、ええ!?」




 一人の座り込んだ男が二人の男に囲まれていた。

 二人の男は目の前の男を踏みつけている。



「一方的な暴力なんてダセェことしてんじゃねぇよ!!」



 私はいつも考えるよりも行動が先だ。

 だから、その光景を見た瞬間に勝手に体が動いた。


 自分より少し背の高い男の顎を蹴り上げる。

 それを見て私の服を掴もうとしたもう一人の男の手首を握り、肩にかける。



「おらぁぁぁぁぁっ!!!」



 そのまま背負い投げをして、男たちは倒れた。



「ふぅ。立てるか?」



 座り込んでいた男に手を伸ばした。

 でも、よく見るとその男は……




「なんで、お前……」

「みさ、きちゃ……」




 前に会った時より随分とやつれた八戸だった。

 隈が酷く、肌も荒れている。

 顔や体にはさっきの二人に殴られた傷跡があった。




「な、何を、何をしてるんだよ、お前! なぜ抵抗しなかったんだ、お前ならあんな奴らなんかに」

「来ちゃいけない、君は……『風神』と関わっちゃいけないんだ……」

「な、何を」




 そう言うと、八戸は意識をなくした。

 早く病院に連れて行こうと担いだが、後ろで先ほどまで倒れていた二人が起き上がった。




「篠原 美咲さんか」

「そうだ。まだやるか?」

「い、いいえ。俺たちはそこの男に用があるんです」

「こいつは私のダチだ、触るな。こいつが悪いことをしたっつーなら謝る。だがこいつはそんなことをする奴じゃねぇんだよ。お前らみたいな奴に渡してたまるか」




 私に敵わないからと敬語を使ったのだろうが、そんな手に乗るわけがない。

 私は気にせず病院へ向かった。

 すると、後ろから男二人の会話が聞こえた。




「先輩、彼女には手を出すなと先代から……」

「ああ、八戸のことはまた今度だ、引くぞ」




 どういうことだ?

 私に手を出すなと言った人がいる?



 足が止まりそうになった。

 だが、元気になった八戸に聞いた方が確実だろう。

 彼は情報には鋭いからだ。

 そう思い、足を進めた。










「あれ、病院……?」



 私が病院に運び、治療を受けた後すぐに彼は目を覚ました。



「大丈夫か?」

「ん、あれ? 美咲ちゃんじゃん、どうしたの?」

「それはこっちのセリフだ! お前何に巻き込まれたんだよ、あいつらパラサイトの連中じゃなかっただろ」


「あー……ちょっとしくじっただけだよ、心配しないで」

「馬鹿、騙されるとでも思ったか。あいつら風神とか言う奴らだろ」

「どうしてそれを!?」

「いや、お前が言ったんだよ。 風神と関わんな、ってあの場でな」



 そう言うと、彼は頭を掻いてため息をついた。



「俺がか……あーあ、やっちゃった……」

「なぁ、何があったんだ。 教えてくれよ、八戸」


「……雷神は一般人も巻き込む、危険なグループだ。それに対して、風神は一般人を守るためにあるグループ。 

 俺はパラサイトを潰すためには雷神を潰す必要があると、そんな善人の集まりである風神の手を借りようと思ってた」


「あれが善人の集まりだと?」

「うん。 でも、俺はしくじって結果的に自分から風神を裏切っちゃったんだ。 それが俺があそこでシメられてた理由」

「で、私が善人の集まりのあいつらと関わっちゃいけない理由は?」

「言えない」


「どうしてだよ」

「いい? これは君のためなんだ、いのりですら君には風神と関わって欲しくないと思ってる!」

「なんだって……?」




 あいつが、私のために……? 

 そんなわけがない、あいつが私のために何かしてくれるなんてことはなかったはずだ。



「お前が言わないのなら私は自分の手で調べてみせる」

「美咲ちゃん!」



 私は急ぎ足で病室を出た。

 八戸は私を止めようと手を伸ばしていたが、それは届かなかった。

 そしてベッドから体を乗り出し、落ちてしまった。


 あの傷じゃ、しばらく立ち上がれないだろう。

 普段の私ならすぐに八戸にかけよっていたが、そんな気も起きなかった。













 最悪だ。

 風神の部下にシメられているところを美咲ちゃんに見られ、彼女に風神のグループが彼女に関係があることを知られてしまった。


 病室のベッドから落ちた俺は、泣きそうになるのを堪えた。

 この涙は、今まで我慢して努力して耐えてきたものが全て無意味になってしまうことへの絶望からくるものだ。


 顔を手で覆い、叫ぶ。

 しかし、叫んでも誰も助けてくれない。

 そんなこと、分かっている。


 俺はポケットから携帯を取り出し、神崎 いのりに電話をかけた。




「ごめん、美咲ちゃんに例のことを勘付かれた」

「何をしているの、この役立たず! ……でもあなたを責めても何も解決しないわね。 勘付かれた、ならまだバレてはいないのね?」

「うん、まだバレてはない」

「分かったわ」

「村雨くんは大丈夫?」

「ええ。あいつの嫌いな奴を手配したからね。今頃人間不信が再発、美咲ちゃんとも縁を切ったはずよ」




 いのりは味方につければ強い。

 彼女の計画は完璧なものだった。

 

 村雨くんには申し訳ないことをするが、美咲ちゃんの心を守るためには仕方がない。


 俺のせいで二人を巻き込んだ。

 だから、せめて俺が二人を守り続けなきゃいけない。


 パラサイトと雷神を潰す計画は後でいい。

 まだ、希望はある。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ