真っ直ぐな信頼
「なるほどね、やーっと謎が解けた!」
「あ、あなた何を言っているの、頭でも打ったの!?」
私にとってはもちろん、神崎にとっても予想外の展開だ。
どうして、佳奈は私を怒らない……?
「いやぁ、最近よく体中傷だらけで学校来たりしてたからさ、不安だったんだ!」
「あなたは過去のトラウマから不良が嫌いだったはず!! どうしてそんなに呑気に!」
「ちょっと黙ってくれない? 私は美咲と話してるんだよ」
佳奈は鋭い目で、神崎を睨んだ。
神崎はそれに怯え、黙り込む。
「何か月か前、不良さんに襲われたとき。助けてくれたのは、美咲だったんだね。ぜーんぜん気が付かなかった!」
「あ……!」
そうだ。
この姿で彼女と会うのはこれが初めてではない。
私は一度、この姿で佳奈を助けたんだ……!
「それで、あなたたちは……私がこんなことで美咲を嫌いになるとでも思っていたんだね」
神崎だけでなく、他の男たちも、私も、唖然としている。
佳奈はそんな私たちを置いて、続けた。
「確かに、昔の私なら美咲を嫌いになっていたかもしれない。 でも……美咲はなんだかいつも、私に気遣って、不良さんたちから遠ざけようとしてくれてた」
「それに気づいた時から、私は美咲のことを絶対に嫌わないって、何があっても受け入れるって決めてたんだ!」
佳奈は、覚悟を決めたように立ち上がり、言葉をまっすぐ、私に届ける。
「こんなの、全然痛くないッ! 今の私は無敵だから、美咲ッ!!」
決めセリフを言ってやった、と言わんばかりのドヤ顔。
でもその顔は、なんだかかっこよく思えた。
「黙りなさい!」
神崎は佳奈の頬に平手打ちをした。
だが佳奈は怯むことなく、その場で力強く立っている。
その姿で、私も覚悟を決めることが出来た。
佳奈は私に、「自分のことは構うな」と言っているのだ。
ここまで覚悟と強い意志を見せられては、私も応えなくちゃいけない。
「離せぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「うおっ!?」
私を抑えていたうちの一人のお腹めがけて、肘打ちをかます。
一人がよろめくと、片方の手が空く。
その瞬間に、もう一人の顔面に向けて、拳を叩きこむ。
そして、神崎の方へ走り、佳奈の腕を掴んでいるその手を払う。
「お前の負けだ。 大人しく手を引け、神崎!」
「……っ!! どうして、あなたたちは互いを受け入れることなんかできるの!? 親友って言うのは、相手に嫌な部分が無くって、過ごしていてずっと楽しいからこそ、親友なんじゃないの!?」
「つまり、全部自分の思い通りになるお前にとってはそんな存在が、親友だったんだな。だから中学生の時、お前は私を親友だと言った」
「でもそれは違う。それだと片方が辛いばかりだから。親友っていうのは、辛いことを片方が抱え込むんじゃなくて、辛いことを分け合うんだ」
「……黙ってよ」
「楽しい事ばかりじゃない。すれ違って喧嘩する時もある。でも、すぐにお互い謝って、心からお互いを許せるから、胸を張って親友だと言えるんだ」
「黙って!! 私はこのやり方しか知らないんだから……っ!」
神崎は泣きながら外へ逃げて行った。
すると、佳奈は力が抜けたようにその場に座り込む。
「だ、大丈夫か……あっ、大丈夫?」
「あはは、大丈夫、力が抜けちゃっただけ。 あと、私の前ではもう良いよ、演じなくても」
「あ、ありがとう……。でも、聞いて欲しいの、佳奈。私は演じてるんだけど……普段の私の姿は、私がなりたいと思ってる私なの。だから、今のこの姿の私は……忘れて欲しい」
「そっかぁ」
佳奈は少し考えてから、顔を上げて、笑顔でこう言った。
「でもね、私はどっちの美咲も好きだよ。だから、私の為に自分を潰さなくていいんだよ。自分の好きな時に、自分のありたい姿でいて」
私は今まで、この姿の自分を憎んでいた。
中学時代、最低な行為をし続けた、元番長の自分が大嫌いだった。
でも、佳奈は、私自身でさえ受け入れられなかった「私」を、受け入れてくれると言うのだ。
「……」
「あれ、美咲?」
「いいや……普段ばかっぽいのに、こういうときはそんな賢くなるんだ、意外~」
「ちょっ、それ馬鹿にしてない~!?」
「ふふ、してないよ。 むしろ……もっと佳奈のこと、好きになれた」
「こちらこそ、だよ!」
胸のあたりが温まっていくのを感じる。
本当に、どこまでも最高の親友だ。
佳奈の手を引いて立ち上がらせた後、一緒にガレージを出た。
「ねぇ、美咲」
「ん、どうしたの?」
「私、これから……あの人たちに狙われるのかな」
「……分からない。 でも、私が絶対佳奈を守る」
「そう言うと思った。 でも約束して。私に何があっても、私の代わりに美咲は傷つかないで欲しい」
「佳奈……」
「私は何にも力になれないから、せめて、せめて足を引っ張ることはさせないでね」
「あ、家に着いちゃった。 ありがとう、美咲」
「か、佳奈……」
あれは、佳奈の覚悟だ。
トラウマに負けていたあの子が、それに打ち勝ち、これからも立ち向かおうとしている。
私は、それに応えるべきなのだろうか。
佳奈に、何があったとしても……?
いいや、そんなことは考えなくていい。
そんな事象を二度と起こさないようにすれば済む話なのだ。
私の戦いはまだ終わっていない。
こんなことをもうさせないためにも、私はパラサイトを、絶対にぶっ潰す……!!
もう辺りは暗くなってしまっている。
だが、あることがどうしても心配なので、私は夜道を歩くことにした。
そう、突然いなくなった村雨のことだ。
「あ、そういえば八戸がこのあたりを部下にパトロールさせてるんだったか」
八戸なら、何か手掛かりを掴んでいるかもしれない。
八戸の電話番号をポッケから取り出す。
「もしもし、八戸か?」
「美咲ちゃん! タロの居場所は掴めた感じ?」
「いや、まだだ。 八戸、村雨を見なかったか?」
「村雨君……? 村雨君が、どうかした?」
「いなくなったんだ。 あいつの強さは私も知ってる。でも不安だ。 見かけたら声をかけてくれ」
「村雨君が……一体何があったんだろうね」
「神崎が、パラサイトは弥生高校をシメた富岡高校の私と村雨を狙っていると言っていたんだ。 多分、村雨は……」
「そういうことか……あ、あと美咲ちゃん、よく聞いて」
「なんだ?」
八戸は、一段トーンを落として言った。
「パラサイトは、かなり大規模なグループに手を借りてる可能性がある」
「なんだって!?」
「昨日の富岡高校に乗り込んできた人たち……あの人たち、一切警察沙汰にならなかったんだ。 おかしいと思わない?」
確かに。
八戸が言うように、富岡のような普通の学校にあんな堂々と乗り込んでおいて、警察沙汰にならないのはおかしいだろう。
「パラサイトにはそんな力はないし、誰かが上から圧力をかけたとしか思えない。
あるとしたら、ここの隣の県を拠点にしている、『風神』。 もしくは、そこと対立し続けている『雷神』だろうね。 どちらもここらの地方の中でトップを争うグループだ。
今回の件は俺らの手には追えない可能性がある。 パラサイトには勝てたとしても、数も戦力も上のその大規模グループに狙われたらまずいよ」
「じゃあ、どうしろって言うんだ、このままパラサイトの言いなりになれって言うのか!?」
「一つだけ、方法があるんだ」
八戸は言いにくそうに話し始めた。
それは、最初に聞いた時は、衝撃的だった。
私を大声で怒鳴らせるほどに。
でもそれは、彼なりの、自分の学校の責任の取り方だった。
「……申し訳ないけど、美咲ちゃんは俺に喧嘩で負けたという既成事実を作ってもらう」
愛する美咲と佳奈というバカに完全敗北した私。
私は、自分のしてしまった事をパラサイトのアタマ、幹部の元へ謝りに行かなくてはならなかった。
怒りや悔しさより、アタマに捨てられることを恐れる気持ちの方がよっぽど強かった。
アジトに行くと、村雨を潰す担当だった奴が、ボロボロになってアタマに跪いていた。
どうやら、あちらも失敗したようだ。
「ごめんなさい、私も……失敗したわ」
「お前ら、あんだけ大口叩いてたのになぁ〜〜?」
「『雷神』の力を借りておいてこのザマなのか」
「っ……あなたは黙りなさい!」
私の足元でアタマに跪く男は、カタカタと震え、周りの幹部たちは、任務に失敗した私達を見下すような目で見ている。
こんな屈辱を受けるなんて、私のプライドが許さない。
思わず反抗してしまったが、私がここに来た時から一言も言葉を発さないアタマの重圧に耐え切れず、口を噤んだ。
「お前はまだ一回目だ。 今回の失敗は許してやる。 だが、パラサイトの顔に泥を塗ったという自覚はあるな?」
「は、はいっ……」
「では、お前のこれからの仕事を伝える」
「篠原 美咲、村雨 裕翔の力の解析に取り掛かれ。 そして、二人の元へ向かわせる者のサポートをしろ」
「……分かりました」
アタマから告げられたそれは、私の得意分野だった。
今度こそ……あの二人に目にもの見せてやる……!
二章終了です!!
佳奈ちゃんのことが好きになれる回なのではないでしょうか。私はすごく好きになりました。
ブックマーク13件ありがとうございます!!
凄く嬉しいです……!
次回からは八戸、村雨中心の回になります。
八戸の活躍、そして、村雨の抱える過去。
お楽しみに!
気力があれば外伝(夏祭り、文化祭など)も書きたいです。
もし読みたい方がいらっしゃれば、言っていただければ頑張れます。よろしくお願いします。




