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親友の失踪

「なんですって!?」



 チームパラサイトの幹部である私、神崎 いのりの部下専用アジトで優雅に本を読んでいると、篠原 美咲の監視を頼んでいた部下から、耳を疑うような情報が入った。



「私たち幹部のアジトがバレている!? それに明日には乗り込みに来るって、どういうことよっ!」

「それが……どこからか情報が漏れてしまっていたようなんです……」

「どうしてそうなったのかを聞いているのよ!」



 そう机を蹴とばしそう怒鳴ると、部屋の隅にいる部下は身を縮ませて怯えた。

 いけない。私ともあろうことか、取り乱したようだ。




「いいえ、あなたは何も悪くないわ。長い間の監視ご苦労様」

「お役に立てて何よりです……」



 結果的に、これは上の立場にいる私の落ち度になる。


 美咲を潰す担当は、私だった。

 彼女が幹部のアジトに攻め込んで来てしまえば、対処はできたとしても、私の落ち度が明るみに出る。


 そうなれば、折角勝ち取った幹部の立場が危うくなる……!




「いいわ、こうなったら……あの子が大切にしている物を餌にして、攻め込む気力も削いであげる」










「美咲、今日一日なんか顔色悪いよ、どうしたの?」



 学校の帰り道を佳奈と歩いていると、彼女は私の顔を覗いてそう聞いてきた。



「んー……昨日ちょっとね、大変だったからよく眠れなかったのかなぁ」

「あ、あの乗り込んできた不良さんたちのこと!?」

「あーまぁそうだけどそうじゃないっていうか……」



 どちらかというと、あの後のパトロールが予想以上に大変だった。

 意外と人数がいて、片付けるのに時間がかかったのだ。

 「パラサイト」というチームは、それほど大きいチームのようだ。



「元気出して! あ、コンビニで肉まん買う?」

「ううん、大丈夫! 家に帰ってゆっくりするよ~」



 昨日のあの作戦が上手くいっているならば、神崎……もしくは神崎の部下は全力で私を潰しに来るだろう。


 情報のガードが高いのなら尚更、あいつは焦っているに違いない。

 一度計画が崩れると焦りやすい彼女は、正確な状況判断もできない。

 取り敢えず佳奈だけは早く帰ってもらって、私は一人で歩いていれば、彼女が狙われることはない。

 今日は念のために村雨に私自身のガードを頼んだ。


 ある程度佳奈を見送った後、私は元番長の自分に戻って、人気のない場所をふらふしていれば奴らは現れるだろう。

 そこを返り討ちにしてやる……!



「美咲、じゃあね~!」

「うん、ばいばーい」



 そう言って、自分の家の方へ向かっていく佳奈の背中をしばらく見守った。

 ある程度して、もう大丈夫だろうと後ろを振り返った。



「ふぅ、後は変装を解いてあいつらを待ち構えるだけ……って、あれ?」



 私はその時、初めて気づいた。




 私の後ろをつけていたはずの、村雨の気配がない。






「ふふ、立ち尽くしてどうしたの、美咲ちゃん」




 今、一番聞きたくない声だった。

 その声は、後ろからどんどん近づいてくる。



「あなたの頼りにしていた彼はいないわよ」

「お前、一体村雨に何を……!」

「あら、勘違いしないでね。彼に手を出したのは私じゃないわ」

「じゃあ、誰が……!」

「あなたはまだ気づいていないようね」

「な、何を!?」



 彼女は私の耳に顔を近づけて、囁くように言った。



「弥生高校を潰した富岡高校の二人。 篠原 美咲と、村雨 裕翔。 私たちパラサイトは強力な戦力となるあなたたちを自分の部下にするのが目的なの」



「これが、あなたたちが狙われる理由。美咲、あなたには学校という居場所を無くして、パラサイトの幹部である私の隣をあなたにとって唯一の居場所にしてもらうわ」

「クソ野郎が……! お前の、思い通りになんかならない!」


 

 私は振り返り、神崎と目を合わせる。

 息を吸って、今思っていることを思い切り彼女に吐き出す。



「私は元番長である篠原 美咲じゃない! 富岡高校のごく普通な一年生、篠原 美咲……! もうあの世界からは手を引いたんだ! 私は、今のなんでもない、幸せな日常を、これからも大好きな親友と、佳奈と……!」

「そのだーいじな佳奈ちゃんのためだとしたら?」

「え……?」


「あなたが私たちに黙って協力してくれるなら、佳奈ちゃんの無事は保証するわ」


「そ、それは……どういう……!?」

「富岡高校の近くのガレージに来れば、意味が分かるわ」



 これは罠だ。

 神崎が言うガレージに佳奈はいない。

 何故ならばさっきまで私が……



「今話していた間に、私のかわいい部下たちが連れて行ったのよ。 多少彼女は声をあげていたけど、あなたは私のことで頭がいっぱいで、気づかなかったようね? 私の部下は短気な子が多いから、私が言い聞かせないと彼女に何をするか分からないわ」


「この……外道ッ!」

「ふふ、ふふふふふふ! その表情が見たかったのよ……! 私が憎くてたまらないでしょ? そう、あなたと再会したあの日の私と同じ表情……!!」



 神崎の、私を嘲るような笑い顔を、今すぐ潰してやりたかった。

 だが、それよりも先に私は、佳奈を助けに行かなくては。



 学校近くのガレージ。

 そこに、佳奈はいる……!





「これで、篠原 美咲の居場所は潰せるわね。 佐藤 佳奈が不良嫌いで助かったわ。 美咲を嫌って、素直に彼女を私に返しなさいよ」













「佳奈、どこだーーっ!!」



 人気のないガレージで、私の声だけが響く。

 嫌なくらいの静寂。

 

 本当に佳奈はいるのだろうか。

 私は、騙されたのか……!?


 半信半疑になりながら奥の方まで進むと、突然男が現れた。 



「来たな、篠原 美咲」

「か、佳奈はどこだっ!」

「あっちで眠ってるぜ」


 

 男が指さす先には、倒れている佳奈が。

 どうやら気を失っているらしい。



「お前ら、絶対に許さねぇ……っ!」

「おおっと、俺に手を出したら、大事なシンユウがどうなるかわかんねぇぜ?」




 佳奈の側にはもう一人の男がいる。

 人質、ということか……!



「大好きだった親友が、自分の足枷になる気分はどう?」



 ガレージに現れた神崎が、佳奈の方へ歩きながらそう言う。

 まるで、計画通りとでも言わんばかりの笑顔だ。

 

 


「さぁ美咲ちゃん、自分とその大事な佳奈ちゃん、どちらを選ぶのかしら?」




 

 高校に入ってから、たくさん初めてのことを佳奈と経験した。




 お弁当を忘れたときに、半分こしてくれた。



 スイーツのお店が初めてだという私に、オススメを教えてくれた。



 休みにショッピングに行って、化粧品のお店でいっぱい話をした。

 珍しく長い間喋り続ける私を、めんどくさがらずに、詳しいねと笑ってくれた。



 佳奈が苦手であるはずの不良を好きになったと言っても、嫌悪せず、応援してくれた。




「っ、佳奈に、手を出すな……!」




 振り絞るように、涙ながらそう声に出して言った。

 目の前にいる神崎の笑顔が、一瞬崩れたような気がした。



「やっぱり美咲はいい子ね。 本当にいい子……。 でもこの子はどうなのかしらね。 さぁ、起きなさい!」

「ぅあっ!?」



 神崎は佳奈に水をかけて起こす。

 そして、顔を私の方に向けさせた。

 よく見ると、その顔は傷だらけだった。



「み、美咲……!? 逃げて、ここは危な……」

「ふふ、今でも美咲は純粋な女子高生だと思っているようね」

「!?」

「か、神崎さん、佳奈を離して……っ! 私が黙ってパラサイトに入れば、それで佳奈は解放してくれるんだよね……!?」

「なぁに、佳奈ちゃんが起きたら普通の女子高生の姿を演じるの?」

「ま、待って! 美咲に近づかないで!」



 神崎は私に近づいてくる。

 後ろに引こうとしたが、男二人にその場に抑えられた。



「見てなさい、佳奈ちゃん。 これがあなたを騙し続けた篠原 美咲の本当の姿よ!」

「や、やめて、やめて、やめろぉぉぉぉぉっ!!」


 頭を掴まれて必死に抗うが、努力も虚しくウィッグを剥がされる。

 私の茶髪が、顔を覆った。



「篠原 美咲は有名な不良校の元番長。 過去に弱い人たちをたくさん踏みにじった、最低な不良さんなの」

「う、嘘……」

「あなたが信頼していた親友は、ずーっとあなたに嘘を吐いていたのよ」

「美咲……!」

「ごめん、佳奈。ごめん……!」


 

 顔を上げられない。

 佳奈の顔を、見ることができない。

 今にも泣いてしまいそうだ。

 

 彼女は私を、嫌うだろう。

 不良だということだけではなく、私は彼女に長い間嘘を吐いていたのだ。

 私の、初めての、本当の親友の、佳奈………



「なるほどね、やーっと謎が解けた!」



「え……?」



 佳奈の言った事が予想の斜め上で、顔を上げてしまう。

 するとそこには、怒った様子などは感じられない、いつも通りの佳奈がいた。





 


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