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立ち向かう覚悟


「神崎 いのり……!」



「あらぁ、どうしてそんな顔をするの? 久しぶりに会えたのに」



 彼女は相変わらずふふ、と怪しげに笑う。

 この笑顔が私は大っ嫌いだ。

 あの頃が思い出されて胃のあたりが気持ち悪くなる。



「私が会えて嬉しいとでも言うと思ったのかよ、お前は……!」

「そりゃあもちろん。 こんなに姿が変わっても気付いてくださるなんて流石いのり様、って言ってくれると思ってたわよ」


 彼女の言葉でハッとする。

 そうだ、私は今変装をしているのだ。

 髪、顔など、面影はあったとしてもそれなりに変わっているはず。


 なぜ彼女は私だと分かったのだろうか……


「どうして、っていう顔をしてるわね。 特別に教えてあげるわ」



 顔に出ていたようで、私の考えは彼女に読まれてしまったようだ。

 彼女は、丁寧に私と判別した過程を話していった。



「あなたの身長、体重、視力、聴力。そして名前。 これら全ての情報を私たちの通っていた中学校、そしてあなたの通っている高校から抜き取ったの。データを重ねるとあらふしぎ、美咲ちゃんの姿が判明。

 簡単な作業だったわ。 あとはあなたの下校時間を調べて後ろから部下にマークさせていた、それだけよ」



 彼女のストーカーじみた粘着体質は私の背筋を凍らせた。人より寛容だと自負している私でもドン引きしてしまう。

 彼女は自分の自慢のふわっとした巻き髪を指でくるくるしながら話を続ける。



「あなたがあの高校にいるというのは、私の可愛い部下ちゃんたちが教えてくれたわ。 ついつい良い子ねって頭を撫でちゃったわね、よくできましたって」

「お前……私にしていたことを今の部下にも……!」



 ますます神崎に嫌悪感を覚える。彼女が今言ったことは、私が中学時代されていたことだった。

 つまり、彼女は、今も私のような自分の奴隷を作っては利用しているのだ。



「ふふ、可愛いわね。嫉妬というものはとても可愛くて私好みよ」

「嫉妬じゃねぇ! お前のその態度に腹を立てているんだ!! 人をまるで物かのように……!」

「当たり前でしょう? だってみんな私なしでは生きられないのよ。私に捨てられてひとりぼっちになるよりかはマシだと思わない?」

「!!」



 たしかに、こいつの手口はそういうものだ。

 相手をとことん孤立させた後、自分に依存するように洗脳する。

 私も経験があるので、嫌でも彼女の言ったことが瞬時に理解できた。



「変わってないんだな、この性悪女……!」

「……偉そうな口を利くようになったじゃない、美咲」



 彼女の雰囲気がガラッと変わる。私の性悪女という一言に機嫌を悪くしたようだ。

 ぎらり、と私を睨みつけるその目は鋭く、暗くなった道でもはっきり見えてしまい、私に恐怖を植え付けた。




ー昔の私なら、それに怯えて彼女に謝っていただろう。




 だが、もう私は一人じゃない。

 もうこいつなんかに怯える必要なんてない。

 私はそれを睨み返して、彼女に言い放った。




「なんなら中学生の時の借りを今返したっていいんだぞ、神崎」




 私たちの業界で言う、メンチを切るというやつだ。

 彼女は自分から喧嘩をするような奴じゃない。

 部下に喧嘩をさせて、自分は高見の見物とでもいうように上からそれを見下ろしているだけ。

 だから自分はすることはあっても、これを実際にやり返されるというのは初めてだろう。



「っ……ある交渉をしようと思ってここに来たのだけれど、駄目ね。 私、あなたみたいな自分の立場を理解できないような子は嫌いなの」





「絶対に後悔させてあげる。 これはあなたが売った喧嘩よ」





 彼女は眉間にしわを寄せてそう言い残し、走ってどこかへ去っていった。

 神崎は美人であったが故に、悔しそうにする顔が映えた。

 残された私は、神崎いのりにあんな顔をさせることができたと達成感を感じた。

 我ながら性格が悪いなと思う。

 だがそれより、気になる事があった。




「交渉、そして部下……あいつはどこかのチームのアタマになったのか……?」



 

 だとしたらまずい。

 相手には私の学校での姿も知られている。

 あいつを怒らせてしまったのは明らかだ。もしかしたら部下を使って狙われるかもしれない。

 私の望む平穏な日常が、また遠くなった。


 


「ああーっ、くそっ! ……仕方ねぇか、あいつに奴隷にされるかはマシだと思っておこう」



 私は間違ってはいない。

 そう自己暗示しながら、家に帰った。


 


 

 




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