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孤独に寄り添う

 弥生高校からの帰り道。

 八戸とタロは全く別の方向だったのですぐに別れた。しかし私と村雨は途中まで道が同じだということが分かり、道が分かれる場所まで一緒に帰ろうという話になった。


 かと言って、そこから特にする話もなく、沈黙の時間が流れながら、帰り道を歩いた。


「篠原」


 その沈黙を破ったのは村雨だった。突然のことだったので、思わずどもって返事をしてしまう。


「な、なんだ?」

「お前、友達がいただろ。この前、俺をお前の代わりに呼びに教室に来た奴だ」

「あ、ああ、そうだな」

「今日、そいつを学校で見かけたんだ」

「……そ、そうか。で、それがどうした?」

「頰に怪我をしていた」

「ーっ!!」


 耳を疑った。だが、今彼は確かに言った。「頰に怪我をしている『私』の姿を見た」と。もし、今の私と同じ位置の怪我ということが分かればバレる可能性があるかもしれない……!


「その怪我は、湿布で手当てされていたんだが……」


 村雨の言葉一つ一つが、私の胸の鼓動を早める。そして、次の言葉でその鼓動は一瞬止まった。


「それはお前の今付けている湿布と全く同じで、付けられた位置も同じだった」

「ち、違う、待て!それは勘違いだ、私は……!」


 彼の言葉を遮って、叫ぶように言ったが、村雨はそれを制し、言葉を続けた。


「もうお前達が同じ人物ということは分かっている。弁解しても無駄だからな。髪型、顔が少し違っても、身長や体格は同じだ」

「うっ……」

「それに、俺と初めて会った時のあいつの目と、お前が俺に向ける目は同じだったからな。前から少しは不思議に思っていた。だが、それを咎めたり、馬鹿にしたりはしねぇ。俺が聞きたいのは一つだけだ」

「……なんだよ」



「あいつとお前、どちらが本当の篠原 美咲だ」



 それは、村雨の純粋な問いだった。元番長の私と普通の女子高生の私のどちらが本当の私か。つまり、私が今ありたいと思っている方の自分が答えになるだろう。


「そんな質問をされるとは思ってなかった……そもそも、まさかお前にバレるとは思っていなかった。馬鹿なのにそういうところは気付くんだな」

「うるせぇな、黙れ」


 何気なく言ってしまった一言だったが、村雨は眉間に皺を寄せている。意外と気にしているらしい。


「お前とこれから絡むことがあるかは分からないが、はっきりしておきたいと思った。早く答えろ、どっちが本当のお前だ」


 必死に考える。

 私がありたい自分はどっちなのだろう。私は、一体どちらの姿でありたいのだろう。

 一度、元番長の自分を嫌って、普通の女子高生として生きる決断をした。その決断によって、私には幸せな日常が訪れた。


 だが、久しぶりに元番長として動いたこの三日間は、決して嫌なものではなかった。逆に、普通の女子高生の姿でいる時の何もできない自分の無力さを感じる方が辛くて辛くて仕方なかった。


「……わから、ないんだ」

「あ?」

「自分でも、分からないんだ……私は、どちらの姿をしていた方が幸せなのか。普通の女子高生の姿でいるときは幸せだ」

「そうか」


「だが、友達が不良に襲われている時に、何もできないということが辛くて辛くて仕方ない……!それに、この姿でお前達と戦ったのも、嫌ではなかったんだ……」

「さっき随分と楽しそうだったもんな」


「これは私の数少ない悩みだ……どうしたら、答えは見つかるんだろうか」

「俺にはよく分からない。常に自分の的確な意思に従いながら生きているからな」

「はは、なんだかお前らしい」


「そうやってうじうじ悩んでいるお前はお前らしくない」

「っ!?」


 少し傷ついた。人が本気で悩んでいるのにこいつはなんてことを……!


「わ、悪かったな、私らしくなくて……っ!」

「あぁ、だから……」



怒りと悲しみが込み上げる。だが、村雨の次の言葉で、その感情は一瞬で無くなった。




「早く、解決するといいな」



 村雨は、微笑みながらそう言った。

 それは綺麗な笑顔だった。顔に少し怪我や痣があるのが勿体無い。

 彼の優しさに触れてしまって、彼から目が離れなかった。


「ど、どうした?」

「なんでもねぇよ」


 思わず顔を逸らし、村雨のいる方とは真逆の方向に顔を向けた。



「解決したら答えを聞かせろよ。俺はここを左に行かなくちゃなんねぇ、じゃあな」

「そうか、じゃあな!」


 村雨は軽く手を上げて歩いていった。彼の背中から、しばらく目が離せなかった。


「……やっぱり優しいんじゃねぇかよ、お前」



 去りゆく背中に微笑みかける。

 学校でも一人で過ごしていることが多く、友達を作ろうとしない彼は他人を嫌っているのだと思っていた。



「でも、違うんだな」



 少しずつ、あいつのことについて理解できるようになってきた。

 それが嬉しくて、スキップをしそうなくらい明るい気持ちで家に帰った。









「何?弥生高校がやられただと?」

「はい……!富岡高校の奴二人と、弥生高校のアタマに反発していた奴らが手を組んでやったそうです!」


「へぇ〜、そうなのぉ……で、その富岡高校の人達の名前はわかってるの?」

「はい、一人は村雨 裕翔、もう一人が……あの篠原 美咲、()()()()()()()()()()()()()()()()()()|!」

「あぁ、神崎が奴隷にしてたっていうあいつか」

「ええ、そうよ! 私の可愛い奴隷ちゃん……! ふふ、突然私の前から姿を消したと思ったらぁ。あの子、富岡なんてところに行っていたの? ふふふ、ははははっ……」



「やぁっと、みぃつけたぁ……!」



「気持ち悪い顔になっているぞ、いつもの清楚な振る舞いはどうした」

「ふふ、ごめんなさい。でも、やっと見つけたんですもの……だぁーい好きなみ、さ、きちゃん……!」

「まぁイカレ野郎はほっといて、あいつらがやられたということはチャンスだ。」



「オレたちのグループ、『パラサイト』があいつらをぶっ潰して、ここ一帯をオレらの物にする……いいな」

「ハイッ!!!」

「はぁーいっ」




「また会えるのが楽しみね、美咲ちゃん」

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