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元番長の実力

 屋上と見られる場所の扉の前には、筋肉が発達してかなりがっしりしている男が立っていた。


「来たか、身の程知らず」


 そう言い私たちを威嚇した。そんな彼にはいかにも強そうな威圧感があった。しかし「強そうな」、だ。本当に強い奴の威圧は、体にピリピリという感覚が来る。

 それに比べ、こいつは全然マシだ。だが、一応油断しないように気を引き締めて構える。


「こいつもお前がやんのかよ」


 村雨はそう文句を言ってきた。だが、二対一で倒すと言うのも元番長の名が廃れる。


「お前はもう少し休んでろ。次は出番を代わってやるよ」


 そう言って、目の前の男を見る。




「やるぞ、構えとけ」

「ここでずっと立ってたからなァ?待ちくたびれたぜ。……行くぞ、女」

「来い」


 ドシッ。いきなり来た突きを、咄嗟にガードして身を守る。今まで速いや痛いなどの突きはよくあったし、味わった。

 だが、こいつの拳は重かった。

 骨まで届くような衝撃が走る。


「ッ……!」

「これで立ってられるか、大したものだ」


 まずい、これは顔に当たったら終わりだ……!一瞬で気絶してしまう!避けるしかない!



 奴の攻撃を避けて、隙ができた時に拳を入れる。上手くいけばそれで倒せるはずだ。何回か避けて、隙を探していると、彼はイライラし出した。


「チッ、避けやがって……! このッ!」


 蹴りを入れられそうになり、それを咄嗟に避けて、バランスを崩す。その時、私はあることに気づいた。


「バランスを崩したな、これで終わりだ!」


 男がそう叫びながら真正面から殴りにかかってきた。咄嗟に腕を掴み、拳が目の前スレスレで止まる。速さは大したことなかったので、バランスを崩していたとしてもこのくらいはできた。


「お前の拳、蹴りはきちんと当たらないと意味がねぇ。それなのにお前は突きが遅すぎる。そのせいで、拳を止めるのはかなりの力がいるが、腕を掴むことは大したことじゃない」



 一瞬で、彼の足を引っ掛ける。


「そしてもう一つ。お前は攻撃した後の足元がガラ空きなんだよ」

「なっ……!」

「転べッ!!」


 男はバランスを崩して倒れた。マウントを取り、これでもまだ抗うか?とその男を見下す。すると、彼は降参だ、と手を上げながら呟いた。


「チッ、これじゃあ俺の負けだな」

「私を倒すにはまだまだ甘いってことだ。でも素直に負けを認めれる奴は嫌いじゃない」


 男から離れ、村雨と目を合わせる。


「終わったな、行くぞ」

「ああ、多少は楽になったか?」

「余計なお世話だ」

「あー、なんだ。可愛くねぇ」

「お前こそ。素直に俺に譲れば良かったじゃねぇか」


 そう言いながらふい、と顔を背けて先の屋上に繋がる扉へと進んでいく村雨。拗ねているのを見ると、ほんの少しだけ可愛いなと思ってしまった。


「何ニヤニヤしてんだよ。気引き締めろ、次は本番だ」

「元から本番のつもりでやってたに決まってんだろ、バーカ」

「ったく、お人好しの生意気女め……」


 そう呟きながら、一緒に扉を開ける。その先には、橙色に染まった空が広がっていた。その中に、四人の人影。


「本当にここまで来ちゃったの〜?信じらんなぁーい」

「帰れ、お前達が後悔する前にな」

「そう言って素直に帰るわけないよね? へへっ、ボッコボコにしてあげるよ〜!」

「よくここまで来たな。褒めてやる」


 一人は髪の毛を可愛らしくゆるく巻いている、まるでギャルのような女子生徒。

 もう一人は和服が似合いそうな真っ黒な髪をくくっている、容姿の綺麗な男子生徒。

 そしてもう一人は萌え袖をした身長の低い男子生徒。

 最後の一人は耳や口にたくさんのピアスを付けた男子生徒だった。雰囲気から見るに、きっと最後の男がここのアタマなのだろう。その男が、次に口を開いた。


「で、何のために乗り込んで来たんだよ、テメーら」

「お前が私の学校の関係ない奴らを巻き込むなんて卑怯なことするから、直々に教育しに来たんだよ。元凶と一緒にな」

「何が元凶だよ。先に手を出したのはあっちだ」


 村雨は不満そうに口を挟む。これだけは譲られたくないと言わんばかりに。


「子どもかお前は!」

「話には聞いている。だがそれはウチの縄張りに入るなんてナメた真似したお前が悪いんだよ、分かるか?」


 出た出た。私たちの業界あるある、公共の場を勝手に縄張りとか言ってまるで自分達の物のようにするヤツ。

 そう思っていると、村雨がまるで私の意見をそのまま代弁するかのように言い返した。


「いいや、全然分からないな。そもそもあそこは公共の場だ。私有地みたいにするお前らの思考が分からない。人に迷惑を掛けないなら勝手にやってろ。だが自分達の縄張りだーとか言って関係ねぇ人を巻き込むなよ」


 常識人か!? まさかこいつ意外と常識人か!? 目の前に立っている四人は、ガラが悪そうで自分達と同類の喧嘩馬鹿だと思っていた奴に正論で説教されて、一体どういう気持ちなのだろうか。

 笑いを堪えるのに必死だった。しかも村雨はずっと真顔だ。それは更に追い討ちをかけるように私を襲った。


「俺はなぁ……」


 奴らのアタマが口を開く。そして、こちらを鋭い目で睨みながら怒鳴った。



「お前らみたいなルールなんてモンを守るガキンチョが大嫌いなんだよォ!」


 それにまた村雨が反論する。


「正論ぶちかまされてキレるなんて気のみじか」

「待て村雨それ以上言うな!!」


 こいつ常識は一応なってるのにとてつもなくバカだな!? これ以上怒らせてどうするんだ!


「あーあ、もう無駄だよ、センパイ怒っちゃった」

「殺れ、お前ら!」

「御意」

「はぁーい!」


 容姿端麗な男は村雨に襲いかかった。あいつは一応怪我人だ。手当したとはいえ大丈夫なのだろうか、とつい心配になる。


「村雨、大丈夫か!?」

「大丈夫に決まってんだろ!お前は前を見てろ、当たるぞ!」

「えっ」


 言われた通り前を見る。すると、髪を巻いていた女が、足元にあるサッカーボールを蹴ろうとしていた。


「そんなまさか……嘘だろ!?」


 女がサッカーボールを蹴ると、それは私の顔めがけて飛んできた。なんとか寸前で避け、直撃は避けたが、怪我をしていた頰にすれて、鋭い痛みが走った。


「ッ……!」


 あまりの衝撃によろめく。顔をあげると、女がこちらに走ってきた。そして、私を蹴りあげようと足を浮かせた。


「気持ちいいくらい強烈な蹴りをあげるっ!」

「させねぇ……ッ」


 彼女の蹴りより先に、自分の拳を顔面に食らわす。少し感触が弱かったので、きっと避けられたのだろう。そして、彼女は私の拳を避けたせいで少し体制が崩れ、蹴りの当たる位置が急所からずれた。


「掠っただけなのにかなり痛いんじゃん……! どうなってんの、ゴリラ女なの!?」

「ゴリラとか言うな!」


 彼女は痛みでよろめく。蹴りの威力や走るスピードはあるが、体力や防御力がないようだ。喧嘩慣れしていない証拠だ。彼女はこちらを睨み、もう一度蹴りをかまそうとした。


「この野郎ッ!」


 だが冷静さが欠けていたその蹴りは、軽々しく私の手に収まった。


「なんだよ、この学校にはイライラしやすい奴しかいねぇのか? 詰めが甘い」

「ッ! 離せ、離せェッ!」


 片足立ちをさせられている状態の彼女は、上手く動けないせいで無様な動きをしている。彼女は短いスカートを履いていたので、下着を必死に隠していた。一応スカートを履いているのは私もだが。


「蹴りをするんだったらこうして止められないように注意しねーとな?」


 同じ女として流石に可哀想になったので、足を離してあげた。すると、すとんと座り込んで放心状態になってしまった。


「や、やりすぎたか……? まぁ、少しの間可愛らしくしてろよ」

「……ぐすん」


 村雨の方を見ると、先ほど彼を襲った男が倒れている。彼の方も終わったようだ。


「そっちも終わったか」

「ああ、同時だったようだな」

「ひょえぇ、あの二人をやっちゃうかー!うちの四天王だったのになぁ、すげー!」

「仕方ねぇな……俺があの目つきの悪い女をやってやる。チビ、お前は()()()()()()()()()()だろ?」

「あ〜、そうだね!ありがとうセンパイ!」


 私の前に学校のアタマ、村雨の前に私の胸のあたりくらいしかない小さな男が立つ。


「体力はあるか、篠原」

「大丈夫だ、慣れてる。お前は?」

「俺も慣れてるに決まってんだろ」


 いや、確かに察しはつくが慣れてるとかは聞いてなかったぞ。

 というかどうして慣れていて経験があるくせに一人で学校に乗り込むなんて無茶なことができるのか。

 ただの馬鹿なのか。いや、そういえば普通に喧嘩馬鹿だったな。



 ふぅ、と深呼吸する。そして、




「……負けるなよ。」




 お互いにそう一言告げて、それぞれの相手のタイマンを始めた。

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