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俺の彼女は《カノジョ》じゃない  作者: イマジンカイザー
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#1 お前は、ダレだ?

カテゴリを決めるにあたって便宜上ラブコメとしましたが、本当にそれで正しいのかどうか、これは果たして恋愛ものといえるのか、そもそも読者さまに受け容れられるのか、投稿した今現在、作者ですらよくわかっておりません。


そうした煮え切らない部分も含め、本作をざっくりを言い表すならば。

『お前はダレだ』、と。

 自分とは一体何者なのか。ふと、考えてみることがある。


 北西東ほくせい・アズマ、この春から高校二年生。口うるさい母と代わりに口数少ない父の間に産まれた長男坊。陸上部上がりの帰宅部で、イビりにイビられたせいかガタイには自信がある。

 髪は短く刈り込んで、伸びて来ようものならサッサと切る。着るモノにこだわりはない。家に帰れば古風な学ランは脱ぎ捨てて上下灰色のスウェットに早変わり。

 友と呼べる人間は二・三人。誇れるようなもんは何もない。強いて言えば178センチの立っ端とこの体格くらいか。でくの棒呼ばわりされるのにももう慣れた。


 なんでそんなことを考えるかって? 深い意味はない。俺にはない。

 そうさな。あるとすればアイツの方。この春グーゼンお近付きになった、鳶色の目をした高嶺の花――。



……………………

…………

……



「なあ、アズマさ。また向こう見てただろ」

「うっせーな。別に俺がどこ見ようったって勝手だろ」

「いやいやいや。見てただろ、チラチラ見てたでしよ。転校生の苅野忍」

「隠し事したってタメにならないよ〜? ほら言えよ、言えってば」

 退屈極まりない土曜授業を終えて、他の奴らが帰り支度を纏める最中。俺の机に寄りかかり、ダチふたりがやっかみ混じりにつっかかる。

 目線の先に女子らがまとまり、グループを形成していたことは事実だ。そこは認める。でも、向こうは最前列の引き戸前、こっちは窓際の端っこなんだから、どうやったって目に入るだろ。意識せずとも見ちまうだろ。



「ねー、聞いたあ? あの噂」

「知ってる知ってる。『ドッペルさん』だっけ? 自分と同じ顔の子が、この校内にちょくちょく現れるって」

「何それ、あんなの噂話っしょ。ないないない」


「えー。そうかなぁ? でも、なんかちょっと楽しそうじゃん。逢ってみたいなあ、ドッペルさん」

「『しの』はオトボケさんだなあ」

「もしもホントに出会ったら、たましい吸われて終わりって聞いたよー?」

「あはは、ナイナイ。流石にそれは誇張だってー」

 女子連中四・五人に囲われ、その中核を成すのは苅野忍かりの・しのぶ。この春からうちの高校に転入し、浮世離れしたミディアムショートの銀髪と、誰もが振り向く眉目秀麗さが目を引く人気者。

 俺だって男だ。興味が無いって言ったら嘘になる。けど、帰宅部同然の俺と読モが本からそのまま出て来たようなヤツとじゃ釣り合わない。コクる前に取り巻きに袋叩きにされちまう。

 あ、今こっち見た。しかも俺に向かって手ェ振ってる。イカンイカン、あんなもん哀れみだ。全方位への外面アピールだろ。そうだ、そうに違いない。


「フゥオウ、手まで振ってもらっちゃってぇ」

「アズマ君もアレかな? 我が世の春が来たーって奴ぅ? 妬けちゃうねぇこのぉっ」

 あのな。目が合ったのも、手を振ってくれたのも全部偶然だから。幾らこの集まりに女っけが無いからって、ヒトをダシに盛り上がるんじゃねぇ。

「俺ぁもう帰るぞ。モテキがどーだって話は手前らで勝手にやりやがれ」

「んだよー、冷てぇなー」

「これからが面白くなるんだろうよー」

「知らん、知らん。もう帰る、じゃあな」

 気の置けない連中だが、あんまりズカズカ来られるのは好きじゃない。どこかで好感度のバランスを取らねばイカン。柏木と三橋の二人を強引に振り切り、この教室から一旦おさらば。

 無理矢理逃げ出すこの瞬間、刈野のやつと目が合った。とっさに反らし、向こうは微笑みで平と躱す。

(俺も少しばかり、お近づきになれればなあ)

 この時はただそれだけの関係だと思っていたのに。まさか、『こいつ』が俺にとって最も気の置けない存在になるだなんて。今は流石に知る由もなかった。



※ ※ ※



 校門を出て左に三分。形だけの錠前を外し、裏口を通って昇降口へ。ひっそりと静まり返っているけれど、煤埃はそれほど気にならない。


 うちの学校、辰巳大付属高校はこの春から隣接する公立戌亥高校と統廃合を行い、そこに居座る生徒たちの殆どを受け入れた。ところが、壊そうにもどちらの高校も処理費用を渋り、市もなにかに使えそうだとゴネて誰も手を付けず、老朽化した校舎だけが塩漬けにされている。


 俺は廃校とされた戌亥高出身だ。陽の光を奪われ、校舎は二階建てと少なく、元いた辰巳の連中から奇異の目で見られたりもしたが、いざ通わなくなるとやっぱり寂しい。


「ああ。やっぱ、ここが一番……落ち着く……」

 誰もいない校舎の中で古臭い椅子に腰掛け、使い古されてガタの来た学習机に顔を埋める。

 何か嫌なことがあると決まって居残りをして、薄汚れたこの机に悩みを吐き出していたっけ。

 あの頃は、家に居てもつらいだけだったから。


…………

……



 ――いい加減、部屋から出て来んかい。ガッコの制服引き裂いて籠城なんて。


『アニキにはカンケーないだろ。"オレ"はそんなの絶対着ねェ。いつまでも妹扱いしてんじゃねぇぞ』


 ――言いたいことは分かる。でも、引き籠るってのは違うだろ。お前はお前、他所はよそって、皆に見せ付けりゃいいじゃねぇか。


『うるせぇ。うるせえってんだよ……。それが出来たら、出来てたら……苦労なんか、しねぇ』



……

…………



「うお、もう夕方……」

 我ながら不用心だなと猛省するばかり。陽の当たらないこの教室で、机に突っ伏し三時間もうたた寝なんて。

 おお、寒ッ。こんなことで風邪でも引いたらダサ過ぎる。いい加減、帰ろ……。


 床に投げ出した鞄を拾い、旧一年一組の引き戸を過ぎたその時だっただろうか。静まり返ったこの場所で、切羽詰まった衣擦れの音。


(誰か、いる?)

 他に音を立てうる者はいない。あの錠前が形だけの代物だと教えたこともない。

 じゃあ誰が? 好奇心と不安とを天秤にかけ、俺の中で前者が勝った。戸を閉めず、抜き足差し足忍び足。一組の教室から、その端に位置する便所へ向かう。



(やっぱりだ。ここから音が)

 当時何度お世話になったか知れぬ男子便所の中で、先程と同じ音が今もなお続く。

 俺以外の誰かが、用を足す為だけに、ここへ来た? 何故そんなことを。わからん、訳がわからんが……。



『あーっもう、うざってえ。だから"ジャンパースカート"ってヤツは嫌なんだ。幾ら捲っても終わりが見えないーっ』



 音と言えば時折入る隙間風、外の喧騒が窓越しに響くくらいのほぼ無音状態。聴く側はどうしても過敏になるし、どんな小さな声すら鮮明に捉えてしまう。

 けど。だからこそ、今のこれは何なのだ。スカート? 捲くる? セイセイセイ、ここは男子便所だぜ。使うのなら個室の洋式便器だろうに。


 これ以上近付くのはやばい。一刻も早く離れるべきだ。アタマの中で結論が出ていながら、俺の手は便所のドアノブを握り、ゆっくりと戸を開けてゆく。


「え」

 その昔、保健の先生にこっそりと教えてもらったことがある。何故男子便所には便器が二種類あるのに、女子はひとつだけなのか。

 俺たち男は股の間にぶら下がってる『こいつ』で尿を斜め下に飛ばすことが出来るが、それがない女子は立ってすると真下に落ち、衣服や靴を汚してしまうから。

 恥を忍んで理由を聞き、当たり前だと思っていた現実が、目の前で根底から覆された。


「は〜〜、やっぱえぇわあ、おちつくうー」

 クラス一番の美少女が。ミディアムショートの銀髪が。『小便器』の前で制服のジャンパースカートを腰まで捲り、左手でそれを保持しつつ、右の手からちょろちょろと用を足している。

 俺と同じ、排尿のための『モノ』を股の間にぶら下げて。


「あ」

「へ」


 俺が今まで読んできた本における異世界は、剣と魔法で巨悪を滅し、魔物と異能が共生する、そんなセカイだと思っていた。

 頬を抓って二度見三度見。結果は何も変わらない。トラックに撥ねられてさえいないのに、俺はいつから異界の住人になってしまったのか。

 わからん。訳が分からんが、とりあえず……。


「お前は、ダレだ?」

 先んじて、問いだけ残しておこうと思う。

・最初、ここに次回更新時期を表記していたのですが、その日を過ぎると必要なくなるので、こっちにはあってもなくても良いものを書き残しておこうとおもいます。


●北西アズマ

身長179センチ・体重71キロ


●苅野忍 (チアキ)

身長・体重 可変

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