アニマル・幼稚園
ある日、この世の全ての動物達は2足歩行を始めた。
そして、人の言葉を理解し、話せるようになった。
そんな人の言葉を話す動物は食べられないということで、人類はほとんどが菜食主義者となった。
それから、10年...
人類と様々な動物達が共同で通う"幼稚園"が出来た。
これは、その幼稚園で起こるお話。
ーーーーーーーーー
"たんぽぽ組"では30人を超える児童が、思い思いにはしゃぎ回っていた。
先生が教室の前でパンパンと両手を鳴らす。
「みんな静かにー。」
先生は大声を張り上げますが、なかなか子供たちは静かになりません。
「"猫も杓子も"はしゃぎ回ってるなぁ」
先生はそう言って、ため息をついた。
「先生、"猫"は私です」
先生の前で眼鏡をかけた猫が三角座りをしている。
彼女は"ネコミ"と言った。
「いや、そういうことではないんだが、、」
「では、"猫も杓子も"とはどういう意味なのですか?」
"ネコミ"は耳をピクピクと動かした。
「"猫も杓子も"というのは、"だれもかれも"という意味だよ。"ネコミ"以外は皆はしゃぎ回ってしまっているからね」
「なるほど。そういう意味だったのですね」
"ネコミ"は、持っていたメモ帳にいそいそと今教えたことをメモしていた。
「それにしても、皆元気だなぁ。十分の自由時間を与えたのは"虎を野に放つ"ようなものだったなぁ」
先生がそう呟くと、遠くのほうから元気そうな男の子が手を挙げた。
「おう、先生。呼んだか?」
"トラオ"が走って先生の傍にやって来た。
「いや、呼んでないよ。まあ、でも折角ここに来たんだから、もうずっとここでじっとしとくように」
"えー"と"トラオ"は残念そうな声を上げた。
"ネコミ"がピンと高く右手をあげた。
「"虎を野に放つ"とはどういう意味なのですか?」
"ネコミ"の尻尾はフリフリと左右に揺れていた。
先生はコホンと咳払いをする
「"虎を野に放つ"って言うのは、"猛威ある人を自由気ままにさせること"さ。今回は皆が元気すぎるから、
自由にさせてしまって収集がつかなくなっちゃった様子を例えたのさ」
「なるほど。。」
"ネコミ"は一生懸命ペンを走らせている。
"トラオ"は少し目を離した隙に、先生の元を離れて友達と遊び始めていた。
「はぁ、まったく。」
先生はため息をついた。
「"トラオ"にここでじっとしていろというのは、"馬の耳に念仏"だったなぁ」
「ん?先生、呼んだ?」
遠くの方で駆けっこをして遊んでいた"ウマタロウ"が先生の元へ駆けよって来る。
先生は"ウマタロウ"の頭を優しく撫でた。
「いや、呼んでないよ。ただ、先生が静かにしなさいと言ったのは聞こえなかったのかい?」
「聞こえたよ。だから静かに駆けっこしてたの。」
「あっ、なるほど。それは先生の言い方が悪かったのかもしれない。」
先生は反省して、子供たちに声をかけた。
「皆その場から動かないでー!」
先生がそう叫ぶが、何人かが先生の方を振り向いただけで、相変わらず騒がしいままだった。
「あらこれは"猫の首に鈴をつける"ようなものだったわね」
"ネコミ"は首を傾げている。
「先生、私の首には鈴なんて付いていないわよ」
「これは"いざ実行してみると難しい"って意味で言ったのよ。」
「じゃあ、さっきの"馬の耳に念仏"は?」
「あれは"お願いしても全く聞いてくれない"って意味なのよ。」
「ふむふむ」
ネコミはメモ帳に一生懸命先生が言ったことを写していた。
先生はなかなか静かにならないので遂に奥の手を使うことにした。
「皆静かにして、先生の傍に集まってくれないと、"おやつ抜き"ですよ」
さっきまで騒がしかった教室が嘘のように静まり返り、子供たちは皆先生の元に集合した。
"ネコミ"がメモ帳をペラペラと捲り、何かを探していた。
そして、目的の言葉を見つけると嬉しそうに先生に報告した。
「これは正に"鶴の一声"ですね」
先生は翼を大きく広げると、"ネコミ"にニッコリと微笑みかけた。
アニマル・幼稚園 -終-