少なくとも馬ではない
コメディ色強くない?
ジャンル間違えてない?
休暇が終わった。憂鬱である。
とは言え、早めにダイヤモンドゴーレムを片付けたからかなり自由な時間があった。
国の膿も一人取り除けたし、愛馬も手に入ったし、かなり充実した休暇だったのではないだろうか。
ダイヤモンドゴーレムを倒した事は、帰る三日程前に報告した。
報告の時にはそれはもう多くの人々が大はしゃぎ。
お祝いだけさせて欲しいと何度もお願いされたので、仕方なしに祝いの席に参加してきた。
そんなこんなで今は無事王城に帰ってくることが出来た。
なるべく休暇中の気の抜けた態度を出さないよう気を付ける。
「おかえりなさいませ! 勇者御一行様!
此度の討伐お疲れさまでした! 王様がお待ちですので、お疲れの所申し訳ありませんがそちらの方へお願いします!」
「わかった」
すまん、全く疲れてはいないんだ。
なんだったらリフレッシュしてきた。
「ではこちらへ!」
さて、しばらく仕事が無いといいが。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「勇者マルク殿、ダイヤモンドゴーレム討伐の件はご苦労だった。
街の人々からも感謝の言葉が多く届いておる。 誇らしい限りだ」
「身に余る光栄でございます」
王の間で片膝をつきながら対話する。
勇者の評価としては礼儀も大事な要素の一つ。しっかりしなくてはならない。
正直胡坐でもかきたい気分だが。
「してマルクよ、今回は急な頼みだったからな、少し息抜きをするとよい」
「そんな、勇者としてそのような時間を頂く訳には……」
「いいのだ。 今後の戦いに支障が出てからでは遅い。
体を休めることも大事な仕事だぞ」
「感謝いたします……。 それではありがたくお暇をいただきます」
支障も何も戦いに関してはほぼほぼ決着がついており、体は充分に休めた。
なんて言ったって討伐にかかった時間はたったの五分。つまり実働五分だ。
いや、休めることも仕事と言うのならばしっかり一か月近く働きづくめという事になるのではあるが。
とはいえ、これで勇者一行は王様直々に休暇を貰う事ができた。
延長戦開始である。
すでにマルクの中にはこの休暇をいかにゴロゴロ過ごすか、そんな考えで埋め尽くされている。
もはや上の空で王の間から退出するマルク。少しすると、トロイがまた面白そうに話しかけてくる。
「なーに優等生ぶってんのよ。休暇貰う気満々だったくせにさ。」
「ああした方が謙虚に見えるだろ。それに一応優等生で通っているんだ」
いつものように軽口を叩きながら話す二人。
ときおり後ろのプリメーラやゴリゴラとも会話しながら廊下を歩いていると、
「あっ居た!! マルク様! ちょっとなんですかあの生き物は!?」
「何がだ?」
城の兵士が焦った様子で駆け寄ってくる。
いつもの様なキビキビした動きでは無く、むしろドタバタと表現した方が的確だろう。
「何がって、マルク様が連れてきたあの……」
「あぁ馬の事か。 どうした、暴れてるのか?」
「いやむしろ大人しい方ですけど……ってそうじゃなくて! まず馬じゃ「なにマルク! いつの間に馬なんて買ったの!?」ちょ」
「いや、買ったんじゃない。捕まえたんだ」
「え~! 見てみたい! いい!?」
「マルクが気に入った馬がどんなものか、わしも見てみたいのう」
マルクが捕まえた馬と言う部分に興味が湧いて仕方ない様子の二人。
元はと言えば緊急事態でも起きたかのような慌てっぷりで話しかけてきた兵士から発展した会話だというのに、もはや兵士などガン無視である。
「ふっふっふっ。 まぁそんなに気になるというならいいだろう」
マルクも満更ではない様子だ。
なんだったら魅せる機会を待っていたと言わんばかりの態度を見せる。
「やったー! 早く行こ!」
「どんな面白い馬か、楽しみであるな! ガッハッハ!」
この流れはもう止まらない。
結局兵士の報告は聞かないまま、三人は厩舎へと向かって行ってしまった。
そして残されたトロイと兵士。
未だ唖然とする兵士にトロイは、
「言いたいことはわかる。 が、どんまい」
と兵士の肩を叩き、一人自室に戻って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おいこれどうすんだよ……」「マルク様が馬って言ってんだろ? じゃあもう入れちゃえって」
「そういう訳にもいかないだろ」「てかデケェなコイツ……」
『おい、まだ私は待ちぼうけか?』
「ヒッ! いえ、その、もう少しお待ちいただければ……」
はぁ……と疲れたようなため息が厩舎の方から大量に聞こえてくる。
どうも対処しきれない、余りにも情報量の多い現状に皆参ってしまってるようだ。
するとそこに、
「お、丁度良く外にいるじゃないか」
マルク達がやってきた。
兵士達は安心したような、それでいてまた困ったような顔でそちらを見る。
『おお我が主よ、実は中々厩舎に入れて貰えないのだがどうすればいい?』
「む? どうしてだ、こいつは俺の馬だと説明したはずだが?」
まるで何がいけないのか全く分からない、とでも言う様に兵士達に尋ねるマルク。
そこにプリメーラが口を開く。
「ねぇマルク。 貴方の捕まえた馬って……コレ?」
「あぁそうだが?」
その言葉を聞きプリメーラは溜息をつきながら片手を頭に当て、
「まぁアンタの事だから、変な馬を捕まえたんだろうとは思ってたけど……」
そいつを指さして続ける。
「まさかアルパカなんて、夢にも思わなかったわよ!」
『訂正させて欲しい。私は馬である』
「自称してらっしゃる!?」
まさかプリメーラはアルパカ自身から訂正が入るとは思わず激しく驚く。
というよりもうアルパカの時点で凄く驚いている。
「どっからどう見てもアルパカでしょう!」
『馬だ』
「馬はそんなモコモコしてないわよ!」
『モコモコした馬だ』
「それにもうちょっと鼻も長い!」
『鼻の短い馬だ』
「と言いつつも実は?」
『馬だ』
「ムキーーーッ!!!」
不毛なやり取りである。モコモコだが。
プリメーラがそんな感じでずっとやり取りしている中、ゴリゴラはと言うと……
「珍妙な馬だなぁ! ガッハッハッハ!!!」
圧倒的なアホさ加減を発揮していた。
「ったく話にならないわ! ていうかマルク、こいつに名前付けて無いの?
一々訂正されたら気がおかしくなりそうだわ」
「名前? そういえば付けて無かったな」
ふむ、と考え込む。
確かにずっと馬では呼びにくいし、そもそも馬は種族名だ。
名前として呼ぶものでもないだろう
「そうだな、ではタフガイではどうだ」
『我が主、そこなんだがな』
ここでアルパカがマルクのセンスに異を唱えたと誰もが思った。
しかし実際には全く違い、アルパカが口を挟んだ理由とは、
『私はメスだ』
空気が凍り付いた。
程なくしてマルクが膝から崩れ落ちる。
「ば、ばかな。 あの熱い男同士の拳のやり取りは……」
そう言って放心状態になってしまう。
「ねぇ、結局名前どうすんのよ」
しかしマルクには届かない。それ程ショックを受けたのだろう、そしてしばらくそれからは立ち上がる事は出来なさそうだ。
一方ゴリゴラは、
「しかし随分デカいなこの馬は!」
相変わらずだった。