一点の曇り
ちょっと過激な描写かな?
R-15は保険じゃなかった!?
とりあえず、胸糞要素があるので苦手な方はお気をつけ下さい。
ボグッ!……ドムッ!……ゴッ!……
石造りのある一室に、肉を叩くような鈍い音が響いていた。
「オラッ! オラッ!
お前らみたいな奴は! これくらいしか! 生きてる価値が無いんだよ!」
巨漢――といっても横に大きいだけの男だが、その男が脂汗をだくだくとかきながらソレを殴っては蹴りを繰り返す。
激しい暴行を受けたソレは口から血を流し、体中に内出血の痕を作っていて、非常に痛々しい様相だった。
「ガハッ……」
「ッ! ……きったねぇなオラッ!」
ソレが吹いた血が男の足にかかってしまう。
元から暴行によって既に血など手足に付いていたが、ソレから汚されたという事実にどうやら怒っているようだ。
再び暴行が繰り返される。
「ハァ……ハァ……
くく……お前もさっさと俺に体を許せ。 そうすれば多少はマシな扱いをしてやるぞ?」
「…………」
話しかけたソレは僅かに黙った後に、
「魔王軍に栄光あれ」
そう言って血を男に吹きかける。
「ホンッとにテメェは物分かりが悪い奴だなあああああ!!!」
またも激昂した男は先程よりもより激しい暴力を振るう。
先程からかなり殴られ続けているソレだが、不幸か幸いかソレの体は頑丈に出来ていた。
それ故に、男から振るわれる暴力にも耐えることが出来た。出来てしまっていたのだ。
どれほど行われただろう? その残虐な行為が終わりを迎える。男に限界が来たのだ。
それでも彼は殴り続けた事で満足をしたのか、にちゃりと笑みを浮かべ、
「フ、フフフ……いつまでその虚勢が続くか見ものだな」
そう言い残して部屋から出ていった。
先程までの騒がしさが嘘のように鳴りを潜め、電気も消されたその部屋は闇に包まれていた。
時折ソレを繋ぐ鎖が動く音がするくらいだ。
暫くそんな時間が続いた。
だが少しずつ、新しい音が聞こえてくる。
「……魔王軍に栄光あれ……魔王軍に栄光あれ」
ソレは自分に言い聞かせるように、涙を流しながら言い続けるのであった。
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さて、魔王城から帰ってきたのはいいものの、休暇は後一週間近く余ってる。
ダイヤモンドゴーレムを倒した後、素知らぬ顔で街に入り高級宿で宿泊した俺ら勇者一行。
未だダイヤモンドゴーレムが居ると思っている街の人々はそれはそれはチヤホヤしてくれて、頑張って下さい。応援してます。なんて言葉を掛けてくれる。くぅ~っ心に染み渡るぜっ!
因みにだが、俺らが泊まっているこの宿も、既に予約が殺到しているらしい。
やはり有名人が泊まった宿屋に泊まる、というのは自慢話の一つになるらしい。
加えて、勇者が出発した後にどれだけ早く泊まるか、というのも重要なんだそうだ。
そんな自慢話が繰り広げられる光景を想像してみる。
奥さんA「奥さん、アタシこの前勇者様達が泊まった宿に行ってきましたのよ!」
B「あら奇遇ね! 私も勇者様が泊まった月の内に利用したことがありまして……」
C「えぇ!? なら私の2週間後って言うのは運が良かったのかしら!?」
D「何を言ってるの!その次の日に泊まるのがマダムの嗜みってものですわ!」
どうだい! 何がいいか全くわからんだろう!?
でもブランドってのはこういう所にも宿るんだってことだな。
という訳だが、とにかく暇なのだ。
このまま宿でゴロゴロして過ごすのも悪くないが、めんどくさがり屋の俺でも暇つぶしくらいはしたくなる。
だが一々それを探すのもめんどくさい。
どうしたもんかと考えると、外から微かに聞こえる人々の賑わいに閃く。
「よし、街に出よう」
そうだそうだ。
今この街には俺達が居るんだ。
そうと決まれば顔を隠せるマントを被ってっと、お金は……まぁ一応持ってくか。
思い立ったが吉日。という言葉があるように、俺はすぐに宿を出た。
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ガヤガヤと人の喧騒がどこまで行っても聞こえてくる街道を歩く。
どうも勇者一行が来ているとだけあって、どこもかしこも浮足立っているというか、プチお祭り騒ぎ状態だ。
こんなんで顔を出して歩いた日にゃたまったもんじゃない。
「さてさて、とりあえずは食べ歩きかな」
街道にはいつも何台か屋台が出ているのだが、勇者一行効果だろうかその数は数えるのが億劫になるほどにまでなっている。
もはや歩く観光スポット状態の勇者一行だが、結果的にこうやって街に活気が出るのはいい事だ。
賑やかな方が楽しい事もあるしな。
そんなこんなで物色していると、賑やかは賑やかであるが、少し怒気の混じった賑やかさを出す店があった。
その店は普通の大衆食堂とは違い、それなりに金に余裕のある人が来るような店だったのだが、何やら人だかりができていて中の様子を伺うことが出来ない。
「なぁおっさん。 あそこの店はどうしたんだい?」
何となくその店が気になった俺は、事情を知ってそうな近くの屋台のおっさんに話しかける。
「あぁ、なんでも貴族様が来店してるらしいんだが……
他の一般客を店から追い出しちまってるらしい。 勇者様と懇意にしている私をなんとかーって」
「あ~、成程。そういう輩か……
おっさん串焼き一本」
「おっ、こりゃ毎度」
情報料みたいなもんで、なんかの鳥の串焼きを一本購入する。中々美味そうじゃないか。
あの店に居る貴族は恐らくだが、勇者に縋り付いて威張り散らす、虎の威を借る狐みたいなものだろう。
偶に居るんだよそう言う奴が。俺はこの国の貴族の頼み事は立場上助けまくってるから、その経験がこうやって表れることもあるんだ。
「けどまぁ誰も信じないしなぁ、そんなん」
そう、俺の評価ってのはえらいもんで相当高い状態で固定されている。
もう本当に何したところで下がらないんじゃね?ってくらいに。
だからあの貴族がどんなに威張り散らした所で、勇者様があんな奴に好き好んで手を貸すわけない。だとか、あんな奴にまで救いの手を……勇者様さすがです! としかならんのだ。
これマジなんだぜ?
ただまぁどんな奴なのか気になる。
店の前まで人波をすいすいとかき分けて進む。俺にとってはこの程度の人だかり、避けて進むことなど訳ないのだ。
と、扉が開かれているから中の様子が見えるな。どれどれ?
「だから言っとるだろ!! 勇者様が! 懇意にしてくれたこの私の為に! この店の全てを尽くせと!」
おいおい、アイツってこの前初めて会ったばかりのクソデブ王子じゃねぇか。
名前は確か……駄目だ思い出せん……ひとまずオークでいいか。
護衛もチンピラみたいな奴ばっかだなぁ。兜くらい被っとけよ、矢でも打ち込まれたら即死じゃねぇか。
「ったく……物分かりの悪い奴らだ……
これでは私の城に居る奴隷と大して変わらんではないか!」
「全くその通りですね!」
アイツあんな癇癪王子だったんかよ。助けて損したなぁマジで。
しかし奴隷? はて、アイツの城にはメイドと執事ってお決まりの奴らしか居なかったはずじゃなかったかな?
うーーーーーん………………でも考えた所で思い出せそうにもないし、そもそもアイツの事なぞ考えるだけ無駄か。
これと言って面白そうな話題もなさそうだし、俺にも大して影響なさそうだし、もういいかな……
「特にこの前捕まえた魔族の女! あいつは本当に物覚えの悪い奴だったな。
見た目だけはいいが、言う事も聞かないんじゃ敵わんな」
「全くその通りですね!」
「どうせ魔王とやらもあの女のように頭の悪い奴だろう。
戦争の効率も悪い。無駄死にばかりする無能を戦場に送りつけてくる。これじゃ勇者様が討伐してくださるのも時間の問題だな!」
「全くその通りですね!」
「どうせ獣と何ら変わらぬ知能の持ち主なんだろうな! 何だったら私らで討伐してしまえばいいのではないか!?」
「全くその通りですね!」
「マッタクソノトオリデスネ」
この取り巻き共同じことしか言わないじゃないか。と思って混ざってみたんだが、バレちゃったな。
その瞬間、時が止まったように王子達は口を開くことをやめた。
全員が、串焼き片手にマントを被った不審者を、王子の対面に座って話しかけるまで一切気付くことが出来なかったのだから。
さて、こいつらどうしてくれようかな。