休暇ついでの魔王城訪問
ややシリアス。
…………ややか?
「おい、魔王」
「なんじゃ勇者」
「茶を出せ」
「いやじゃ」
「あ~、喉が渇くと思わず聖剣振り回しちゃいそうだなぁ~」
「茶を持ってこい!!!!」
俺こと勇者マルクは、現在ダイヤモンドゴーレムを瞬殺した際に出来た休暇を使い、魔王城で楽しい楽しい自堕落生活を送っている。
勿論パーティーメンバーは周知の上だ。
ここに居れば各地で暴れてる魔物に制止を掛けさせることもできる。故に仕事が増えない。
完璧だぜ。
え?どうやってここまで来たかって?
そりゃ魔王倒した後に、ちょちょいっとポータルを設置しておいたからそれ使ってテレポートしてきただけさ。
「ズズズッ……ふう。
……まぁまぁだな」
「お前マジで腹立つのう!!!」
そんで先程からギャンギャン騒いでるのが魔王だ。名前はオルトリア。
銀髪が良く似合う白い肌に、真っ赤に染まった赤い目。背丈は150あればいいところだろうか。
年齢は秘密とかほざいたが、脅して聞いたところ200年は生きているらしい。らしいというのは、魔族と言うのは年齢を細かく数える文化が無いらしい。
まぁ恐らく年功序列というものがほぼ無いからだろう。だが一応れでぃなのでそこら辺は気にするらしい。れでぃだってさ。因みに魔族の中ではまだガキの部類だそうだ。
こんなんでも一応魔王軍のトップだってんだから、世も末だなぁなんて思うね。
さて、そんなこんなで俺は休暇を謳歌している訳だが?あ、今のは狙ってないよ?
なんでその休暇先が魔王城かと言うと、ダイヤモンドゴーレムの事についてこいつに報告をしに来たのが大きな要因だな。
少し長くなるが、こいつが負けた事を知っている奴は俺ら勇者一行と一部の信用の置ける人間達。あと魔王軍ではこいつの側近と、よく分からんジジババとかだ。でもそんなに多くは居ない。
で、魔王が負けたことを知らない人間と魔王軍の奴らは今でも戦争紛いの事をし続けている。
当然俺と魔王が対面している事態なんて想定しても無いだろう。だから俺らもそれなりに与えられた役割ってのをこなさなきゃならない訳だ。
それで、報告しに来た理由ってのなんだが……
「そうじゃったか……また犠牲が出たんじゃな……」
「まぁ戦争に犠牲はつきものだ。 意識しすぎても何も変わらん」
「すまぬな……」
この魔王は良くも悪くも優しすぎる。
味方の犠牲はもちろん、相手側の犠牲にまで心を痛めちまうぐらい優しい優しい魔王様なんだ。
そんなこいつがある日言ったのは、殺した魔物や魔族の事を知らせて欲しい。という内容の物だった。
自分が戦う事を放棄しているようなものなのに、自分の為に命を投げ出した者達の事を見ないふりする事は出来ないと、そういう理屈らしい。
だから俺は今回の様な魔族や魔物がらみの事はわざわざ報告しにきてるって訳だ。
「のうマルク、やはり妾達が手を取り合う未来は無いのかのう……?」
「さぁな? 結局のところ俺らのトップってのは国王なんだし、アイツの考えが変わらん限りは難しいんじゃないのか?」
「そう、じゃよなぁ……」
「いいじゃんか別に、今のままでも。 人間も魔族も死ぬときは死ぬ。
それに変わりは無いだろ」
「お前は本当にそれでいいのか? お前だって――」「オルトリア」
「……すまぬ。 これには触れない約束じゃったな……」
少し空気が重くなる。
やれやれ、せっかくの休暇だってのにこれじゃリフレッシュもクソもないな。
「ま、あまり深く考えんなよ」
マルクがそう言って立ち上がると、あ……と小さな吐息ともとれる声を出すオルトリア。
僅かに動かされた小さな手は、マルクを引き留めようとしたかったのかもしれない。
距離で言えばそれは手を伸ばしたところで届く距離でもない、だがオルトリアには一つ聞いておきたい事があった。
「マルク……」
「なんだ」
「今回も、最低限の犠牲で抑えてくれたんじゃろ……?」
「さぁどうかな、優しい魔王さん」
僅かな問答をして、マルクはポータルを使って帰ってしまった。
重い雰囲気の中で取り残された形のオルトリアは、暫く俯いて、思わず独り言を漏らす。
「マルク……お前は本当に、優しすぎるのう……」
「そうですね、魔王様」
「ギム。おったのか」
ギムと呼ばれた男。彼は魔王の側近の一人であり、秘密を知る者の一人でもあった。
彼は跪いていた状態から立ち上がりオルトリアの方を見る。
壮健な様子の老人。という印象ではあるが、その強さたるや魔王軍の側近連中の中でも1,2を争う程の実力者である。
彼は吸い込まれそうな黒のスーツの襟を正すと口を開いた。
「今回の戦いについてご報告しても?」
「頼む」
報告内容は、勇者一行とダイヤモンドゴーレムの戦いについての物だった。
戦闘が行われた場所は、街より遠く離れた岩山。
ダイヤモンドゴーレムは周辺の石材を操る能力を有していて、時間が経過するごとに炭鉱所が荒らされてしまう危険性もあった。
しかし一行が5分で戦闘を終わらせたため大きな被害は無く、産業に影響を与えることは無かった。
またゴーレムの取り巻きに100近い魔物が控えていたが、圧倒的な勇者一行の前に逃走。
よって、魔王軍の損失は実質一体のゴーレムのみとなった。
「今回もあいつは……」
「ええ、必要以上に我々の民を傷つける事なく、見逃してくださったのでしょう」
「また貸しが増えてしまったな……」
「ですね」
手加減。それに尽きる話だった。
そもそも、純粋な戦闘力で魔王軍最強であるオルトリアを倒す実力を持つ者を、他の魔王軍が倒す事などできるはずがない。
どころか蹂躙されるのがオチだ。
それでもマルクはたったゴーレム一体の犠牲のみで済ませてくれた。
むしろ彼の力なら全滅させてしまう方がよっぽど楽だろうに、だ。
(マルク、お前は一体何を考えて……)
ただの優しさなのか、気まぐれなのか。
その真意は、魔王にも想像がつかないままだった。