やる気だけはありません!!!
「あらマルク様、おはようございます。
今日はお寝坊さんでしたのね? さ、早速朝食にしましょ?」
金髪ドリルお嬢様が食堂に入るなりすり寄ってくる。鬱陶しい。
だが俺は寡黙な勇者。
「ああ」
便利、圧倒的便利。なんて素晴らしい一言だ。
これだけで会話が終わるんだぞ? 活用しない手は無いだろう。
「マルク殿も来たようだし、ルルの言う通り早速朝食にしよう」
この会話からもわかる通り、王族が俺の為にある程度ではあるが食事を待ってくれている。その程度にはこの城での俺の地位は高い。
理由は簡単、俺が勇者だからだ。
勇者は世界にただ一人の存在で、その力は大国の軍隊よりもよっぽど強大とされている。
これは結構的を得ている話なんだ。
実は俺は昔、ある田舎町の道場の門下生みたいなもんだった。
別に剣が好きだったとかじゃなくて、親が無理やり通わされていただけだったのだが、一応稽古みたいな奴に打ち込んでいたりしてた。
いや、すまん嘘ついた。
打ち込んではいなかった。その日の稽古をどれだけ楽に終わらせるか、ただそれだけを考えながら過ごしていたんだ。
稽古自体をサボる事はしなかったのかって? 馬鹿か君は。
バックレたって結局は両親にばれる。そうなれば稽古よりもよっぽど面倒な教育的な指導が待っているんだ。
そんなこんなである日の事だ。
突然俺の体が光り輝き、勇者のジョブが俺に授けられたのだ。
異変にはすぐ気付いた。いやまじですぐ気付いた。
だって木刀振ったら道場が真っ二つになっちゃったんだもん。
それからは展開が早かったよ。
すぐに王都に連れてかれて、王様に頭下げられて、仲間集められて、冒険行ってこーいだからね。
三か月で魔王倒したけど。
いやぁ勇者って凄いね。
剣ふりゃデッカイドラゴンだろうが山だろうがパッカーンだから。
「マルク、今日は東の方でゴーレムが出現したから、そいつをまずどうにかしろってさ」
「あそこって騎士様達が居るんじゃないの? あたし達必要なのかしら」
「大方目的は勇者一行の経済効果目当てだろう。わしらが泊まった宿は連日繁盛間違いなしだからな!ガッハッハッハ!!」
これは俺らの仲間達だ。
上から、トロイ、プリメーラ、ゴリゴラだ。勇者一行の一員だけあって、皆世界有数の実力を誇っている。
「そうか」
まぁ細かいことは後だ。
一度食べ始めれば旨い飯に食欲をそそられ続ける。
朝食ではあるがガツガツと平らげていく。
「ふふ、相変わらずマルク様はいい食べっぷりですわ。
いっぱい食べる男性……素敵ですよ……」
ポッと顔を赤らめて言う金髪ドリルことルル。
ただ飯を平らげるシーンを見た程度で顔を赤らめるな、チョロすぎるだろ。
「そうと分かれば早く出発しよう、時間が惜しい」
サッサと朝食を食べ終わり仲間に告げる。
俺の言葉を聞いた三人は顔を見合わせて小さく噴き出す。
それから声を合わせていった。
「「「了解」」」
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「なんで笑ったんだよ、お前ら」
現在、勇者一行は王都から東にある街に馬車で向かっていた。
その道中、マルクは食堂で三人が噴き出した事に不満げに言及した。
「だってよぉ、お前どうせ早く終わらせたいだけだろ?
それを時間が惜しいとか言って……プクク……アーハッハ!!」
そのシーンを思い出してしまったことで再び笑い出すトロイ。
しかも今度は周りに自分達だけだという事もあり大笑いし始める。
「そうよ、どうせめんどくさいから早く終わらせたいだけでしょ?
しかもあの街――ローレンスはおいしいモノも沢山だし……」
「いい女もたーーーっくさんおるもんなぁ! ガッハッハ!!!」
「あんたって奴はホンッとにもう……」
プリメーラの言葉に被せるように煩悩丸出しの発言をするゴリゴラ。
実はこの三人はマルクが極度のめんどくさがり屋だという事を知っていた。
その為、あの場でマルクが言った「時間が惜しい」という物言いに、思わず笑ってしまったのだ。
「で? 今回のゴーレム退治はどうすんの?
種類はどうやらダイヤモンドゴーレム。 ランクはSくらいが妥当だな」
「通常の冒険者であれば準備に半月、討伐に一週間。って所かしら?」
「さてマルク、どれくらいで片をつけようかの?」
三人がマルクを見る。
マルクは大して悩む事もせず言い放った。
「なら一か月は休暇だな。 30分で片付けるぞ」
「「「了解」」」
三人も特に異論無く了承する。
後日、ダイヤモンドゴーレムは突如現れた勇者一行に30分どころか5分程で片付けられたのだが、討伐から一週間。未だ街の住民はその事を知らない。