そんなん建前だよ
「めんどくせぇ」
これは勇者マルクの口癖だ。
16歳のある日、突然勇者のジョブを授けられた彼はおよそ2年間4人の仲間と冒険し、数多くの魔物を倒して魔王軍と熾烈な戦いを繰り広げてきた。
そして現在も、魔王の元へとたどり着く為に過酷な冒険の旅を続けている。
道すがら、彼ら勇者一行は数多くの町々を救ってきた。その事から民衆の支持も厚く、生ける伝説として彼らの本や歌、果てには銅像が建てられるなど、まさに人間側のシンボルと言ってもいい存在になっていた。
だがしかし、やはり勇者マルクは4人の中で別格の人気を誇っている。
スラッとした体躯からは想像もつかない華麗な剣技、ゴーレムにも押し負けない力強さ、更には多くの女性を魅了する甘いマスク。
寡黙でミステリアスな雰囲気に世の女性はメロメロである。
さて、ここまで紹介した上で彼の口癖をもう一度聞いていただこう。
「めんどくせぇ」
そう、彼は極度のめんどくさがり屋なのだ。
そんな彼がなぜ今まで、2年もの間旅をし続けられたのか――
勘のいい方ならもう気付いてるかもしれない。
簡潔に言えば、彼は既に魔王の元にたどり着いてるし戦ったし倒してしまっている。
冒険なんて建前だったのだ。
勇者は待遇がいい。それはもうとてもいい。
食事も宿も何も言わずとも無料になる。町のチンピラは絡んでくるまでもなく、寧ろ尊敬のまなざしで見てくるものだから余計なトラブルなどほとんどない。
だから彼は魔王を見逃した。その上で程よく自分の体裁を保つことにしたのだ。
その上で細かいゴタゴタはあったが、まぁそれは後日紹介しよう。
ではここからは彼の日常の一部をご覧いただくとしよう。
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「マルク様! 本日の朝食の準備が出来ました!」
「あいよ」
あぁ、めんどくさい。朝食すらめんどくさい。
このままベッドの上で1日を終わらせたい。
というかこの部屋まで持って来いよ、俺勇者だぞ?
……まぁそんな傲慢プレイは余計なトラブルを生みそうだからしないけど。
起き上がり、暫くボーッとしてから着替える。
億劫な気持ちで部屋のドアを開ける。
ガ「おはようございますマルク様! 王様方達も既に食堂でお待ちです! 良い1日を!」チャ
見たかい? ガとチャの間にどんだけ話しかけてきてくれとんねんって話だよな。
まだ俺ドア開いてからお前の顔見てないよ? 見たころには既にキリッだよ?
ここの兵士達はそれはもうキビキビと働いてらっしゃるんだ。マジでうっとおしいほどに。
ま、返す言葉は、
「ん」
ただこれだけだ。
簡潔でいいだろ? ていうかこれ以上話す言葉もない。
それだけ言って食堂へと足を向ける
コツ……コツ……コツ……
あぁしんどい。
部屋から出てまだ十歩程度しか歩いて無いがもう部屋に戻って寝たい。でゴロゴロしてたい。
だが朝食には参加しなければ。
王様たちも、俺の事は寡黙だけど礼儀はしっかりしてて、国のために尽くしてくれる人間だと思っている。
実際はこの地位の為なんだけど。
とは言え、流石に国の王の信頼を損なう訳にはいかん。
めんどくさい。極限にめんどくさいが、今日も一日そこそこ頑張ろう。