訪問 /その1
とある秋の日のうららかな休日の午後。
今日は雨音が、青葉家にやってくる。
事の発端は、つい先日の出来事。
俺と雨音が些細なことで喧嘩になり、その結果朝日圭とかいう男の家に雨音が泊まることになってしまったのがきっかけである。
そもそも、喧嘩をしてしまった原因として。
まず第一に、俺自身に余裕がなかったこと。これが9割を占める。
模試の結果が思ったよりも悪く、ついイライラして結果的に雨音に当たってしまった。雨音は俺の事を気にかけてくれていたのに、俺はその気持ちに気がつけなかった。その点は反省している。
しかし残りの1割の原因は、雨音にもある。
待ち合わせの途中で、ナンパしてきた男たちにもにこやかに接したり、デート中に他の男の話をしたり。
正直、俺の気持ちを考えてないんじゃないかってことが度々ある。
そう、度々あるのだ。
だから、喧嘩した日の夜にようやく電話が繋がって、雨音が朝日圭の家にいると分かった時も。仲直りどころか、また喧嘩になった。
いや、ありえないだろ。普通。男の家に泊まりに行くって。
雨音曰く、朝日圭の妹がいるから平気、とのことだが。
全然平気じゃない。妹とか知らんし。そういう問題じゃない。
雨宿りさせて貰っただけ、らしいが。
それでも、のこのこ家についていくのはどうかと思う。
大体、あいつが雨音に好意があって狙っているのは、雨音自身も分かっているはずだ。たぶん。
なのに、警戒もしていないだなんて。
危機感が足りな過ぎる。思春期男子のことを、何も分かっていない。
で、喧嘩はヒートアップして。
俺の家にすら泊まったことないのに、他の人の家に泊まるのはおかしい。なら、七色のお家にお泊まりしてもいいの?ああ、いいよ。じゃあ、今度の週末ね。え、まじで来るの?という流れになって。
そして、今に至る。
♢♢♢♢♢
「カズ……どうしよう俺、まさかこういう展開になるとは思ってなくて。何も心の準備ができてない」
「だからってわざわざ俺に電話かけてくるなよ」
「だってさ、今週末って父さんは学会の出張でいないし、母さんは旅行に行ってるし。完全に二人きりになっちゃうんだよ。それって、まずくないか……?」
「別にまずくもなんともないだろ。むしろ、ラッキーじゃん?彼女連れ込んでやりたい放題とか。めったにない機会だぞ」
「だ、だからそういうのじゃなくて。俺は誠心誠意雨音をもてなしたいと心の底から思っているんだけど。でも、どうしても邪念が……!」
「邪念って。別に、彼女が泊まりに来るんだから邪もクソもないだろ。正直になれ。そして、観念して童貞卒業しちまえよ。雨音さんだって、どうせそのつもりで来るだろ」
「そうとも限らないというか雨音のことだからその可能性は限りなくゼロに近い。だから何も期待してはいけない。雨音はさ、全然分かってないんだよ、そういうこと」
「俺はそうは思わないが…………あ、そろそろバス来るから切るわ」
「カズは今どこにいるんだよ」
「温泉地だな。彼女と温泉旅行。俺も雪ちゃんも、スポーツ推薦で進学決まって暇だから、ちょっと早めの卒業旅行だ。そういう訳だから。じゃーな七色、がんばれよー」
「…………………………」




