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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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妹はお好きですか? /その2




「お風呂沸かしておいたんで、入って温まってください。着替えは妹のなんですけど、サイズは合うと思います。あと、タオルはこれで、シャンプーとドライヤーはここにあるもの自由に使ってください」


「……うん、ありがとう圭くん」


「で、ではごゆっくり」



 いつ止むのか分からない雨の中、雨音さんを放っておく訳にもいかないので。家に招き入れて、ここで雨宿りしてもらうことになった。

 雨音さんは濡れたまま外に長時間いたようだ。すっかり冷えきってしまった体を温めてもらうため、急いでお風呂へ案内した。


 ……雨音さんがお風呂に入っているうちに、リビングを片付けておかないと。散らかっている訳ではないけれど、一応念入りに掃除しておきたい。なんたって、好きな人が自分の家に来ているのだ。少しでも快適な空間に仕上げなければならない。入浴の時間は、おそらく短く見積ると20分から30分程度。収納から掃除機を取り出し、全力で部屋中を駆け回った。




「お風呂、ありがとうね」


「いえ……」



 ちょうど掃除が終わって掃除機をしまったタイミングで、雨音さんがリビングに現れた。当たり前だけどお風呂から上がった直後だから、お風呂上がりの姿だ。

 凝視するのは良くないと思って、視線を逸らしてキッチンの冷蔵庫を漁る。 



「えっと、雨音さん何か飲みますか?牛乳でも持ってきましょうか?」


「じゃあ、お願いしようかな」


 

 リビングのソファにお行儀よく座った雨音さんに、牛乳を注いだコップを手渡して、僕もその隣に並んで座った。



「ありがとう。いただきます」



 ゆっくりと飲み干されていく牛乳をぼうっと眺めながら、窓の外の音に耳を澄ました。先程よりも天候は荒れ、風も強くなってきている。



「雨、止みそうにないですね」


「そうみたいだね」



「……あの、雨音さん。服乾くまで、まだ時間もかかると思うので。何か映画でも観ませんか?」




◇◇◇◇◇




「わあ、すごい。こんなに沢山あるなんて。お家がビデオ屋さんみたいだね」


「父親の趣味が映画鑑賞で……あ、これなんてどうでしょうか。宇宙西部警察デスメタルシティの夜明け」


「いいね、それにしよう」



 父の書斎から映画のDVDを拝借して、リビングに戻って準備する。ついでにポップコーンなんかも用意して、大型スクリーンに映像を投影すれば、簡易シアターの完成だ。

 外の雨の音に負けないくらい映画の音声を響かせながら、至福の時間は過ぎていった。



「とても泣ける映画だったね。涙が止まらないや」


「そうなんです、これ名作なんです」



 ラストシーンが終わってスタッフロールが流れている間も、僕たちは映画の余韻に浸っていた。やはり最後の、主人公が愛する家族を地球に残し、彗星を破壊するため宇宙船ごと自爆するシーンは涙無しには見られない。



「雨音さんも、気分が晴れない時は思いっきり泣いた方がすっきりするかと思いまして」


「あはは……ばれてた?」


「僕には何でもお見通しですよ。あいつと、何かあったんですか?」


「少しね、喧嘩しちゃったの。それだけだよ」



 そう言ってさみしそうに笑う雨音さんの表情に、胸が締め付けられる。あいつ……青葉七色は一体何をやっているんだ。雨音さんの可愛らしく着飾った服装を見て、今日はデートにでも行っていたのだろうということはすぐに分かった。そこで何があったのかは知らないけれど。結果的にあの大雨の中、雨音さんを一人で放置することになっただなんて許せない。



「…………僕なら、雨音さんにそんな顔させないのに」


「圭くん……?」


「雨音さん、僕は本当にあなたのことが――――」



 いてもたってもいられなくなって、雨音さんの手を取り、思いの丈を伝えようとしたその時。玄関の方向から勢いよくスリッパが飛んできて、僕の頭にぶつかった。



「痛っ!」


「何リビングで盛ってんだこの馬鹿兄!死ね!妹が留守だからって女連れ込もうだなんて100万年早いわ!!」



「…………お前今日は撮影で遅くなるって言ってただろ、笑夢」


「はぁー??今日の撮影野外だし!こんな大雨で中止に決まってるでしょ!てか、その女誰!?顔を見せなさいってば!」


「ご、ごめんなさい。お邪魔してます……」


「ま、まさかそこにいるのは――――」



「花園雨音……!!」



♢♢♢♢♢



「先程は見苦しいところをお見せしてしまったこと、お詫び申し上げますわ。それから、この前ぶつかってしまったことも……本当にごめんなさい。改めて、自己紹介させてください。私、朝日圭の妹、朝日笑夢(あさひえむ)と言います」



 目の前で深々と頭を下げているのは、この前文化祭で見かけた女の子。あの時初めて会ったのに、どこかで見たことがある気がしたのは、圭くんの妹だからかな。目元のぱっちりさとかが、二人ともよく似ている。



「私は花園雨音です。こちらこそ、急にお邪魔してしまってごめんなさい。あと服もごめんね……お借りしてます」


「そんな、雨音さんは謝らないでください!悪いのは全部この馬鹿兄なんですから!それよりも、大丈夫でしたか?このケダモノに変なことされませんでしたか?笑夢はそれだけが心配で心配で……!」


「僕がそんなことする訳ないだろ」


「さっきまで襲おうとしてた奴が黙らっしゃい!雨音さんは、みんなの雨音さんなのよ!それを自分だけのものにしようだなんて、おこがましい!恥を知りなさい!」


「えっと……笑夢ちゃん?」


「はひっ!な、なんでしょう!」



「私、この前笑夢ちゃんを見た時から思っていたけれど…………とっても、かわいいね。お人形さんみたい」


「と、当然です!笑夢は若者に人気のスーパーモデルで、アイドル活動も順調な超プリティ高校生なのですから!そこにいる兄とは桁違いに人気があって、稼ぎだって笑夢の方が多いのです!」


「すごいね、圭くん。こんなにかわいい妹さんがいるなんて羨ましい」


「いや全然可愛くないですよ、主に性格が」


「…………さすが、本物の美少女は格が違う。笑夢を見る目、そして褒める言葉になんの妬みも僻みもない。心までもが美しいわ!やはり笑夢の目に狂いはなかった!……ぜひとも、笑夢のことを本物の妹のように思ってくれて良いですからね、雨音お姉ちゃん」


「お姉ちゃん……?」


「なっ……!笑夢お前何言ってるんだ!」



 お姉ちゃん……そう呼ばれるのは初めて。うちでは、時音の方がお姉ちゃんだし……。なんだかくすぐったくて嬉しいような、不思議な感覚がする。



「お姉ちゃんと呼んでは、いけませんでしたか……?」


「ううん、私妹ができたみたいでうれしいよ!本当にうれしい。笑夢ちゃん、お姉ちゃんにいっぱい甘えていいからね」


「わーい!お姉ちゃん大好き〜!」



「厄介なことになった……」




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