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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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おまけ /例の店



「先輩、相沢先輩。聞こえてますか?打ち上げの焼肉食べ放題、特別に参加してもいいですよ」


「いや、俺は遠慮しておくよ……」



 文化祭が終わって校舎の後片付けを手伝っていると、図書委員の後輩に見つかってしまった。できれば、会いたくなかった……



「どうしてですか?先輩は僕たちの模擬店、『縄』の影の功労者です。図書室出禁の分際に特別に許可をだしているのに。どうして来ないんですか?」


「君たちと関わってると思われたくないからだよ」


「今更何を言うのか。今回の図書委員の出店代表者名は、先輩の名前にしてあります。先生方には先輩が主犯だと思われてます」


「え?何それ!俺、そんなの聞いてない!」


「言ってないですから。さあ、代表者の先輩がいないと優勝賞品が受け取れないんです。早く本部に受け取りに行きましょう。みんな待ってるから早くして」


「最悪…………」



♢♢♢♢♢



 文化祭の運営本部に行くと、優勝賞品の焼肉食べ放題券を渡された。受け取った時、周りの人達に盛大に拍手されたのがとてもいたたまれなかった。

 後輩はその様子を影から満足そうに見届けていた。本当に性格が悪い。



「……そもそも、あんな意味不明な店がよく1位獲れたね」


「先輩は文化祭当日の営業には関わっていないから、詳しくは知らないと思いますけど。変な店じゃないですよ。1位を獲れたのは当然の結果です」



 後輩は図書室へ向かう廊下を歩きながら、話を続ける。



「まず、今回出店のテーマにした『縄』ですが、先輩は何故僕らがこれを選んだかお分かりですか」


「君たちの趣味だからでしょ……」


「違います。先輩も知っていると思いますが、元々僕ら図書委員の業務には、古本の整理や古紙回収などの雑用がありました。その都合で、本や紙をまとめるのに麻縄や紐なんかのストックが大量にあったんです」


「そういえばあったね」


「今回はこの資材を有効活用する方向で進めました。これで、準備にかかる費用を節約できます」



 確かに、毎年図書委員会は文化祭の準備に費やす予算がないから、適当に古本を集めて売っていただけだった。

 元々大量に保管されてある縄は数が多すぎて邪魔だとは思っていたけど、わざわざそれを使おうとは今まで誰も思いつかなかった。この後輩は案外賢い……のかもしれない。



「あとは、この縄を使ってどう稼ぐか考えるだけです。手先の器用な雌豚たちは、麻縄を編んであみぐるみやコースターなどの雑貨を作る。接客の得意な雌豚たちは、文化祭当日にワークショップで簡単な編み方や、日常生活で使える紐の縛り方などのレクチャーをする」



 後輩はスマホの写真を見せながら、図書委員会の文化祭当日の様子について教えてくれた。机に丁寧に並べられた手作りの雑貨たちは可愛くてオシャレだし、ワークショップでは客も楽しそうにコースターを作ったり、解けにくい靴紐の結び方を教えてもらったりしている。これだけ見ると、まともな出店みたいだ。

 店員の女の子たちが全員、制服に覆面と網タイツ、うさ耳装備という点を覗いては。あ、なんか縛られてる人の写真が出てきた。やっぱりまともじゃない。



「人を縛るのが得意な雌豚たちは、縛られたい者を縛る。これが適材適所です」


「やっぱり異常だよ君たち」


「そんなことないです。結構多かったですよ、縛られたい人。生活指導の先生や校長先生も縛られに来てました。やはり社会的地位の高い人や普段は厳格な人ほど、こういう快楽を求める傾向にある」


「そんな情報聞きたくないよ」


「先輩を実験台に練習したおかげで、色々とレパートリーが増えたと雌豚たちも感謝していました。その節はどうもありがとうございました」


「突然視界を塞がれて拉致されて訳も分からないまま縛られる恐怖、君には分からないだろうね」


「そういうシチュエーションを喜ぶ人も多いですよ」


「俺は嬉しくない」


「先輩には、適性が無かったみたいですね。残念です」



 あってたまるか。もう二度とあんな怖い思いはしたくない。



「ともあれ、僕たちはこうして1位になったわけです。ご理解いただけましたか」


「…………仕組みは分かったけど、腑に落ちないよ。たとえ一部の層に人気だったとしても、1位を獲るほどアンケートの投票があったとは思えないし。……何か細工でもしたの?」


「細工、という程ではないですけど。先輩、ちょっと手を借りますよ」



 そう言うと、後輩は手に隠し持っていた麻縄で俺の腕をあっという間に縛り上げた。



「こうやって手をクロスさせてから縛ると、手首を動かせる……つまり、ペンを持てる状態で固定可能です。"アンケートを書いてくれれば、この縄を解きます。"こう言ったら、皆さん快くアンケートを書いてくれました」


「脅しだ……」


「あ、ちょっと先輩。何勝手に縄抜けしてるんですか」


「なんか、この程度なら自力で抜けられるようになってしまった……」


「良かったですね。なんの取り柄もない先輩に特技ができて」


「こんな特技使う機会ないよ」


「まあ、人生何があるか分かりませんから」



 去年まではまともだった後輩がこうなってしまったのだ。言葉に重みがあって怖い。



「何はともあれ、模擬店が上手くいって良かったです。売上は図書委員会の今後の予算として使えることになってます。今まで増やせなかった蔵書を増やしたり、ボロボロだったカーテンを買い替えたりできる」



 今回の文化祭の売上は相当なものだったらしい。普段の図書委員会の年間予算の数倍を、この短期間で稼ぎあげた。色々とガタがきている古い図書室を整備する余裕なんて今までなかったから、この臨時収入は純粋に喜ばしい。



「……それに、今回頑張ってくれた雌豚たちにも美味しいご飯をご馳走できる。日頃から彼女たちには委員会の仕事を手伝って貰って、助けられていますから」



 ……後輩なりにも純粋な感謝の気持ちはあるみたいだ。元々の素直で優しい後輩の性格が、今でも残っていると分かって少しほっとした。



「優勝賞品が焼肉食べ放題で良かったです。いくら売上があっても、雌豚たち総勢60名の餌を用意するのは大変です」


「あれ、図書委員ってそんなに多かったっけ?」


「図書委員会以外にも、実に多くの有志が各々の出店を投げ捨てて手伝ってくれましたから。今回、スタッフの規模でも僕たちが1番です」



 そんな大事になっていたなんて知らなかった。もしかして、今年各所で人手が足りていなかったのはここのせい……?



「あと、オリジナルで作った人体の縛り方レクチャー本もよく売れました。写真付きなのが分かりやすくて良かったみたいです」


「…………それ俺の写真!?」


「はい、先輩を実験台に縛ってる時の写真です。大丈夫大丈夫、目元隠してるから先輩だってバレないですよ」


「そういう問題じゃない!」


「生活指導の先生と校長先生も買っていきました」


「だからそんな情報聞きたくない、ほんと最悪…………」


「先輩、焼肉食べて元気出して」


「もう嫌だ……お腹空いた……」



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