プライベート・アイズ /その2
「とはいえ。朝日が犯人じゃないとなると、一体誰なんだろう」
「あいつじゃねーの、あいつ」
朝日が教室後方のドアをチラ見する。そこには、雨音さんの彼氏である青葉七色の姿があった。ドアの陰に隠れて、覗き込むようにこちらの様子を伺っている。あの人はよく、ああやってこちらのクラスに混ざるでもなく遠くから雨音さんの行動を監視している。朝日みたいに堂々としていない分、よっぽど気持ち悪いしめんどくさいし、たちが悪い。
「えっと、七色のああいう感じとはまた別でね。なんだろう……もっとこう、影から狙われている感じで……プロの犯行みたいな……」
「駄目だ、やっぱり朝日がやったとしか思えない」
「僕じゃない。いい加減にしろよ」
「…………でもその悩み、実は雨音さんだけではないんですよね」
「どうしたんですか?まさか、佐々木さんも……!?」
「はい、そうなんです。僕の自撮りの加工技術が凄すぎて、僕を男装女子だと勘違いした粘着オタクに付け狙われて……というのは冗談で。雨音さん以外の女子からも、変な視線を感じるといったお悩みが、今年の春頃から多数寄せられているんです」
「寄せられている……?」
「ほら、僕ってお昼の校内ラジオ放送でお悩み相談コーナーをやってるじゃないですか。そこに、匿名で色々なお悩みが届くんですよ。流石に今回みたいな事件性の高い内容は、あまり放送できないんですけどね」
「そんな放送やってたんだ。知らなかった……」
「ちょっとー。相沢くんってば、聞いといてくださいよー。朝日くんの朗読コーナーもあって、女子からの絶大な人気を誇っている校内ラジオなんですよ!」
「そんなことしてたの君」
「急にこいつに頼まれて……まあ、演技の練習になってちょうどいいんだけど……そんなことより!害者は雨音さんだけじゃないってことなんだな!」
「はい、そういうことになります」
「りょーちゃんもね、この前、誰かに後を付けられてる気がするって言ってたの。一体、誰の仕業なんだろう……?」
「特定の誰かを狙っている訳ではないとなると……犯人は、無差別に女子のストーカーをしてるってこと?それって、かなり危ない人なんじゃない?」
「ああ、そうだ。つまりこれは…………事件だ!」
「朝日くん、ずいぶんとノリノリですね」
「めんどくさいことにならないといいんだけど……」
朝日は、たまに変なテンションになるというか。元々変な奴なんだけど、スイッチが入るとさらに度を超えておかしくなる。こういう時の朝日には、関わらないで熱が冷めるまでそっとしておいた方がいい。
「雨音さん、安心してください。この事件は僕たちが解決してみせます!」
「……たち?」
「ありがとう、圭くん、昴くん。……いいえ、頼もしい探偵さんたち!」
「探偵に全てお任せあれ!」
「えっ、待って。俺もなの?」
「いいか相沢!まずは聞きこみ調査だ!」
「俺に拒否権はないの……?」
♢♢♢♢♢
放課後。朝日に無理やり連れられて教室の廊下を突き進む。
どうやらこの探偵ごっこはしばらく続くらしい。
「まずは聞き込み調査って……誰を当たるつもりなのさ」
「最初は、雨音さんと同じ被害にあった人に詳しい状況を聞くのが1番だろう。となると……」
「どうしたお前ら。何か用か?」
「雨音さんのご友人である、りょーちゃんこと深見了さんに事情聴取だ」
「てか、何だその格好。……探偵?」
深見さんは、怪訝な顔をしてこちらを見ている。それもそうだ。
朝日がどこからともなく用意してきた探偵風のコートと帽子を着せられて、俺たちは今、どこからどう見ても探偵コスプレの痛い二人組になっているからだ。
「ごめんなさい、変な格好した変な男たちが押しかけてしまって……」
「別にいいけどさ。用件は何だよ」
「実は――――」
「あー……そのことか。確かに、何かおかしい時期はあったな」
「誰かに付けられていたような気がした……とのことですが。犯人に心当たりはありませんか?」
「全くないよ。あたしは普段変な奴に狙われるようなタイプじゃないからさ。あーゆーのは初めてで検討もつかない」
「うーん……じゃあ、何か気がついたこととかは?例えば、気配を感じた時間帯だとか、場所とか……」
「時間帯は朝とか、放課後とか。登下校の時が多かった気がする。だけど、昼休みとか体育の前後とかも……何かが、確実にいたような気がするんだよな」
「……校内でも被害を受けたってことは。犯人は少なくとも、この学校に入ることの出来る人間……みたいだな」
「そんな不審者が身近にいるなんて、気持ち悪いね。……深見さん。付け狙われる以外で、直接的な被害を受けたりはしませんでしたか?大丈夫でした?」
「特にはないし、大丈夫。ただ、ちょっと気になったのは……」
「シャッター音がした。頻繁に」
「これは……」
「………………盗撮事件?」




