おまけ /遊園地(後編)
「ジェットコースター、思ったよりも早く乗り終わっちゃったね。楽しかった」
「そうだな、めちゃくちゃ速かった……待ち時間もそんな無かったし……」
「七色、ふらふらしてるけど大丈夫?」
「おう……平気…………」
「ごめんね、無理させちゃって。早く時音たちのところに戻ろっか。……あれ?時音も広瀬さんもいないね」
ジェットコースターを乗り終えた俺と雨音は、時音さんと広瀬さんの2人と別れた場所に戻ってきた。この辺りで待ってくれていると思ったのだが、近くを探しても見当たらない。
「どこか行っちゃったのかな……あ、見つけた。2人であっちのほう歩いてる。おーい時」
「雨音、ちょっと待って」
「?」
「……なんかさ。今声かけるのは、やめといた方がよくない?」
「何で?」
「何でって……やっぱりさ、その……今は貴重なプライベートな時間というか……」
「?」
「と、とにかく!…………ちょっと気になるから、こっそり後をつけてみよう」
「あ、それは楽しそうだね」
◇◇◇◇◇
遊園地。それは大人も子供も無邪気に楽しむことができる魔法の場所。俺の中では、彼女と行きたいデートスポットランキング第2位だ。(ちなみに1位は、水族館である。)
時音さんと広瀬さんだって、こういう場に来たなら羽目を外せるんじゃないだろうか。あの2人は、いつも少し距離があるというか。仲は良いけど、節度を持ったお付き合いをしているという感じだ。
しかしこの遊園地で、2人で行動することになったらどうだろう。やっぱり、いつもとはちょっと違うんじゃないか?
広瀬さん、今日はオフの日らしいし。うっかり気が緩んで、時音さんといちゃつき始めるかもしれない。そしたらすかさず邪魔しに行って、盛大に冷やかしてやろう。この前の海の仕返しだ!
……そう意気込んでしばらく遠目から観察していたけれど。一向にいちゃつく気配はない。今は屋外のカフェスペースで、パラソルの下優雅にティータイム中のようだ。
その姿は、どこからどう見ても高貴なお嬢様とその執事という感じで。騒がしい遊園地とはかけ離れた、19世紀イギリス貴族の昼下がりみたいな空気がその空間には流れている。
「……雨音、あの2人はいつもあんな感じなの?」
「うん。あんな感じ」
「なんか、いつも通りというか期待外れというか……もっと他に何かないの?」
「私にそう言われても……」
「だってこれ、一応デートなんだしさ。もっとこう、冷やかせるような何かが……」
「七色は勘違いしているようだけど」
「?」
「時音と広瀬さんは、そういうのじゃないよ」
「そういうのじゃないって……え?どういうこと?」
「これは内緒の話ね。……時音は広瀬さんのことが大好きだけど、片思いなの。だから2人の関係は、あれ以上でもあれ以下でもないの」
「えっ、でも絶対広瀬さんって時音さんのこと……あれ?違うの?」
「どうなんだろうね。もしそうだとしても……私、広瀬さんに時音を取られるのは嫌だなぁ。広瀬さんには、絶対に渡したくない」
「雨音がそういう風に言うなんて、凄く意外だ……」
「レンジ爆発させちゃうような人は、やっぱりちょっとね」
「えっ?何?どういう意味??」
「そのまんまの意味だよ。時音には、こう……もっと相応しい人がいると思うの。………とりあえず、私は2人の邪魔をしに行ってくるね。おーい、時音ー!」
雨音はそう言うと、時音さんと広瀬さんのもとへ走って行ってしまった。俺も向かうか……
そういえば前に、時音さんも俺に対して同じようなことを言っていた気がする。
「やっぱ似てんだなぁ……」




