雪ちゃんと俺 /その1
「…………一真くん。私、一真くんのことが好きになってしまったみたい……」
「そんな……雨音さん、それはいけないよ。雨音さんは、七色の彼女なんだから……」
「でも私、あのスマ〇ラの熱い戦いが忘れられなくて……それに一真くんとなら私、もっと熱くて激しい別の戦いを……」
「雨音さん、それはだめだ。その一線を超える訳には……!」
「一真くん……」
「はっ!」
「何だ、夢か。……さすがにこの夢は七色に申し訳ないな」
俺の名前は鈴木一真。つい最近18歳の誕生日を迎えたばかりの、ピチピチの青少年だ。つまりはそういうお年頃だから、こういう夢を見るのも致し方ない。ちなみに言っておくが。俺は大親友の彼女を奪うなんていう趣味や願望は1ミリもないので、安心して欲しい。
先程から携帯の着信が、目覚まし時計のように騒がしく鳴り響いている。こんな早朝にモーニングコールをしてくるのは、唯一ただ一人――
「もしもし、一真くん。待ち合わせに遅れてますけど。寝坊ですか?」
「……雪ちゃん様」
「まったく。急いで来れますよね。ダッシュで」
「…………俺、今日はパスで」
「人間の急所、3つお答えください」
「…………」
「来れますよね。ダッシュで」
「はい……」
つい最近付き合うことになった、俺の彼女の渡瀬雪ちゃんである。
♢♢♢♢♢
「さすがは陸上部エース。ちゃんと本気で走れば、速いじゃないですか」
待ち合わせ場所は近所の公園。言いつけどおりにダッシュで向かうと、ランニングウェアに身を包んだ少し不機嫌そうな雪ちゃんが待っていた。
「……急所は勘弁してくれ」
「しょうがないですね。今回は許します」
「朝5時集合はさすがに眠いって……」
「学校に行く前の、早朝ランニングですから。この時間がぴったりです。さあ、今日も鍛えますよ」
「はいはい、分かりましたよっと」
「返事は1回」
「はい…………」
♢♢♢♢♢
朝の少しひんやりとした空気が心地良い。雪ちゃん曰く、今日も絶好のトレーニング日和。いつものようにランニングコースを走っていると、離れた所に何やら目立つ男女二人組を発見した。
「おや、あれは……」
「後輩の朝日くんですね。こんな早朝にランニングとは。あの美しさは、努力の上に成り立っているということですか。大したものです、好感度が上がりました。……ん?隣にいるのは、彼女さんですかね?」
「いや、あれはおそらく妹だ。そういう属性を感じる」
「属性って……それにしても。兄妹揃ってのランニングなんて、とても羨ましいです」
「雪ちゃん一人っ子だもんなー。うちの弟、一人やろうか」
「一真くんのところは、弟がたくさんいますもんね。うーん、誰にしましょう……やっぱり、三男?…………あ、そうだ。今日も一真くんのお家に寄っていってもいいですか?シャワー貸してください」
「いいけど……雪ちゃんはほんとに警戒心がないなぁ」
「?」
「まーいいや。朝メシも食っていきなよ」
「ありがとうございます。いつもすみません」
「いいってことよ」
「プロテインは私にお任せ下さい」
「雪ちゃん、混ぜるのうまいもんなぁ……」




