梅雨ですね(後編)
「ただいまー」
「……おかえりなさい、雨音」
「時音、どうしたの? 少し疲れてる?」
「ええ…………少しね。色々と、あったのよ」
「ふーん……? ん、何これ?」
「お掃除ロボ家電の、広瀬2号」
「かわいいね。広瀬さんより丁寧に掃除してる。えらい。あっ、カーペットに引っかかって……こっちだよ~、あっ、そっちは段差で危ないよ~。こっちだよ~。わー、すごい。危ない所はちゃんと避けるんだね。でもそっちに行きたいの? そっか……階段の上には、私が連れて行ってあげましょう」
『♡('▽')♡』
「わ、何か表示された」
「人工知能搭載で、コミュニケーションが取れるのよ。広瀬2号は雨音に懐いたみたいね」
「かわいい~」
「気に入って頂けて何よりです」
「あっ、広瀬さん1号だ。ただいまです」
「おかえりなさいませ、雨音様。さて、準備が整いましたので、夕食にいたしましょう。2号は床掃除でもしていて下さい」
『(-"-)』
「なんですかその微妙な表情は」
「広瀬さん、2号と喧嘩するのは大人げないよ……」
「ごめんね、2号ちゃん。うちの広瀬がご迷惑おかけします。2号ちゃんには、2階のお掃除もお任せしたいわ。2号ちゃんは、とても優秀だから……」
『♡('▽')ゞ♡』
「時音にも懐いてるみたい」
「かわいいわね、2号ちゃんは。余計なことしないし」
「………………」
「お腹空いたー、そうだ。早くご飯食べよう」
「……雨音、最初に言っておくけれど。今日ははる子さんがいなくて」
「あー、なるほどね? もう変なにおいしてきた。こげみたいな。広瀬さんのせいだなこれは~」
「それと、雨音様。しばらくレンジは修理中で使えませんので。ご了承ください」
「爆発したのよ」
「ええ……」
♢♢♢♢♢
食卓には、スープとサラダとデザートと、メインディッシュの……何かが並んでいた。
「私、こんなお料理は初めて見た。これは一体何だろう。泥みたいな……ぶ、ぶよぶよしてる……」
「見た目はあれだけどね。味は……味は私がちゃんと整えたから。火も通ってるし、たぶん大丈夫よ」
「い、いただきます。……あ。ほんとだ。味はおいしい。未知の料理……」
「旦那様の分は、冷蔵庫に入れておきますね。本日も帰りが遅いようですし」
「お父様、これ見たらびっくりするだろうなぁ……」
「……ごめんね。今日は雨音、球技大会だったから。おいしいものを作って待っていてあげたかったのだけれど、こんなことに……でも、広瀬にデザートのケーキを買ってきて貰ったから。途中で形が崩れないように……ほら、丈夫なベイクドチーズケーキ」
「広瀬さんを家から遠ざけつつ、おつかいを確実に成功させる。的確な指示だね」
「広瀬1号の扱いはとても難しかったわ……」
「……そういえば、お菓子。今年も賞品で貰ってきたから。これもみんなで、デザートと一緒に食べちゃおう」
「雨音、今年もバレーだっけ。優勝したの?」
「うん。とても熱い戦いだった。決勝戦は、クラスが離れた師匠との対決で……あ。その前に。準決勝で、師匠のクラスと、りょーちゃんとマキちゃんがいるクラスの対決があったんだけど。師匠がマキちゃんの彼氏を奪ったとかでマキちゃん、すごくて。あんなに怖いマキちゃんは初めて見た。……結局、その試合は師匠のクラスが勝ちまして。私はマキちゃんから、敵討ちを頼まれて……で、花園雨音はみんなの想いを背負いながら、得意のサーブを……打ったんだけど、それが変な方向に飛んでまた七色に」
「ふふ、楽しそうね」
「うん。楽しかった。……あ、これ。サラダは見た目もまともなんだね」
「これは私が担当しました」
「広瀬、得意気に言わないで。そんな、まるで私がメイン料理を担当したかのような言い方……もういや、本当に疲れた……」
「時音、お疲れ様」
「うん……」
♢♢♢♢♢
「お父様、おかえりなさいー」
「…………おかえりなさい」
「ああ。ただいま」
しばらくして、お父様が帰ってきた。お父様とは、つい最近まで口を利いてきなかったけれど。……近頃は、雨音と上手くやっているみたいだから。とりあえず、私はお父様を許すことにした。
……これからは私たち、本当の意味で、家族になっていけるかな。
「それで……お父様、あのね。今日はね。お料理のはる子さんがいなくて……まあ、これを見れば分かると思うんだけど」
「広瀬だなこれは……」
「味は……!味は私が整えたから、大丈夫だと思うの!あとこれ、チーズケーキ!ちゃんと広瀬が買ってきてくれたから!」
「そうか……ん? 何だこれは」
「これはね、広瀬さん2号。よしよし、充電も一人でできるんだね~えらいね~」
『♡('▽')♡』
「新しい家族です」
「あいつまた勝手に……」
「でもね、この子は……!この子は優秀なの!広瀬よりも丁寧に掃除してくれる、ほら!」
「本当だ」
「あ、それとお父様。レンジ爆発しちゃったから、修理中なんだって」
「………………」
「うーん。広瀬さん、絶対に家事向いてないよねぇ。何で執事さんやってるんだろう」
「何故だろうな」
「お父様にも分からないのかぁ……」
『( '-' )?』
「2号ちゃんは、家事に向いてるから。安心してね。あなたはこのお家の希望の星」
「ああ。頼んだぞ、2号」
『♡('▽')♡』
「お父様にも懐いたねぇ。かわいい~」




