体育祭(スマ〇ラ) /その1
「体育祭、雨で中止かぁ……」
修学旅行明けの次の週。今日は、体育祭……の予定だったけれど。朝から降り出した雨は、一向にやみそうにない。窓の外を残念そうに眺めている雨音さんの周りでは、沙亜耶さんとルーシィさんが荷物をまとめていた。
「残念だったねー。雨音、すごく楽しみにしてたのに」
「うん……」
「今日は普通の授業に振り替えのはずだが……ここは怠慢教師ばかりだからな。わざわざ仕事を増やしたくはないんだろう。一日中自習という訳だ。さて、どうせやることがないならアタシは帰るかな」
「うちも今日は買い物行きたいし、サボっちゃお~。じゃねー、雨音!」
「るぅちゃんもさーやちゃんも、帰っちゃった……」
「マイペース人間ばかりで嫌になりますね、雨音さん」
朝日は俺の机にもたれかかりながら、雨音さんに向かって話しかけている。……あれ?
「なんで君がここにいるの……」
「2年も一日中自習だからだよ」
「……それにしても、困ったものです。楽しいはずの学校行事が中止とは。せっかく佐々木が解説として活躍できる、数少ない場面なのに。出番減らされちゃいましたよ。しょんぼり」
「佐々木さんの出番はもっと減っていいと思う。一言も喋らないで」
「相沢くん、最近僕に対するあたりが強くないですか?Why?Why Japanese People?そんなに厳しくされると、僕だって黙っちゃいませんよ。次は何踊らされたいですか?カモンベイビーアメリカ?」
「もう二度と変なことしないで」
「僕この人苦手です」
「実は私も……」
「そんな悲しいこと言わないでくださいよ。そうだ。僕この前懸賞で遊園地のペアチケットが当たったんですけど。雨音さん、一緒にどうですか?」
「遠慮しておきます」
「あらら、振られちゃいました。悲しい。じゃあ相沢くん、一緒に行きましょうか」
「嫌です」
「ですよね。僕も嫌です。何が悲しくて男二人で遊園地に行かなきゃいけないんだ。……はい、ということで。浮かばれないこの遊園地ペアチケットを景品にしますから。大会しましょう、大会。もう、準備はできてます」
「佐々木さん。一応聞きますけど、何の大会……?」
「スマ〇ラに決まってるでしょうが!!」
♢♢♢♢♢
佐々木さんに無理やり連れられて、俺と雨音さんと朝日は視聴覚室へとやって来た。部屋には既に大きなスクリーンとプロジェクターが設置されている。この人、さては本気でここで遊ぶ気だな……?
「勝手にこんなことしていいんですか?」
「いいんですよ。こう見えても僕、放送部の部長なので。こんな風に視聴覚室を好き勝手できる権力があります。これが特権階級です。ひれ伏せ愚民ども。力こそパワー!」
「嫌な部長だなぁ……」
「スマ〇ラって、最新作じゃなくてDXかよ」
「当たり前じゃないですか。これこそがGC屈指の名作ですよ」
「……いや、名作はどう考えてもエアラ〇ドだろ」
「あ、七色だ。どうしてここへ?」
「なんか謎の挑戦状が入ってて……」
「俺はギ〇トピアを推すね」
「一真くんも」
部屋には、佐々木さんの仕業だろうか。隣のクラスの青葉くんと鈴木くんもやって来た。一体この謎の面子を集めて何をしようと……あ、スマ〇ラか。……それって何?格闘ゲーム?
「僕はバ〇オハザード派なんですけど」
「……みんなゲーム詳しいんだね?俺、よく分からないや。雨音さんは?」
「ピクミ〇ちゃんが好き」
雨音さんがそう言うと、青葉くんと鈴木くんは大層驚いた顔をした。
「……雨音、ゲームは分かるのか?」
「ババ抜きは知らなかったのに?」
「ゲームは1日1時間できたから……トランプはなかったけど……」
「謎の環境……」
「はいはい、とりあえず議論はそこまでにしましょう。キリがないです。名作ばかりなのでね。それにしてもみなさん、詳しいじゃないですか。世代違くない?まあいいか。じゃあ、大会にエントリーする人は、コントローラーをお持ちください。佐々木は実況しますので」
「暇だしやるか」
「私これけっこう強いよ」
「雨音さんがやるなら僕もやります」
意気揚々とコントローラーを握ったのは、青葉くんと雨音さんと朝日の3人。目の前には、あと1人分のコントローラーが残っている。……これは鈴木くんに譲ろう。
「あ……どうぞ。俺、操作とか分からないんで……」
「いやいや、これはお前がやるべきとこだろ。俺は七色の応援に来ただけだし。それにお前を含めた、この面子だから面白いんだって!」
「ええ……」
「さて、選手が揃いましたね。それでは、大会を始めましょう。優勝者には、遊園地のペアチケットを差し上げます。これが何を意味しているか分かりますね?はい。では、真の修羅場編、スタートです!」
最悪。佐々木さん、絶対に俺たちで遊んでるなこれ。他人事だと思って、この人は……!
「…………雨音、俺が勝ったらさ」
「絶対に阻止してやる!雨音さん、僕が勝ったら一緒に行ってください」
「いいよ。じゃあ、私が勝ったら昴くん、一緒に行こっか」
「えっ、俺?」
「ちょっと待って雨音それはおかしいって!!!!」
「ふざけんな相沢てめー殺す!!!!!!」
「さ、殺気が凄い……な、何故俺なの……?」
「昴くんなら絶叫系に乗っても安心な気がする。……七色は、たぶん乗れないんじゃない?」
「それはそうかもしれないけど……!」
「雨音さん、僕も安心ですから!そいつを贔屓するのはやめてください!」
「んー、でも昴くんは初心者で不利だから。私が味方ね。あと、遊園地でおいしいデザートでも食べましょう」
「あ……もしかして、あの時の。あれって有効なの?そっか……わかった、俺もがんばります」
「うん。がんばろう、昴くん」
「雨音、俺たちちゃんと復縁したよな?大丈夫だよな?俺、まだ不安を拭いきれてないんだけど……!」
「修学旅行で何があったんだよ!くそっ、雨音さん留年させとけばよかった!」
「さて、盛り上がって参りました!それでは各自、キャラクターを選択してください!あ、ちなみにステージは終点固定でお願いします!」
「七色がんばれよ~」
「絶対に負けない……!!!!」




