修学旅行編(収束)/その1
俺はつい先ほど、雨音と勢いで別れることになってしまったが。雨音のこと、好きだし……やっぱり誰かに取られるのは嫌だし……本当は、別れたくなんかない!自分から切り出したくせにアレだけど。既にめちゃくちゃ後悔している。
……これは一度冷静になるための、冷却期間みたいなものなんだ雨音。でも、もうそれは充分だよな。俺、冷静になったし。あとは、元に戻るためのきっかけとか、タイミングを掴むだけだ。
そう考えていたのに。
雨音は何故かあいつと……相沢昴とイチャイチャしている。
ど、どうして!そんな、すぐ他の男と……!?
俺、もうショックでどうにかなりそうなんだけど……!
雨音はやっぱり、ほんとに俺のことどうでもいいの!?
そんな、俺……どうすれば……!
しばらく放心状態で、物陰から動けずにいると。
……雨音と目が合った。やべっ、バレた。どうしよう。雨音が、こっちに向かってくる。
「雨音、こ、これは後をつけてたとか、一人だけはぐれて迷子になってたとか、そういうのじゃないから!偶然だから!ていうか、さっきの何、あと何その格好」
「花園雨音、最強無敵のチャイナドレススタイルです」
「…………強いの?」
「うん」
「そっか……」
「そ、そんなことより!さっきの!何なんだよあれ!まさか、いきなりあいつと付き合うとか、そんなの」
「大丈夫、安心して。昴くんは友達だから」
「……ほんとに?あれ、ただの友達?」
「特別に仲の良い友達」
「そんなんじゃ全然安心できないんだけど!?」
「では、七色は何?今の七色は、私の何なの?」
「……ただの友達です」
「違うでしょ?」
「も、元カレ……」
「…………」
「……ただのストーカーです」
「わかればよろしい」
「はい……」
雨音、なんか怒ってない?何で……?
「七色は、理解しているでしょうか」
「な、何を……」
「私を振ったのは、全世界を敵に回したのと同じだということに」
「…………え、どういうこと?」
「………………はぁ」
「ため息!?」
「七色は、ひどい。勝手すぎるよ。私の話、全然聞いてくれてない。私、七色のこと好きって言ったじゃない。それなのに、どうして信じてくれないの?どうして、別れるなんて……」
「だってそれは!雨音が俺のこと…………ほ、ほんとは好きじゃないのに、付き合ってたから……」
「じゃあ、本当の好きって何?七色はそれ、自分でどういうことかわかってて言ってるの?七色は私に、どうして欲しいの?」
「そういうところだよ!雨音は……俺がそう望んだから、付き合ってくれてたんだろ。自分の本当の意思とか、気持ちとかを……無視して…………俺のためだけに………………」
「………………はぁ」
「またため息!?」
「七色、本当に私のことわかってない。全然だめ。どうしてそうなるの。私もう、そんな生き方してないもん。なのに勝手に、決めつけないでよ」
「そんなこと言われても……」
「……国内旅行」
「!」
「また別の機会にって言ったよね。二人で一緒に行くんじゃなかったの?あれは、嘘だったの?」
「嘘じゃないよ!あの時は本気でそういうのも考えてたし!でも今は……」
「海も。また一緒に行こうって、約束したじゃない。それももう、どうでもいいの?」
「どうでもよくなんかない!また雨音と一緒に行きたいって、そう思ってる!でも結局、それも俺が望んだことで……」
「私が!!!行きたいの!!!!!」
「!」
「……私が、七色と一緒にいたいの。本当の好きとか、まだわからないけれど……七色のそばにいたいの。七色が望んだかどうかなんて、そんなの知らない。これは私が、望んでるの。私の意思なの。好きよ、七色。好き。大好き。どうしようもなく、あなたのことが好き。私、どうすればいいのかわからないよ。私は、こんなに七色のことが好きなのに……どうして、わかってくれないの……?」
「雨音……」
「わからずやの七色なんて、もう知らない!私これから」
「すみませんでした!!!!」
……素直に謝るしかない。
俺、何を不安になってたんだろう。
雨音の気持ちがよく分からないからって、勝手に焦って、空回りして。雨音のこと、全然考えてやれてなかった。雨音はちゃんと……俺のこと、好きでいてくれてたのに。俺が雨音のことを信じなくて、どうするんだよ。
「……今回のことに関しては、全面的に俺が悪かったです。反省してます。あと、普通に別れたくないです。復縁させてください」
「………………」
「な、仲直り、ということで……」
「……………………」
「仲直りの握手を……」
「…………はい」
「………………」
「………………」
雨音と固い握手を交わす。
……これで俺たち、元通りってことでいいんだよな。いつもどおり、両想いの……恋人同士ってことで!
「……雨音!」
「あ、まって。そういうのはNGです」
感極まって、雨音に抱きつこうとしたら。普通に拒まれた。
「何で……?」
「なんとなく……」
「あいつとはハグしてたじゃん……」
「七色はだめ」
「り、理不尽…………!」
やっぱり俺、雨音の気持ちはよく分からない。
♢♢♢♢♢
七色が勝手にフラフラとどこかへ行ったので……あたしとマキと一真は、後を追いかけてこっそり様子を伺っていた。
七色は、ちゃんと雨音と仲直りできたみたいだな。
「りょーちゃん、あれ……結局、ただの痴話喧嘩ってこと?」
「そうみたいだ」
「はぁ~、別れて1時間後に復縁とか舐めてんのかって感じなんですけど」
「爆速でよりを戻したな」
「心配して損した」
「だな」
「………………」
隣では、一真がやけに大人しく二人の様子を観察している。
こいつが大人しい時は……とりあえず、注意しておいた方がいい。
「一真も、ちゃんと反省しろよ。お前が関わるといつもこうだ。とんでもなく厄介なことに」
「……………………俺は認めん」
「認めんからな!!!!!!!」
「あっ、カズくん突撃していった!」
「あいつもめんどくせーんだよなぁ……」




