修学旅行編(愛と希望のチャイナドレス)/その1
「りょーちゃん、カズくん、それに七色!もう、来るの遅すぎだよ~!集合時間とっくに過ぎてるし。みんな心配してたんだから~」
「ごめんマキ。ちょっと色々あってさ」
七色と一真を回収して、あたしは集合場所へと戻ってきた。
「………………」
「えっ、七色は何でそんなにぐずぐずなの?」
これは……どう説明したものか。返答に困っていると、一真が代わりに喋り始めた。
「こいつは異国の地で迷子になって、泣き喚いてただけだから。気にすんな」
「高校生にもなって?ダサい~」
「うるせー……」
七色は一応、反論できるくらいの元気は残ってるみたいだな。
「ほら、俺たちはあっちだ。行くぞ七色」
「おう……」
一真はぐずぐずの七色を連れて、男子の集まっている方へと行ってしまった。マキは、その様子を心配そうに見ている。
「……ねぇ、りょーちゃん。七色、ほんとに何があったの?」
「…………なんか勢いで、急に雨音と別れた」
「あ……とうとうあまねっちに捨てられちゃった感じ?」
「そういうのじゃなくて、なんていうかな……あたしにもちょっとよく分からないんだ。七色の方から、雨音と距離置くって」
「ふーん。馬鹿だねぇ」
「まあ……そういう時期も、必要なんじゃないの?」
「変にこじらせなきゃいいけど。てか、このタイミングで?状況的にかなりまずいじゃん。…………七色、本当にあまねっち取られちゃうんじゃない?」
「それはあたしも言ったんだけど……それでもいい、雨音は誰のものでもない、だってさ」
「なーに、かっこつけてんだろーね」
「ほんと、馬鹿だよあいつ」
♢♢♢♢♢
「……えっ、どしたん?何でこんな空気重いの?」
一方その頃。あ、佐々木がお送りしています。
僕と雨音さんと相沢くんが集合場所へ向かうと。同じ班の沙亜耶さんとルーシィさんが僕達のことを待っていました。沙亜耶さんは、何かを察したみたいです。さて、どうしたものか。もう、重い空気はごめんです。あとは軽やかにいきましょう。
「もー、聞いてくださいよ沙亜耶さん。僕達、本当に大変だったんですよー。修羅場からの裁判からの別れ話で。これで親権とか、財産が絡んでたらもっと大変なとこでした」
「別れ話?何?雨音、七色と別れたの???」
「そういうことに……なったみたい……」
「あー、だからそんなに元気ないのね。そっかそっか。でもさ、あんま落ち込むなって。七色よりいい男は、星の数程いるんだから。いや、これはほんとまじでさ」
「交際3ヶ月で破錠とは……ま、よくあるタイミングだな」
「そうそう、るぅちゃんの言うとおり!切り替えてさっさと次ねらっていこー、次の男をさ!」
「ほら、あそこの台湾人はどうだ。それか、あっちの台湾人」
「現地人かー、さすがに遠距離は難易度高くねー?」
沙亜耶さんとルーシィさんは、いつものJKのノリで雨音さんを励まし始めました。女の友情っていいですね、なんだか微笑ましいです。
「それにしても……ひゃー、怖いですね。こんな軽いノリで次にいくんですか。女の恋愛は上書き保存とは、よく言ったものです。……で、雨音さんの次の上書き保存先は君って訳ですか、相沢くん?ヒュウ!いけ!今ならいけるぞ!やっちゃえ相沢!」
「…………」
「あらら。こっちも元気ないなぁ。……ところで、さっきからずっと気になってたんですけど。ルーシィさんと沙亜耶さんの、その素敵な格好は一体……?」
「んふふ、よくぞ聞いてくれた!解説の佐々木よ!」
視界に映ってはいたものの、あえて触れずにいた話題に突入です。
本日の沙亜耶さんとルーシィさんは、何故かチャイナドレスを着ているんですよね。どういうことなんでしょう。
「これは、沙亜耶様が昨日、夜なべして作ったチャイナドレスであるぞ!崇めるがいい!讃えるがいい!」
「これはまた素晴らしいスリットで……そしてチャイナドレスの素晴らしさを保ちつつ、フリルやリボンを交え、さらなる可愛さを追い求めた究極のデザイン……これほどの洗練された衣装を一晩で仕上げるとは……はっ!?もしかして、沙亜耶様は天才なのでは!?」
「おぬし、なかなか分かっているではないか!そうだ!天才、沙亜耶様であるぞ!ふふふん!」
「雨音の分もあるからな。着替えてこい。この無敵のチャイナドレスを着て、一緒に男を物色しに行こう」
「うん……」
ルーシィさんに衣装を渡されて、雨音さんは着替えに行っいゃいました。
雨音さん、物色しに行かなくても男ならここに居ますよーっと。
まあ、今はそれどころじゃないか。
とりあえず、雨音さんには素敵なチャイナドレスでテンションを上げてもらいましょう。せっかくの美少女が俯いていたらもったいないです。楽しまないと。
修学旅行は、まだまだこれからなのですから……!




