修学旅行編(夜)/その1
「るぅちゃん、夜ご飯も美味しかったねぇ」
「中華料理にハズレは少ないからな。なかなか良かった。それにしても、雨音は結構大食いだな」
「えへへ……」
「……さて、夕食が済んでもう自由時間だ。支度も済んだ。アタシはそろそろ出かけてくるよ」
「こんな夜にどこへ行くの?」
「少し野暮用でな。雨音は留守番してるんだぞ」
「はーい」
「あと、せっかくだから台湾人と仲良くなってくる。現地人はそこら中にうようよいるからな。夜中には、たぶん帰ってくる。たぶんな。では、行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
「…………」
修学旅行1日目も、そろそろ終わり。るぅちゃんとの二人部屋で、あとはまったり過ごそうと思っていたけれど。るぅちゃん、一人で出かけちゃった。
すごいなぁ。言葉も通じない外国で夜にお出かけなんて、怖くないのかな。私もあんな風に強い女の子になりたい。うーん、まずはガイドブックをちゃんと読んで、言葉のお勉強からしないと。今日は看板も標識も、何も読めなくて大変だった。
…………どぅーしゃおちぇん?やお?
む、難しい。
……あと、今日は朝からずっとクラスのお友達と一緒で、にぎやかだったから。一人でお部屋にいるとすごく静かに感じる。
「…………るぅちゃん、いつ戻ってくるかなぁ」
さ、さみしい……!
♢♢♢♢♢
はい。また僕です。佐々木です。夕食が済んで、各自部屋で寛いでいたところです。シャワー浴びて、明日に備えて荷物もまとめ終わりました。後は寝るだけ?いえ、まだまだこれからですよ!
「さて、ついに修学旅行の夜です。相沢くん、恋バナ!恋バナしましょう!」
「それはもう昼間終わってます……」
「…………ですよねー。それは僕も思ってました。なんでこの人、昼間からこんな話してるんだろう。それは夜まで取っておけよって」
「なんか、ごめんなさい」
「まあ、いいんですけど。他にもやることはありますし。……知ってますか、相沢くん」
「?」
「20歳の高校生は、酒が飲めるんです」
昼間売店で買って隠し持っていたアルコールたちを、やっと!登場させる時が来ました!ビールにチューハイ、ウォッカまで、よりどりみどりですよ!
「うわっ!ちょっとやめてくださいよ!バレたらどうするんですか!」
「大丈夫ですよー、これは合法です。僕は20歳なんですから。校則にも、酒を飲むなとは書かれていません」
「それはそうですけど……俺、とばっちり食らうのは嫌ですからね!」
「相沢くんが黙っていてくれれば、誰にもバレませんよ。二人部屋ですからね。はいこれ、相沢くんの分です」
「言ってるそばから!」
「心配しなくても、君のはノンアルコールです。ただの炭酸ジュース。合法ですよ、合法。一人で飲んでも、楽しくないじゃないですか。お願いします。雰囲気だけでも、ね?」
「…………」
♢♢♢♢♢
花園雨音、明日に備えて一人で静かにお勉強タイム。
……の途中で、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
こんな時間に誰だろう。あ、るぅちゃん戻ってきたのかな?
扉を開けると……るぅちゃんじゃなくて、りょーちゃんとマキちゃんがいた。
「おー、雨音。あれ?るぅはどうした?」
「るぅちゃん、どこかへ出かけちゃって……私は一人でお留守番中でした……」
「あらら。じゃあ、うちらが来てよかったねぇ。あまねっち、さみしかったでしょ~?」
「うん……来てくれてありがとう、りょーちゃん、マキちゃん」
「さーやも誘ったんだけどな。今はあれだって。被服部のあれ」
「あ~、あれね。昼間いっぱい布買ってたみたいだし……また暴走中かぁ~」
「?」
「まーとりあえず。暇だから適当に遊ぼうぜ。トランプ持って来た」
「UNOもあるよ~」
「…………友達と一緒に夜まで遊ぶ……これが、あの幻の……修学旅行の夜ふかし……!素敵……!」
「そんなに感動するとこか?」
「あまねっちかわいい~……でも、これだと少し人数少ないねぇ」
「あー、そうだな。…………誰か呼ぶ?」




