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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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修学旅行編 /その1



『では佐々木さん、お願いします』


「はい。つまり、解説いたしますと。通常、高校の修学旅行は2年次の秋、もしくは冬に行われることが多いのですが。ここは中等部もある一貫校ですからね。独自カリキュラムを組んでおりまして。珍しいことに、3年次の春というこのタイミングに修学旅行があるのです。僕は前の学校にいた時、修学旅行には行けなかったので。今回はとても楽しみです」


『解説ありがとうございます、佐々木さん。続きましては、班決めになりますが……』


「何やってるんですか……?一人二役……?」



 佐々木さんは先程から腹話術のように声色を変え、架空の人物との会話を繰り広げている。



「正解です。司会の司くんが卒業してしまいましたからね。さみしいですよ僕は。相沢くん、代わりに司会やりますか?」


「遠慮しておきます……」


「つれないなぁ。で、班決めなのですが。グループ研修時の5人組を決めないといけなくて。僕と相沢くんの他に、あと3人足りないですね。あっ、雨音さーん!そっちちょうど3人ですか?よかったー、僕たちも班に混ぜてください!」


「いいよー」


「えっ、ちょ……何を勝手に!」


『さすが佐々木!ここでファインプレーです』


「ファインプレーじゃないですよ!他の班は、みんな男子同士とか、女子同士で組んでるのに。ここだけ男女混合班は、浮くっていうか……」


「別にいいじゃないですかー、別にー。僕たちもうクラスでとっくに浮いてるんですから。今更何を気にする必要があるのか」


「えっ?それは、佐々木さんだけなんじゃ……」


 

 怖くなって周囲を見渡すと、クラスメイトたちは冷めた視線で、ひそひそと何かを言いながら僕たちを遠巻きに眺めていた。



「鈍いですね、相沢くん。君はもうとっくに道連れになってますよ」


「そんな!」


「……それに、青春は一度きりですから。遠慮してたら、あっという間に終わっちゃいますよ。全力で楽しまないと。まあ、僕は二度目なんですけどね」


「………………」



 でも、確かに……それもそうなのかもしれない。せっかくの修学旅行だから、少しくらいは楽しんでもいいのかな。それに、佐々木さんに気を遣わせてしまった気もするし……うん。俺ももう少し、雨音さんと仲良くなれるように頑張ろう。



「ふふ、修学旅行楽しみ。よろしくね、昴くん」


「……うん。よろしく、雨音さん」


「雨音さん、僕もいます僕も。よろしくお願いします」


「あ……はい!……それでさーやちゃん、行き先はどこなんだっけ?」


「台湾!地図で見るとこのへん!」


「わー、海外かぁ。未知の世界」


「あれ、僕今、地味に無視されませんでした?ん?」


「気のせいじゃないですか?」


「そうかなぁ……?」


「みんな、ちゃんとパスポート用意するの忘れるなよ」


「るぅちゃんに言われなくても、そんなの分かってるって~」


「……あれ?」


「どしたん?雨音?」


「あ…………えっと、何でもないよ」


「?」




♢♢♢♢♢




「雨音!」



 修学旅行も間近に迫ったある日。俺はあることに気がついてしまった。放課後の教室、誰もいないタイミングを伺って、俺は雨音の元へと急いだ。



「修学旅行、海外だけど……お前って、修学旅行行けるの!?パスポートって、ちゃんと貰えんの!?」


「七色、その件についてなのですが……」



 雨音は俯いてがさごそと鞄を漁る。まさか、と一瞬嫌な予感がしたものの、数秒後には雨音の明るい笑顔が見えた。



「ちゃんと申請通りました!見て、現物がこちら!」


「おおっ!」


「色々な力が働いて……私もちゃんと、日本国民みたい。パスポートの他にも、公的な書類とか、そういうものの心配はないって。ほらこれ見て、保険証。あと、住民票。それと戸籍!」


「……うん、ほんとに良かった」


「七色?」


「これで雨音が一人だけ修学旅行に行けなかったら、俺、ショックで立ち直れなかったというか。……その時は、俺も修学旅行キャンセルして、二人で勝手に国内旅行に行っちゃうのもアリかなって思ってた」


「…………それも、いいかもね」


「えっ」


「なんて、冗談だよ。それはまた別の機会にね。みんなで行く修学旅行、とても楽しみだもの」


「あ……えっと、そうだよな。それはまた、別の機会に……」



 つまりそれは。雨音は、俺と二人で旅行に行ってもいいと思ってる、ってことでいいのかな。なんか照れる。むしろやっぱり、修学旅行よりもそっちの方が良いような気が。


 ……まあいいか。とにかく楽しもう。

 約5日間の修学旅行、俺にとっても、雨音にとっても。

 きっといい思い出になるはずだ。


 たぶん……!




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