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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
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クラス替え(後編)



「それにしても、良かったです。雨音さんが無事に進級できて。本当は僕も、雨音さんと同じ学年、同じクラスで過ごしたかったんですけど……僕、束縛はしないタイプなので。ちゃんと雨音さんのことを、第一に優先しますよ」


「圭くん。その節は、大変お世話になりました」


「いえ、他ならぬ雨音さんのためですから」


「……何で君がここにいるの」


「…………」


「おはよう、昴くん」


「……おはよう、雨音さん」


 

 朝。いつもより少し早く教室に着くと、この教室にいるべきではない人物が雨音さんと親しげに会話していた。


 僕のことを不機嫌そうに睨みつける朝日圭に、同じように視線を返す。


 あいつとは、色々あって。一時期結託とかを考えたこともあったけど、それは無しになった。細かいことは……思い出すのはやめておこう。こいつとは気が合わない。いつも、すぐ喧嘩になる。



「…………」


「………………」


「…………?」


「?」


「おはよー雨音ー。ん? なにこれ。朝から修羅場?」


「おはよう、さーやちゃん」


「うわっ、後輩のめっちゃイケメンの子じゃん。なんで3年の教室にいんの?」


「圭くんとは朝、偶然会って。お家が近所だったみたい。そのまま一緒に学校に来て、そのまま何故か同じ教室に……」


「君、まだ雨音さんのストーカーしてるの?」


「ストーカーじゃない、警護だ。それに僕はもう、隠れてこそこそするのはやめたんだ。これからは堂々といく。……ということで、雨音さん。明日も朝、一緒に学校に行きましょう。せっかく近所なので、いいですよね? あと、連絡先も交換してください」


「? いいよー」


「あ、ちょっと。それはずるい……雨音さん、俺も連絡先……いいかな?」


「? いいよー」


「雨音モテモテだなー」


「ぐっもに、さーや、雨音」


「おー、るぅちゃん!ぐっもに~いえ~い」


「おはよう、るぅちゃん。ぐっもにいえ~い」


「いえ~い」



 雨音さんとさーやさん、それから、るぅちゃんさんは謎の挨拶を交わしてハイタッチをしている。朝からテンションが高い。女子高生のノリってよく分からないや。でも楽しそうだなぁ。



「ほら、昴くんも」


「えっ、俺もやるの?……い、いえ~い?」


「ナイスいえ~い。いえ~……お前は誰だ」



 るぅちゃんさんは俺にハイタッチした流れで、近くにいた朝日にも両手を向けた。けど、すぐに朝日が不審者であることに気がついたみたいだ。朝日に冷たい目を向けている。



「…………2年の朝日圭です」


「ああ、お前か。ハーフイケメンとかで調子に乗ってる……」


「調子に乗ってはないですよ」


「いや、どうかな。お前、アタシのフルネームを知っているか?」


「知りませんけど」


「立花ルーシィ。通称るぅちゃん。こう見えて、クォーターだ」


「? さーやちゃん、どういう意味?」


「うーんと、クォーターは外国の人の血が4分の1入ってるってこと」


「へー、なんかかっこいいね」


「父は日本人とアメリカ人のハーフ、母はベトナム人とロシア人のハーフだ」



 えっ?そっち?日本人の方が4分の1なの?



「それが何なんですか……」


「そしてさらにアタシは、トリリンガルだ!」


「? さーやちゃん、どういう意味?」


「トリリンガルは、3カ国語を自在に操れるってこと」


「へー、なんかすごいね」


「日本語、英語、スワヒリ語ならお手の物」



 何故スワヒリ語?どこの言語だっけ、確かアフリカ……?ロシアとベトナム要素はどこへ……?



「……何が言いたいんですか」


「ハーフイケメン?ふっ、弱いな。アタシに比べたら、何もかも!お前のアイデンティティなど、所詮その程度だ。()()()()()()()()()()


「はぁ?それが何だよ。ふざけてんのかお前?もしかして、僕に喧嘩売ってる?てめーやるならかかってこいよ、あ゛ぁ?」


「圭くん……?」


「あっ」


「朝日圭、ようやく本性を現したようだな」



 ルーシィさんは悪そうな顔でにやりと笑う。あっ、もしかして最初からこれを狙ってた?



「お……お前……!雨音さん、違うんです、今のは全然素じゃなくてこれは……!」



 慌てふためいて弁明する朝日を、雨音さんはいつもと変わらない様子でにこにこと眺めていた。



「ふふ、なんか面白いね」


「え…………?」


「……大丈夫だ。雨音は細かいことなどいちいち気にしない。ありのままを愛してもらえ。来る度に猫をかぶっていたら、お前も疲れるだろう」


「ああ、なるほど。君、今日は中途半端に猫かぶってたから、ちょっと違和感あったんだね」


「…………」


「? さーやちゃん、どういう」


「つまり、猫はかわいいねーってこと」


「? そうだねー」


「…………」


 

 朝日はばつが悪そうに咳払いをすると、俺たちに小声で話しかけてきた。



「……雨音さんに対しては、王子キャラなのは変わらないから。そこは、みんな……気にすんなよ」


「はいはい」「らじゃ~」「? はーい」


「さて、ようこそ新入り。これでお前も、ルーシィフレンズの一員だ。いつでも遊びに来い。ぐっもにいえ~い」


「…………僕はそれ、やらないからな!」


「ふっ、困った子猫ちゃんめ。お前には、ほら。猫じゃらしがお似合いだ」


「そういうのやめろ!あーもう!!ムカつく!!!!」


「ふふ、なんか楽しいね」



 ルーシィフレンズって何だろう。ちょっとよく分からないや。もしかして、俺もそれにカウントされてる……?

 それに、朝日がいつでも遊びに来るのは嫌なんだけど……まあ、雨音さんが楽しそうならそれでいいのかな。


 ……今年は賑やかになりそうだなぁ。




♢♢♢♢♢




「なんかあっち、楽しそうなんだけど……」



 雨音とクラスが離れた七色は、影から雨音のいる教室の様子を伺っている。ストーカーかよ、キモいな。



「お前も混ざってくればいいじゃん」


「そんな簡単に言うなよ、了。それに俺、ああいうノリはちょっと……」


「このままだとお前、ただのモブだぞ?」


「えっ、それは……どうしよう」




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