おまけ ホワイトデー
「ホワイトデー?」
ある日学校に行ったら、バレンタインの時にチョコをあげた人たちから、次々にお返しを渡された。
そっか、私もプレゼントを貰える日があるんだね。知らなかった。
「そういえば時音、ホワイトデーのお返しができないこと気にしてた。これのことかぁ。時音は難しい手術が終わった後なんだから、そんなこと気にしなくてもいいのに。むしろ手術の後に、そこに気が回るのがびっくりだよ」
七色は全然、そういうところに気が回らないのに……
「……あっ、そっか」
私は七色にチョコを作ったけど、それは結局一真くんのチョコになっちゃったから、七色からはお返しが貰えないんだ。そうだった。んー、なんか複雑。
そんな風に今日一日を振り返っていたら突然、携帯に電話がかかってきた。あ、七色からだ。何だろう。
何かもごもご喋って……つまり要約すると?何?
「――で、雨音、明日休みだからその……デートにでも、行きませんか?」
「あ、そういうことか。いいよー」
♢♢♢♢♢
昨日はホワイトデーだったけど、俺は何もできず。結局どうすればいいのか分からないまま終わってしまった。カズのせいだ……!
なので今日はその埋め合わせというか。やっぱりその、恋人らしく?休日を一緒に楽しく過ごそうという、そういう計画なのである。
雨音が希望した本日の行き先は、複合型のショッピング施設。うんうん。定番のデートスポットみたいで、良いのではないだろうか。雨音は雑貨店に並んだぬいぐるみを、真剣に眺めている。その中の1つを手に取っては……ん?何それ。それって何のぬいぐるみ?……オオサンショウウオ?……で、合ってる?何それ?
「今日は時音の誕生日だから、プレゼントを買って、午後のお見舞いの時間に渡しに行こうと思って。やっぱりこれがかわいい。これにしよう」
「ああ、そうか。時音さんの……えっ、ってことは、雨音も今日誕生日!?」
「あ、そっか。そういうことになるのかな……?」
「先に言ってくれよ!うわ、俺何も用意してないじゃん!」
「あんまり気にしなくていいよ。私も自分の誕生日の存在を忘れてたくらいだし」
「そういう訳には……あ、ちょっと待ってて!」
「じゃあ私はお会計してるね。あ、これラッピングお願いします。はい、リボンで大丈夫です」
♢♢♢♢♢
「はい、これ。気持ち的なホワイトデーのお返しと、それから誕生日プレゼントってことで。誕生日おめでとう、雨音」
「……ありがとう、七色」
偶然だけど、雨音の誕生日に一緒にいられて良かった。こういうのって、やっぱり大事だからな。
「今、中身見てもいい?」
「どうぞ……」
「その……雨音が気に入るかは分からないんだけど、さっきの店で見かけた時に、雨音に似合いそうだなって……」
「…………」
プレゼントに選んだのは、小花がモチーフのシンプルなネックレス。一応、悪くはないとは思うんだけど……。
「あっ、も、もしかして、付き合って初めての誕生日プレゼントにアクセサリーって、重い!?ご、ごめん俺、そういうのよく分からなくて……!」
「ううん、違うの。すごくうれしい」
「そ、そっか。よかった……!」
「…………これ、今つけてみてもいいかな」
「あ、うん、いいと思う!」
「んー…………難しい……七色、つけるの手伝って……」
「お、おう」
雨音の首の後ろに手を回して、ネックレスをつける。
雨音と距離が近くてドキドキするのと、なんだろう、ふわっといい匂いがする。意識してしまうと緊張で手が震えて、ネックレスをつけるのには少し時間がかかった。
「……えへへ、ありがとう」
「………………」
雨音は頬を赤らめて照れくさそうに微笑んだ。
……うわ、なんか。今、とてつもなく雨音が愛おしいというか。
このまま抱きしめてキスしたい……みたいな、そういう衝動が。恋人同士の……なんかそういう、いい感じの雰囲気……のような気がする。
「雨音……その…………」
「?」
「やっぱり!何でもない!うん!」
「…………?」
「まだ、時間あるしさ!あっちの方も見てこようぜ!な!」
「うん……?」
そういう気がしたんだけど、やっぱり気のせいかな!
あー、もうほんとに俺、どうしたらいいんだろう!
恋人同士のそういう関係の進め方?とか?
本当に全然分からない!
雨音もよく分かってなさそうだしな!
ぜ、前途多難な……気がする……。




