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花は君のために  作者: 須田昆武
Season2~ラブコメ編
36/132

雨音と進級 /その4

18話に繋がる話。



 圭くんと一緒に勉強を始めてから、1週間が経った。

 今日は、進級をかけた追試を受ける日。

 ……そして、時音が心臓移植の手術を受ける日。


 ドナーが見つかって、これからすぐ病院で手術になるみたい。

 私は、時音の心臓になれなかった。

 それはとても悲しいことだったけれど……これで時音は元気になって、また楽しく過ごせるようになる。

 私たちに残された時間が、あとどれくらいあるかはわからない。けれど、少しでも残された希望を、未来を。

 ……諦めないって決めたんだ。私も、そして時音も。


 時音は今、一人で戦ってる。時音なら大変な手術も、きっと乗り越えられる。側にいてあげられなくて、ごめんね。がんばって、負けないで、時音、もう一人の私……ううん、私の大切な、大好きな双子のお姉ちゃん。どうか手術が無事に終わりますように。また笑顔であなたと会えますように。



「私も、がんばらないとだね」


「……雨音!」



 教室に向かう途中で、七色に呼び止められた。

 今日は追試のある人以外、学校はお休みなのに。……七色は、わざわざ来てくれたんだね。



「雨音、今から追試だろ。これ、今回俺、何も力になれなかったから」


「お守り?」


「そう。学業成就と……あと、時音さんに健康祈願のやつと、それと、えんぴつ!番号振っておいたから、選択問題で分かんない時はこれを転がして使ってくれ。なんかもう、あとは神頼みというか。雨音にがんばってもらうしかないんだけど」


「私、ちゃんと勉強したから大丈夫だもん」


「だ、だよな。ごめん……」


「……でも、これはありがたくもらっておきます」



 七色から、神頼みセットを受け取った。

 本当は神様の力とかはよくわからないけれど……不思議だね。なんとかなるような気がしてきた。



「私も、七色と一緒にちゃんと進級したいって思ってるから。結果はどうなるか分からないけど……とにかく、がんばってくるね」


「じゃあ俺、待ってるから。……いつもの場所で!終わったら、ちゃんと来いよ!」


「うん!」




♢♢♢♢♢




 後日。集合場所はいつもの屋上。

 桜も満開で、実に晴れやかな素晴らしい天気。

 雨音の調子も良さそうだ。



「時音の手術は無事に終わりました!もうしばらくしたら、退院できるみたい」


「よかった、おめでとう」


「うん。本当によかった!……ついでに、この前の追試も帰ってきました」


「………………」


「私もまだ点数見てないから、緊張しちゃう。それでは、結果発表です」


「…………」



 これで、雨音が進級できるかどうかが決まる。

 追試を受けた3科目全てが、30点以上ならクリア。

 1つでもダメなら、留年。

 うわ、俺もすごく緊張する。




「まずは英語……38点!」


「……!よ、よし、クリアだな!」




「次は、数学…………35点!」


「来てる、来てるぞ雨音!!」




「最後は、物理!………………28」


「えっ」





「は、先生の採点ミスなので、31点!」


「っあっぶねー!!よかったー!!!!」


「進級決定だよ!」


「ほんとよかった、何でこんなギリギリを攻めたんだよ……心臓に悪い……」


救世主(メシア)様の作戦通りです」


「やっぱりあいつ信用できないな」


「そんなことないよ。圭くんがいなかったら、私こんなに良い点取れなかったもの。すごく感謝してる」


「ああ、そう……とにかく、これで雨音の進級も決まった訳だし!時音さんの手術も無事終わったし!一件落着だな!」


「試練は乗り越えました!3年生でもまたよろしくね、七色」


「おう!」



 何もかもが良い結果になって晴れやかな気持ちとは裏腹に、ふと一抹の不安がよぎる。



「……次も、雨音と同じクラスになれるといいんだけど」


「違くなるの?」


「うーん、どうだろ。分からない。クラス替えがあるから……」


「?」


「まあ、今から不安になっても仕方ないか。とりあえず、打ち上げでも行こう。雨音、何か食べたいものある?」


「…………お好み焼き!」


「よし、じゃあそれにしよう!」


「あのひっくり返すやつ、やってみたかったの」


「上手にやってくれよ」


「七色もやるんだよ?どっちがうまくできるか勝負ね」


「えー……」



 ……クラス替えくらい、大したことない。

 不安とか嫌な予感とか、そんなことは忘れよう。


 もしもクラスが違っても、雨音はあんまりそういうのは気にしてなさそうだし。たぶん、大丈夫だ。うん。俺たち、付き合ってるもんな。


 それに雨音は今、すごく楽しそうにしてるし。

 こんな感じで新学期もきっと、楽しくなるはず。

 そうだよな。



 たぶん……!




♢♢♢♢♢




「うーん……」


「七色とは、別のクラスだね」



 新学期初日。今日から俺も雨音も、高校3年生。

 廊下に張り出された新しいクラスの名簿を見ると、嫌な予感は見事に的中した。

 俺は雨音と違うクラスか。いやそれよりも。うーん……。



「でも、るぅちゃんとさーやちゃんと、あと昴くんもいるし。私はさみしくないよ」


「俺のとこはカズと了とマキ……これ、一貫生と高入生で分けられてる感じなのか?でも沙亜耶(さーや)はそっちにいるし。うーん……」


「また新しい友達もできるといいな。楽しみ」


「…………」


「あ、昴くん。新しいクラスでもよろしくね」


「あ……えっと。よろしく、雨音さん」


「…………」


「急がないと、そろそろ始業式始まっちゃう。七色も、サボらないでちゃんと出た方がいいと思うよ? ……じゃあ、行こっか昴くん」


「えっ、俺? …………なんか、ごめんね?」


「…………」



 そう言って、雨音とあいつは始業式のために体育館へと向かっていった。二人で、仲良さそうに。



「……待ってくれよ、雨音」



 確かに、俺が始業式なんてめんどくさい行事に出る訳がない。

 出る訳がないんだけど……!



「…………俺もちゃんと始業式出るって!!!」



 今回は別!

 だから俺を置いていかないでくれ、雨音!

 あと雨音の隣の!!お前、ふざけるな!!!

 そこは俺の場所なんだけど!?!?


 新学期早々、もう不安しかない。

 どうしよう……!

 今年1年、もしかしてずっとこんな感じ……?


 まさかな、まさか。

 たぶん大丈夫だよな、そうだよな、雨音。

 ははは……


 だ、大丈夫かなぁ……?



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